体調改善のためのドッグフード(心臓)の特徴

体調改善のためのドッグフード(心臓)の特徴

心疾患はガンや肺炎と並び、私たち日本人の死因ワースト3の常連ですが、ワンちゃんたちにとっても無視できる疾患ではありません。 2011年にアメリカで行われた調査において、犬の死亡原因の6位は心血管系の障害であることが分かっています(ちなみに死因の1位は腫瘍です)。 ワンちゃんが心疾患にかかった場合には、運動や気温など日常生活上の気配り、投薬治療、そして食事療法などで状態をなるべく悪化させないようにキープすることが必要となります。 ここでは、心臓病のワンちゃんのために作られた療法食にはどのような特徴があるのか、また、使用する際の注意点などについて解説していきたいと思います。

犬の代表的な心臓病

犬に最も多い心臓病は僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症は、ワンちゃんに最も起こりやすい心疾患です。 僧帽弁とは、心臓が全身に血液を送り出す際に、心臓への血液の逆流を防止する役割を持った弁の一種です。この弁は、キリスト教の僧侶(聖職者)が被っている帽子(ミトラ)に形が似ていることから、「僧侶の帽子」=「僧帽」と呼ばれます。 この僧帽弁が、加齢などにより分厚くなったりもろくなったりしてしっかり閉じることができなくなると、血液の逆流が起こります。一部の血液が心臓へと戻ってしまうわけですから、その分体内に行き渡る血液量が減少してしまいます。 生命の維持するには、全身にくまなく血液が巡らなくてはならないため、心臓は何とか血液を送り出そうと通常以上に頑張ります(これにより、血圧も上昇します)。しかし無理をすることによって次第に弱まり、頑張っても満足に血液を送り出せなくなってしまうのです。これが僧帽弁閉鎖不全症と呼ばれる病気です。

僧帽弁閉鎖不全症は、トイプードルやチワワ、ヨークシャーテリア、シーズー、マルチーズなどの小型犬に発症しやすいといわれています。また、中型犬では柴犬も好発犬種のひとつです。 犬は8才を超えると心臓の弁が分厚く変質していくといわれていますので、シニア期()のワンちゃんは特に気を付けたい疾患です。 遺伝的に、若くても弁の異常が起こりやすい犬種が、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(略称:キャバリア)です。 アメリカ獣医内科学会(ACVIM)により、犬の心臓病は軽い症状から順にA~Dという4段階のステージに分けられます(さらにその中でも「B1」、「B2」と細分化されています)。「まだ心臓病までには至らないものの、将来的に発症する可能性が高い」段階をステージAと呼びますが、全てのキャバリアはここに分類されます。 キャバリアはそれだけ心臓疾患のリスクが高いと考えられているため、特に体調の変化に注意を払いたい犬種です。

※シニア期・・・一般的には、7才以降のワンちゃんをシニアと呼ぶことが多いです。しかし、小型犬は大型犬よりも平均寿命が長い傾向にあり、「7才程度の小型犬をシニアと呼ぶには早い(まだ若い)」という意見もあります。そのため小型犬に限っては、10才を超えた辺りからシニアと呼ぶケースもあります。

症状が悪化すると心不全を起こす

心臓病には僧帽弁閉鎖不全症の他にも、三尖弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などの種類が存在しますが、いずれの心臓病も最終的には心不全という状態へ移行します。 心不全とは、無理がたたって機能が低下した心臓から血液が満足に供給されず、体にさまざまな異変が起きることを意味します。

具体的には、

  • 少し動いただけでも疲れやすくなり、息切れを起こす
  • 咳が頻繁に出るようになる(明け方や夜間、興奮時などに起こりやすいといわれる)
  • 足先を触ると以前よりも冷たく感じる
  • 腸の働きが悪くなり、食べ物の栄養や薬の成分を吸収しにくくなる(消化不良で下痢をすることもある)
  • 腎臓の機能低下により、毒素や老廃物が排出されにくくなる

などの症状がみられるようになります。 心臓から送り出された血液は、体内の各臓器を正常に動かすためにも必要です。そのため、血液が充分に届かなくなると、臓器の働きが鈍くなり、本来の役割が果たせなくなってしまうのです。

心臓病用のドッグフードは塩分量が厳しく制限されている

心臓病悪化と塩分との関係

人間も犬も、心臓病には塩分(ナトリウム)の摂取制限が必要であるといわれます。そのため、心臓病を抱えるワンちゃん用のドッグフード(療法食)の塩分量は非常に低く抑えられています。これが、心臓病用フードの一番の特徴です。

そもそもなぜ、塩分が心臓へ悪影響を与えるのでしょうか。簡単にご説明します。 塩分を摂取して体内塩分濃度が上昇すると、それに引き込まれる形で水分量も増えます。水分量が上がると血液量も増え、それを処理する心臓はフル稼働しなければならず、血圧も上昇します。 これが塩分が心臓に負担をかけるといわれる所以です。

また、塩辛いものを食べ過ぎて喉が渇くという経験は、誰にでも一度や二度はあるでしょう。ワンちゃんも同じで、塩分を過剰に摂取し喉が渇くと水をたくさん飲みます。すると体内に水分が増え、 前述した仕組みと同様のことが起こるのです。

また、塩分や水分量が増えると、胸や腹部、肺などに水分が溜まる現象が起こることがあります。この症状を、誰もが知っている言葉で表現するならば「むくみ」となります。 足や顔のむくみなどは、塩分の取り過ぎやお酒の飲みすぎなどによって私たちにもよく起こります。これらは時間が経てば自然と解消するため、あまり深刻なイメージはありません。 しかし臓器のむくみが悪化すると命に関わる事態に発展する危険性があるのです。例えば、肺に水分が溜まることを肺水腫と呼びますが、荒い呼吸やチアノーゼ(酸欠により舌が紫色に変色する)がみられる他、ひどいケースでは呼吸困難を起こし死亡することもあります。

心臓病用のフードを早期に与えることは避ける

上記のような理由から、心臓の悪いワンちゃんには、塩分の摂取制限が行われます。 種類によっても異なりますが、心臓病用フードの塩分(ナトリウム)含有量は、0.08~0.25%程度という低い値に設定されています。 愛犬が心臓に問題があるということが分かったのなら、すぐに塩分制限食を与えて、少しでも悪化を食い止めたいと思われる飼い主さんも多いことでしょう。 しかし、心臓病の初期の段階から塩分の摂取制限を行うことは推奨されていません。その理由は以下の通りです。

体内の塩分量が低下すると、レニンという酵素が分泌されます。 このレニンの作用により、アンジオテンシノーゲンという物質がアンジオテンシン2へと変化すると、副腎でアルドステロンが生産されます。このアンジオテンシン2とアルドステロンには、腎臓がナトリウムや水分を再吸収する機能を高める働きがあるのです。 水分が増えると血液の量も増加し、それらを処理する心臓はフル稼働しなければならず、血圧も上昇してしまいます。

さらにアンジオテンシン2には血管収縮作用が、アルドステロンには塩分排出を促すカリウムの排泄を抑制する作用があるため、血管中の塩分量がさらに増え血圧が上昇しやすくなるのです。 このシステムは、遥か昔に海から陸へと生活拠点を移した動物たちが、常に体液を海水と同様の状態に保っておけるように獲得したといわれています。ワンちゃんはもちろんのこと、私たち人間にも備わっているシステムです。 しかしこの仕組みがあることにより、良かれと思って行った塩分制限が、逆に心臓に負担をかけることになってしまうのです。

そのためフードによる心臓病対策は、病気の早期からは行わないことが推奨されています。 前述のアメリカ獣医内科学会(ACVIM)の分類でステージB2と呼ばれる、「心不全の状態にはなっていないが、心雑音が確認でき、エコーやレントゲン検査により心拡大が認められる状態」となってから、心臓病用のフードを利用することが一般的です。

塩分制限食はあくまでも食べ物であり医薬品ではないため、水分排出作用を持つ利尿剤よりも体調を整える効果が低いこと、即効性がないことなどがデメリットとして挙げられます。病気を治す効果はもちろんありません。心臓への負担を減らし、病状を悪化させにくくすることを目的とした食品いう位置付けで認識しておくとよいでしょう。 塩分制限食は、水分を尿として効率的に排出してくれる作用を持つ利尿剤と併用されるケースも多く、そうすることにより心臓病の悪化からワンちゃんを守る効果がさらにアップすることが知られています。

また、塩分の取り過ぎで心臓に負担がかかるとはいっても、塩分を100%カットしてしまうことのないように気を付けましょう。 人間に比べてワンちゃんたちは少ない塩分量でも生きていくことができますが、全く必要としないわけではありません。 塩分制限フードには少ないとはいえ、塩分が含まれています。そのため塩分摂取量がゼロになる心配はあまりありませんが、手作り食を与えているご家庭では注意が必要です。

タウリンが添加されているフードもある

心臓病のワンちゃん用に作られたドッグフードには、栄養素の一種であるタウリンが添加されていることがあります。 タウリンは、体内を常に一定の状態に保つ「ホメオスタシス」という作用を持ちます。 血圧の異常な上昇や下降の抑制、正常な血糖値・体温の維持など、ワンちゃんが生きていく上で最も基本となる生体の機能調節を担っている成分がタウリンなのです。

タウリンは心臓との関連性も深く、不整脈や心筋梗塞の予防にも繋がるといわれています。 一部の犬種では、タウリン不足によって拡張型心筋症の発症リスクが上がるという報告がなされているほどです。 拡張型心筋症は、心臓の筋肉の厚みが変化し、機能障害を起こす心臓疾患の一種です。特に大型犬のオスに多いとされ、呼吸困難や咳、お腹のふくらみ、活動量の低下、意識消失などの症状を呈します。 タウリン不足で拡張型心筋症が発症しやすくなるといわれている犬種には、アメリカン・コッカー・スパニエルやゴールデン・レトリーバー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、アイリッシュ・ウルフハウンドなどが挙げられます。

タウリンについては、こちらの記事で詳しく解説しています。→ドッグフードの栄養添加物(タウリン)

心臓病用のドッグフード(療法食)にみられる特徴

ここで、心臓病のワンちゃん用フード(療法食)の特徴を、簡単に整理しておきたいと思います。

心臓病用ドッグフードの特徴
塩分(ナトリウム)の量が厳しく制限されている
塩分(ナトリウム)を多く摂取すると、塩分に引き込まれて血管内の水分量が上昇します。また喉が渇くために飲水量も増えます。体内の水分量が増加すると血液量も増えるため、心臓がいつも以上に働かないと処理しきれなくなり、負担がかかってしまうのです。 こうした心臓への負荷を最小限に留めるために、心臓病用療法食の塩分量は低く抑えられています。
心臓の働きをサポートするタウリンなどの成分が含まれている
タウリンは、体の各機能調整を行うだけではなく、心臓との関連性も高いといわれている成分です。また、いくつかの犬種においては、タウリン不足による拡張型心筋症の発症リスク上昇が指摘されています。 こうした心臓に有益であると考えられる成分を含み、心臓病を患うワンちゃんの体調をサポートしてくれるのも療法食のメリットのひとつです。 タウリンの他にも、心臓の拍動の調子を整えてくれるといわれるカルニチン(アミノ酸の一種)などが添加されているケースもあります。

食事でのコントロールが難しい悪液質

悪液質になると食べてもしっかり痩せていく

心不全が悪化すると、悪液質という状態になります。 悪液質とは、食事から取り入れる栄養分よりも体が消費する分が上回ってしまい、きちんと食べていても体重が減ってしまう病態のことを指します。 ワンちゃんでは特に、耳の付け根の前周辺(こめかみ付近)が凹んでくることが特徴で、その他にも食欲不振やよく眠れないなどの症状がみられることもあります。

悪液質は、さまざまな要因が重なって発症します。 例えば、機能低下した心臓は終始忙しなく動くため、呼吸数や心拍数が増大します。その結果、安静にしていてもエネルギーが消耗していくのです。 全身を使って思い切り呼吸をしなければ酸素を満足に取り込めなくなるため、呼吸時に使う筋肉が酷使され、さらにワンちゃんの体力が削られていきます。 さらに、心不全を起こしたワンちゃんの体内で分泌されるサイトカイン)が、エネルギーやタンパク質の消費を促進させることや、前述した、腸の機能不全により栄養素が充分吸収できなくなることも原因のひとつです。

肥満は心臓に負担がかかるといわれているため、痩せることは良いことなのではないかと思われる飼い主さんもいらっしゃることでしょう。 しかし悪液質のワンちゃんは前述のサイトカインなどが原因で、脂肪量だけでなく筋肉量までが落ちていきます。筋肉量が減るということは、筋肉からできている心臓が力強く動くことができなくなることにも繋がるのです。

肥満は決して体に良い状態ではないため、持病の有無に関わらず、日頃の体重管理は大切です。しかし、心不全を起こしたワンちゃんにおいては、体重の減少は命を削る原因となります。反対に、心不全となった後に体重が増加したワンちゃんの余命は長い傾向にあるというデータも出ているのです。

※サイトカイン・・・免疫細胞が分泌するタンパク質です。腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン(IL)など、いくつかの種類が確認されています。サイトカインは免疫力の向上、ウイルスやガン細胞の増殖抑制など、体に有益な働きを持つ物質です。しかし同時に、脂肪ではなくタンパク質を使ってエネルギーを生産したり、安静にしていてもカロリーを多く消費させる作用もあります。こうしたサイトカインの働きが、病気で体力が低下しているワンちゃんにとっては悪影響となるのです。 まだ研究段階ではありますが、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)という脂肪酸にサイトカインの働きや生成を抑制する作用があることが分かってきており、これらの成分を含有した心臓病療法食の種類が増えていくことが期待されています。

悪液質を予防するためにフードを上手に利用する

悪液質に移行してしまうと、ワンちゃんの体力がどんどんと削られていき、余命にも影響が出てきます。そのため悪液質を起こさないように、心不全の段階から気を付ける必要があるのです。 一度悪液質になってしまうと、心臓病用のフードを使っていても体調のコントロールは困難です。 しかしその前段階であれば、フードにできることも少なからずあります。

悪液質は栄養失調の状態と同じです。そのため、心不全の段階からなるべく高栄養の食事を与え、体重や筋肉量の低下を防ぐ必要があります。目安としては、ワンちゃんの体重1kgにつき60kcal程度の摂取が適切であるといわれています。 いくら栄養を摂らせたくてもワンちゃんが食事を食べてくれなくては意味がないため、いくつかのフードの中から、最も食い付きの良いものを選ぶことも重要です。 また、筋肉のもととなるタンパク質もしっかりと摂取させ、筋力の低下も防がなければなりません。 雑食寄りの肉食といわれるワンちゃんたちは、植物よりも肉類のタンパク質を効率良く消化吸収し、利用できます。タンパク源には肉類が豊富に使われているフードを選んであげるようにしましょう。 ただし腎臓病などが合併しているワンちゃんに対しては、タンパク質の摂取が制限されるケースもあるため、獣医さんによく確認することが大切です。

まとめ

心臓病は一度発症すると長く付き合っていくことになる疾患であるため、獣医さんと協力しながら対応していくことになります。 塩分制限食に関しては獣医さんの間でも、「食べさせた方がよい」という意見や、「通常のドッグフードにもそれほど塩分が入っているわけではないため、いつもの食事で大丈夫」という意見など、さまざまな見解が存在します。 制限食を与えるメリットとデメリットを把握した上で、最終的に決定するのは飼い主さんです。 もしも塩分制限食へと切り替えることを選択したとしても、早すぎては逆効果であり、タイミングの見極めは困難です。獣医さんとしっかり相談をすることにより、愛犬に最適な時期に、病状に適したフードを選んであげることができるでしょう。

注意

※この記事の内容は、様々な「心臓病用ドッグフード」の銘柄の特徴をまとめたものです。
商品によって特徴は多少異なりますので、すべての皮膚病用フードに上記の特徴が当てはまるわけではありません。