ドッグフードの素材(とうもろこし)

ドッグフードの素材(とうもろこし)

小麦や米と並んで「世界三大穀物」と呼ばれるとうもろこし(トウモロコシ)は、ドッグフードへの使用頻度が非常に高い食材です。 ペットショップやスーパーなどで購入できるポピュラーなドッグフードには、たいていとうもろこしが使われています。

とうもろこしにはさまざまな種類がありますが、私たち人間が主に食用としているとうもろこしは、スイートコーン(甘味種)やポップコーン(爆裂種とも呼ばれる品種名です。これを加熱してお菓子のポップコーンが作られます)と呼ばれる品種です。

対してドッグフードへ頻繁に使われているとうもろこしの品種は、デントコーン(馬歯種)や、フリントコーン(硬粒種)です()。 デントコーンは牛や豚といった家畜用の飼料、コーンスターチやバイオエタノールの原料にも用いられます。 デントコーンは成長するにしたがって、糖がデンプンへと変わり、甘味が薄く味気なくなってしまいます。そのため、(コーンスターチ以外では)デントコーンが人間の食用となることはありません。 フリントコーンも家畜用飼料や人用の加工食品などへ利用されていますが、粒が硬いため粉末状にして使用されます。

とうもろこしを使ったドッグフードや、とうもろこし自体をワンちゃんに与えることには賛否両論あります。 とうもろこしはワンちゃんにとって「消化が悪い」、「栄養価が低い」という話を聞いたことがある飼い主さんも多いのではないでしょうか。 実際のところ、とうもろこしはワンちゃんに適した食材なのかどうか、詳しくみていくことにしましょう。

※価格は高めになりますが、一部のドッグフードには、スイートコーンなどの甘くて柔らかい品種が使われていることもあります。メーカーのウェブサイトやフードパッケージをよくチェックしてみてください。

人間が食べない部位は犬にとっても消化性が悪い

一般的に、「犬は植物性食品であるとうもろこしの消化が苦手である」とよくいわれます。 確かにとうもろこしは、ワンちゃんにとってそれほど消化性のよい食べ物ではありません。

とうもろこしの消化性は、部位によっても異なります。 まずは下の写真をご覧ください。 とうもろこしの全体を覆っている緑色の皮は、バスケットやコースター、人形などの制作に利用されるほど頑丈で、しっかりとした質感を持ちます。 硬く張りのある手触りからも分かる通り、ワンちゃんの消化には適していません。

皮から伸びている「ヒゲ」と呼ばれる茶色い絹糸(けんし)は、とうもろこしの雌しべです。 絹糸は、利尿作用や炎症抑制、血糖値低下などのさまざまな効果があるとされ、中国では漢方として用いられている部分です。 日本でも、細かく刻んで料理に使ったり、「とうもろこしのヒゲ茶」として飲まれることがあり、これらを愛犬に与えている飼い主さんもいらっしゃいます。 そのため、しっかりと消化できるワンちゃんに与える分には問題のない部位であると考えられますが、もしも下痢や軟便が見られる場合には控えた方がよいでしょう。

とうもろこしの芯は加熱しても硬く、消化不良を起こしやすい部分です。下の写真でいうと、普段私たちが口にする黄色い粒(種子)に囲まれた茶色い部分が芯に当たります。 ワンちゃんが大きめの芯を飲み込むと、腸に詰まってしまうリスクもあるため、愛犬の誤飲にも要注意です。 とうもろこしの芯はお茶にしたり、スープのダシとして用いると良い味が出るといわれ、有効活用されている部分ではありますが、そのままガリガリと食べる人はいません。基本的に、私たちが日頃食べない部分は、ワンちゃんたちにも与えないようにしましょう。

また、完全な雑食性を持つ人間と比べて肉食性の強いワンちゃんたちにとって、私たちが平気で食べている種子の周りの薄皮も、消化しにくい部分に入ります。 薄皮には、不溶性の食物繊維がタップリと含まれています。 不溶性食物繊維は便のかさを増して腸壁を刺激し、排泄を促したり、緩めの便を適度な硬さに調節するなど、ワンちゃんのお腹に嬉しい働きを持っている成分です。 また、腸内の老廃物や有害物質を巻き込み、便と一緒に排出し、腸内をきれいにすることにも貢献してくれます。

しかし、食物繊維は人にとっても犬にとっても消化しにくい物質でもあります。 愛犬に、薄皮が付いたままのとうもろこしの粒を与えた場合、消化されずに黄色い粒がそのまま便と一緒に出てきてしまうこともあるでしょう(これは人間にもみられることがあります)。量を多く与えた場合には、消化不良を起こし下痢をする可能性も考えられます。 飼い主さんはとうもろこしを薄皮ごと食べていても、ワンちゃんに与える際にはしっかりと取り除き、中の黄色い種子だけをあげるようにしましょう。 もちろん、事前にしっかりと火を通して柔らかくしておくことも大切です。

ワンちゃんの消化不良は、私たち飼い主の注意で防げるケースが多々あります。 「自分たちが大丈夫だから、愛犬にとっても平気だろう」と考えず、「私たちとワンちゃんたちの体の作りは違うのだ」ということを常に意識することが大切です。

とうもろこしの栄養価について

とうもろこしの主成分は炭水化物

とうもろこしの主成分は炭水化物です。とうもろこし100g当たりには25gもの炭水化物が含まれています。 炭水化物はワンちゃんの体や頭を動かすためのエネルギー源となる、大切な栄養素です。 しかし炭水化物の摂り過ぎはエネルギー過多となり、使われなかった分が体に溜まって肥満の原因となることもあります。 とうもろこしをメインとしたドッグフードや手作り食を愛犬に与えているご家庭は、注意が必要です。

安価(1㎏当たり1000円以下程度が目安です)なドッグフードの場合、原材料の1番目にとうもろこしの名前が挙がっていることが多々あります。 通常、パッケージの原材料欄は、配合量の多い原材料から順番に記載されています。とうもろこしがトップに書かれているということは、そのドッグフードにはとうもろこしが最も多く含まれていることを意味しているのです。 とうもろこしの含まれているドッグフードが全て悪いというわけではありません。問題なのは、その含有量です。 詳しくはメーカーや商品によって異なりますが、一般的に原材料欄の1番目から3番目当たりに記載されている食材は、そのドッグフード中に特に多く含まれている傾向にあります。 原材料欄トップから3番目の間には、ワンちゃんの体に適した素材である肉類や魚類の名称が多く表示されているフードを選ぶようにしましょう。

とうもろこしに含まれるタンパク質

必須アミノ酸の含有量が少ない

ワンちゃんにとって大切なタンパク質は、とうもろこしにも含まれている栄養素です。 とうもろこしからコーンスターチ(とうもろこしのデンプン)を製造する過程で分離されるタンパク質を乾燥・粉砕し、粉状にしたものをコーングルテンと呼びます。 コーングルテンは「コーングルテンミール」などと表記され、多くのドライドッグフードに利用されています。 動物性食品の匂いや味を好むワンちゃんにとって、コーングルテンは決して嗜好性に優れた素材ではありませんが、肉や魚と比べて安価なタンパク質源として広く用いられているのです。

ワンちゃんの好みに合わないということ以上に問題となるのが、とうもろこしのタンパク質には、肉類には豊富な必須アミノ酸の含有量が少ないということです。 必須アミノ酸とは、ワンちゃんが生きるためには不可欠であるものの、体内で合成できない(もしくは合成できても要求量に満たない)ために、食品などで外部から摂取することが不可欠(=必須)であるアミノ酸の総称です。 ワンちゃんの必須アミノ酸は10種類ありますが、この中のトリプトファンリジンなどはとうもろこしにはあまり含まれていません。 トリプトファンは、粘膜や皮膚の健康を保つために欠かせないナイアシンの原料となるアミノ酸です。 また、神経伝達物質の一種であるセロトニンもトリプトファンから作られ、ワンちゃんの気持ちを安定させます。トリプトファンをしっかりと摂取させることにより、犬の凶暴性が抑えられたという研究報告も上がっているほどです。 そのため、トリプトファンが不足すると、皮膚トラブルが起こったり、ワンちゃんの精神が不安定となるリスクが高まります。

ナイアシンの詳しい働きについては、こちらの記事をご確認ください。→ドッグフードの栄養添加物(ナイアシン)

一方リジンは、体内におけるタンパク質の合成を促して細胞の修復を速めたり、ブドウ糖を効率よく処理して脳へのエネルギー源として利用するために働きます。 ワンちゃんが元気に毎日を過ごすためには欠かすことのできないアミノ酸がリジンなのです。

総合栄養食記載のあるドッグフードであれば、仮にとうもろこしがたっぷりと含まれていたとしても、その他の原材料からトリプトファンやリジンも摂取できるように設計してあるでしょう()。 しかし、手作りフードなどを与えている場合には、とうもろこしをメイン食材として利用していると、ワンちゃんの体にとって必要不可欠なこれらのアミノ酸が不足するリスクがあります。

※総合栄養食のドッグフードとは、そのフードと水だけを与えていれば、犬が生きていく上で必要な栄養素が全て賄える成分設計になっている商品を指します。そのため、ワンちゃんの必須アミノ酸も必要最低限の量は含まれていると考えられます。これに対して、「一般食」や「副食」記載のあるフードは、全ての栄養素の種類や必要量がカバーされているわけではありません。そのため、それだけを食べさせていると、栄養素の偏りや不足が生じてしまいます。一般食や副食は、メインの食事とは区別して、トッピングやおやつとして与えましょう。

体内での利用率が低い

また、とうもろこしのタンパク質は、体内で利用されにくいという弱点もあります。

タンパク質はその種類によって、体内でどの程度有効利用できるかが変わってきます。 これを生物価という値に当てはめると、肉類の中でドッグフードのタンパク源として最も多く利用されている鶏肉は74、それに対してとうもろこしは59程度です。

生物価の数値は、大きければ大きいほど、体の中でタンパク質が無駄なく利用できることを表しています。 とうもろこしの生物価「59」の意味は、食事から摂取したとうもろこしを100と考えると、その内の59%のタンパク質が利用できるということです。 では、残りの41%はどうなるのかといえば、もったいないことですが体に活用されることはなく、便と一緒に排出されてしまいます。

使われずに排出されてしまうタンパク質の割合と、便の量は当然比例します。 もしも、とうもろこし主体のドッグフードを食べている愛犬の便がたっぷりと出る場合には、フード中のとうもろこしの量が多すぎて、ワンちゃんが上手に利用できていないという可能性も考えてみてください。 他の素材(生物価が高く、ワンちゃんの消化器官にも適している肉類や魚類がベストです)をメインとしたドッグフードに変えてみて、便の量が減るようであれば、そのフードはしっかりと体に利用されているという目印になります。 とうもろこしを始め、食品をどの程度まで消化吸収、利用できるかは、ワンちゃん一頭一頭の体質や体調によっても異なります。 ほんの少しのとうもろこしでも消化できずに排便量が増えたり、下痢をする子がいる一方、ある程度の量を食べても便の状態が良好な子もいるでしょう。 愛犬がどのようなタイプかを見極めて、最適なフードを選んであげてください。

ビタミンB群や葉酸、モリブデンは豊富

とうもろこしは、ワンちゃんの体にデメリットばかりあるわけでもありません。 健康に有益な栄養素も豊富に含まれているのです。 特に、ビタミンB1やビタミンB6、葉酸、モリブデンなどの含有量が高いことが特徴です。 それぞれの栄養素の特徴を簡単にご紹介します。

ビタミンB1

ビタミンB1は、炭水化物が体内で代謝され、エネルギーへと変換される時に必要となる栄養素です。 炭水化物は体内で分解されてブドウ糖へと変化します。ブドウ糖といえば、脳を働かせるために特に重要な燃料となります。すなわちビタミンB1は、ワンちゃんの体と頭の正常な働きに欠かせない栄養素なのです。 とうもろこしは炭水化物の含有量が多い食品ですから、豊富な炭水化物を効率よくエネルギーに変換できるようにすることは非常に重要です。とうもろこしとビタミンB1は、非常に相性の良い組み合わせだと考えられます。

ビタミンB1に関するその他の働きについてはこちらをご覧ください。→ドッグフードの栄養添加物(ビタミンB1)

ビタミンB6

ビタミンB6は、食品から取り入れたたんぱく質をアミノ酸へと変え、再び体が利用できるタンパク質へと作り変える過程で働く酵素を助ける働きを持つ補酵素です。 タンパク質を無駄なく速やかに再合成することをサポートしてくれるビタミンB6は、ワンちゃんの丈夫な血液や肉、筋肉、皮膚や被毛などを作り、健康的に維持するために大切な栄養素なのです。 またビタミンB6は、タウリンやカルニチンなどの体内合成にも関与しています。 タウリンは、犬の体の恒常性()を保つ栄養素であり、カルニチンは脂肪をスムーズに燃焼させてエネルギーへと変えることで、肥満予防にも貢献する成分です。 ビタミンB6が不足すると、これらの栄養素が満足に作られなくなり、欠乏する可能性が高まります。

ビタミンB6に関する詳細はこちらで詳しく解説しています。→ドッグフードの栄養添加物(ビタミンB6)

※恒常性・・・血圧や体温の異常な上昇や下降を抑制し、外部環境(気温の変化など)に左右されず、常に一定の状態をキープする体の働きのことです。恒常性は別名「ホメオスタシス」とも呼ばれます。

葉酸

ビタミンB9やビタミンMと呼ばれることもある葉酸は、ビタミンB群の仲間です。 ビタミンB12とともに正常な赤血球を作り出す働きを持つ葉酸は、抗貧血因子とも呼ばれます(赤血球が不足すると巨赤芽球性貧血という症状を発症するため)。

葉酸は、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)などの合成にも関わります。 デオキシリボ核酸は別名を「生命の設計図」ともいい、生物の体のどこをどう組み立てるかといった情報が詰め込まれた遺伝物質です。そしてその情報を下敷きにして、体の合成に必要なタンパク質を生み出す働きを持つ物質がリボ核酸です。 葉酸がこれらの遺伝物質を作り出すためにも、ビタミンB12が必要となります。そのため葉酸は単独ではなく、ビタミンB12とセットで摂取させることが大切です。

葉酸について、詳しくはこちらの記事をご確認ください。→ドッグフードの栄養添加物(葉酸)

モリブデン

血液を合成したり、老廃物の代謝を促進する酵素の働きをサポートする栄養素がモリブデンです。 具体的には尿酸()や脂肪を体内に溜まりにくくしたり、鉄分を効率よく利用できるようにすることで、健康な血液の生成を助けてくれます。 ただし2018年1月現在、モリブデンの働きについては全てが解明されているわけではありません。 モリブデンはワンちゃんの健康を維持するために必要な栄養素ですが、ほんのわずかな量で事足りる微量ミネラルに属しています。

※代謝できない尿酸が溜まると、痛風が誘発されます。人間とは異なり、ウリカーゼという酵素によって尿酸が分解されるワンちゃんは、痛風にかかることはありません。そのため、モリブデンの尿酸代謝の働きだけに限っていえば、あまり必要性のないものです。ただし、ダルメシアンは遺伝的に尿酸を分解できない体質であり、尿酸の値にも気を配る必要があります。

まとめ
とうもろこしは、ワンちゃんにとって消化しにくい食材であることは事実ですが、ビタミンB群や葉酸、モリブデンなど健康に役立つ栄養素も豊富に含んでいます。 とうもろこしにアレルギーを起こすワンちゃんを除けば、犬の体にとって害のある成分が含有されているわけでもありません。 ご家庭で調理したとうもろこしの香ばしい匂いに大喜びするワンちゃんも多いことでしょう。 そうしたワンちゃんたちに、適量のとうもろこしを食べさせることは、悪いことではありません。 「消化に悪い」、「栄養が摂れない」と悪く言われがちなとうもろこしですが、与える部位(薄皮を除いた黄色い種子の部分のみを与える)や量に気を付ければ、愛犬にとって嬉しいおやつにも、栄養供給源にもなるのです。 とうもろこしは、決して犬にメインで食べさせる食材ではありませんが、適度に含有されたドッグフードを用いること、ご家庭で調理したとうもろこしを普段のごはんへトッピングすること、おやつ替わりに少量与えることなどは問題ありません。 ワンちゃんの食事にとって、とうもろこしはあくまでも脇役です。メインディッシュには肉類や魚類をたっぷりと使ったフードを選び、栄養バランスの取れたごはんを食べさせてあげましょう。