ドッグフードの着香料(ミルク系フレーバー)

ドッグフードの着香料(ミルク系フレーバー)

食品に香りを付ける香料のひとつに、ミルク系フレーバーがあります。 ミルク系フレーバーにはさまざまなタイプがあり、ミルクだけではなく、チーズやバター、ヨーグルトなど、色々な乳製品風の香りづけが可能です。 ワンちゃんたちにはミルク好きな子が多いため、ドッグフードに使用することで嗜好性の向上が期待できます。 犬用のおやつに頻繁に添加されているミルク系フレーバーについて、ご紹介します。

ミルク系フレーバーの用途と使用目的

犬は食べ物の好みをニオイで判断する

ワンちゃんは、私たち人間の約100万倍から1憶倍もの優れた嗅覚を持っている生き物です。 「ニオイ」や「香り」は、犬たちにとって、物事の大きな判断材料となります。 家の中や散歩道で、何か珍しいものを見つけると、とりあえずは顔を近付けて匂いを嗅いでみる、というのはワンちゃんのお決まりの行動です。 特に、人工的なわざとらしい香りよりも、汗や血液、体臭、排泄物などの動物臭に代表される、自然界にもとから存在するニオイへの感覚が鋭敏であるといわれています。 犬の祖先であるオオカミや野生下の犬たちは、獲物を狩り食べることによって生きています。 狩りの際に獲物の位置を特定するためには、血液や排泄物のニオイが大いに役立つことでしょう。 自然界のニオイに敏感であることは、狩りの成功確率、さらには自らの生存率の向上に繋がるのです。

もちろんこの習性は、人間の手で育てられているワンちゃんたちにも受け継がれています。 犬は、自分の目の前にある食品が「食べられるものか」、「体に害のあるものではないか」、「自分の好みに合うかどうか」、などといった情報を、ニオイを嗅ぐことによって判別します。 ワンちゃんが「食」の判断基準の中で最も重要視するのは「ニオイ」なのです。

犬用おやつからオモチャまで、ミルクの香りは大人気

ニオイに厳しいワンちゃんたちのお眼鏡にかなうようにと、各ドッグフードメーカーは、さまざまな香料をフードに配合しています。 ドッグフードに使用される香料は、肉や魚の香りのするフレーバーや、イチゴやバナナといったフルーツ系のフレーバーなどさまざまです。 その中のひとつに、ミルク系フレーバーがあります。 適度な脂肪感のある動物性の風味を好みやすいといわれるワンちゃんたちにとって、ミルクはまさに嗜好にピッタリと合致した食材です。 ミルクそのものだけではなく、チーズやヨーグルトなど乳製品全般に目がないワンちゃんも多いことでしょう。 ミルクの香りをフード類に使用することで、ワンちゃんの食い付きアップの効果が期待できるのです。

そのため、ミルク系フレーバーを添加している商品は数多く、犬用のビスケットやクッキー、卵ボーロ、ゼリー、アイスクリームなど甘い風味のおやつから、チーズやヨーグルト、牛肉や鶏肉のジャーキーといったミルクの香りと縁のないようなフードまでもが販売されています。 また、離乳期の子犬向けの粉ミルクや、乳糖を分解済みの犬用ミルクなどに、本来持っているミルクの香りを強めるために香料が配合されるケースもあります。 粉ミルクに限らず食品は、乾燥や加熱などの加工段階で、香りが弱くなったり変質してしまうことが多々あります。そうした風味を補うためにも、香料は使用されるのです。 香りの弱い食品に対して、香料で香りを加えてあげることを、「香り」を「補う」と書いて「補香」といいます。

食べ物以外では、歯磨きペーストや噛んで遊ぶおもちゃ類にミルクの香りがつけられているケースもあります。 もともと香りを持たない物質に、香りを付ける行為は「着香」です。 嗜好性の高い香りをつけることによって、歯磨きに早く慣れさせることができる(また、歯磨き中のストレス軽減にも繋がります)、長時間集中して噛む(遊ぶ)ことができるといったメリットが期待できます。

フレーバーのマスキング効果

このように、ドッグフード類に香りを付ける一番の目的は、「犬の嗜好性を向上させるため」です。 しかしその他にも、フレーバーの役割はあります。 それはマスキングです。 ワンちゃん用フードの中には、犬の健康を考えて多くの栄養素が配合されていることがあります。 ワンちゃんの主食となる総合栄養食はもちろんですが、卵ボーロやクッキー、ゼリー、歯磨きガムなど、「おいしく食べて栄養補給をしましょう」とうたったおやつ類もたくさん販売されています。 栄養素の種類は、鉄やカルシウムなどのミネラル、各種ビタミン類、食物繊維、アントシアニンなどのポリフェノールなど多岐に渡りますが、これらの成分は時に苦みや粉っぽさ、薬臭さなどの原因となることが欠点です。 こうした望ましくないニオイや味をカバー(マスキング)して、食い付きの低下を防ぐためにも、香料が用いられることがあります。 ただし、ワンちゃんは、多くの成分のニオイが入り混じった中から、それぞれのニオイを嗅ぎ分ける能力に長けた生き物です。 そのため、マスキングにごまかされることなく、不快なニオイを感じ取とり、食べ物に口を付けない可能性も考えられます。

余談ですが、マスキングという手法は、人間用の食品類にももちろん採用されています。 犬よりも嗅覚は劣るものの、味覚が発達している人間用食品に対しては、香りだけでなく、「甘い」、「酸っぱい」といった味をつけることによってマスキングを行うこともあります。 その中でも、最もマスキングに適しているといわれるのは、「ピーチ(桃)」の濃厚な甘さと香りです。

さらに、あまり良いイメージのない「苦み」を持つ香料がマスキングに使用されるケースもあります。 それは、グレープフルーツの香料です。 グレープフルーツの爽やかな苦みは万人受けしやすく、甘いおやつや清涼飲料水に入っていても違和感がありません。 人は成長するにつれて、コーヒーやビール、ピーマン、ゴーヤ(ニガウリ)などの苦みの中に美味しさを見出すことができるようになります。そのため、ほのかな苦みを持つグレープフルーツの香りも、特に大人から好まれています。

香料の種類とミルク系の香りについて

天然香料と合成香料のメリット・デメリット

ミルクの香りは、ブタン酸エチルやアセトン、硫化ジメチル、フェニルアセトアルデヒド、バニリン、フルフラール、アルカン酸など、いくつもの香気成分から構成されています。 搾乳する動物の種(牛やヤギ、ラクダなど)や種類(牛であれば、ホルスタイン種やジャージー種、ブラウン・スイス種など、その動物種の中での分類)、動物の育った地域、どのような餌を食べているかなど、さまざまな要因によって香気成分の組成は変化し、それぞれのミルクの香りの個性となるのです。

上の写真はホルスタイン種の仔牛、下の写真はジャージー種の大人の牛を写したものです。 牛の種類は、ミルクの味や香り、濃さに影響を及ぼします。サラリとしていて飲みやすいホルス タイン種のミルクに比べ、ジャージー種からは、脂肪分の多い濃厚な味のミルクが搾乳できます。

ミルク系フレーバーは、こうしたさまざまな香り成分を組み合わせることによって、自然なミルクの風味を再現しています。 フレーバーに使われる香料は、自然界の動植物から取り出した天然香料と、香気成分を化学的に作り出した合成香料とに分けられます。

天然香料

約600種類が存在する天然香料は、家畜の乳や肉、魚介類、果物や野菜、ナッツ類、ハーブなどの植物の花や葉、茎など、さまざまなものから抽出されています。 もともと自然界に存在し、食用とされることも多い動植物から得られる香料であるため、「安全性が高い」、「香りがわざとらしくない」、「健康的」といった良いイメージを消費者に与えやすいというメリットがあります。 しかし、季節や天候、産地などによって原材料の品質にバラつきが生じやすいうえに、豊作・不作などの影響を受けやすいというデメリットもあります。 原材料の品質の差は香りの差に直結しますし、不作の年には価格が高騰する、必要量が確保できないといったリスクもあるでしょう。 常に一定の価格で安定した量の原材料を確保することが難しい天然香料は、合成香料に比べてコストがかかるというデメリットを持つのです。

合成香料

石油などを人工的に合成することで、香気成分を再現した香料が合成香料です。 合成香料の種類は天然香料よりも多く、2018年4月の時点において、なんと2500種類から3000種類が作られているといわれています。 合成香料のほとんどは、自然にもとから存在する香気成分と同様の構造を持っています。 これらをさまざまなバランスで調合することによって生み出される香りの種類は膨大であり、「自然界の香りの中で再現できないものはない」とまでいわれているのです。 しかも、ごくごく一部ではあるものの、自然にはみられない組成の香り成分も作り出されており、これからさらに種類が増えていく可能性も大いに考えられます。

天然香料のように、外的な環境に左右されることなく一定の品質で製造できる合成香料は、生産コストも安く、各メーカーにとっては非常に利用しやすい香料です。 合成香料のデメリットは、「合成」という人工的な響きや、石油原料や除去しきれない不純物への不信感など、マイナスイメージを持たれやすいということでしょうか。

また、フレーバーを用いて香りを加えるだけでなく、ミルクが本来持っている香りを強める方法が用いられるケースもあります。 動物性リパーゼ(脂肪分解酵素)により、ミルク中の乳脂肪を分解することによって、もともとの香りを際立たせることができるのです。 さらには技術の進歩により、狙った脂肪酸のみを分解することで、チーズやバターのような香りに変化させることも可能となっています。

チーズやバターの香りもミルク系フレーバーの一種

ミルク系フレーバーの中には、ミルクそのものの他、チーズやバター、ヨーグルト、生クリーム、練乳など、さまざまな香りが存在します。 また、それぞれのフレーバーの中でもニオイの傾向が細分化されており、食品に応じて使い分けられていることが一般的です。 ミルクとチーズ、バターを例に挙げ、各フレーバーの傾向を少しだけご紹介します。

フレーバーの香りの系統と特徴
香りの系統 香りの特徴
ミルク系
  • 最も一般的な、高温殺菌処理された通常のミルク(牛乳)の香り
  • 甘さを感じさせる濃厚な香り
  • 脂肪分の多いクリームのような香り
  • 牧場で飲む搾りたての(非加熱の)ミルクの香り
チーズ系
  • クセが少なく、コクのあるゴーダチーズの香り
  • 酸味の強いチェダーチーズの香り
  • 好き嫌いが分かれやすい、ブルーチーズの濃厚で強烈なニオイ
  • マイルドな酸味と爽やかさを併せ持つ、カッテージチーズのような香り
バター系
  • 新鮮な生乳を使った作り立てバターのフレッシュな香り
  • 焦がしバターにみられる香ばしい香り
  • 発酵バター(※1)のような濃厚でコクのある香り
  • サッパリとしていて酸味が強めの、非発酵バターの香り

※1 発酵バター・・・クリームに乳酸菌を加えて、半日程度発酵させてから作られるバターです。発酵させないバターと比べて、コクが強く、豊かな風味を持ちます。バター発祥のヨーロッパではポピュラーですが、日本では非発酵バターが主流です。

濃厚な香りとコク、強い塩気を併せ持つブルーチーズです。濃い緑色をした部分は、青カビです。チーズは、発酵の度合いによって香りの強弱やクセの有無が異なるため、同じ種類のチーズであってもさまざまな表情が楽しめます。
こちらはカッテージチーズです。脂肪分を取り除いたミルクから作られるため、カロリーが低くタンパク質はたっぷりのヘルシー食材です。濃厚なブルーチーズとは対照的に、やや酸味のあるサッパリとした風味を持ちます。

乳製品の香りには、ざっと見ただけでも、これだけの違いが存在します。 さまざまな香料を混ぜ合わせることによって作られたミルク系フレーバーは、こうした多様な香りを再現しています。 乳製品に香りをつける際には、動物の乳の中に含有される成分と同様の組成を持った香料を使用することが一般的です。 しかし、甘ったるいミルクの香りを出したい時には、ナッツ類(ココナッツなど)の香気成分を配合したり、乳脂肪のようなとろみやコクを与えるために食用オイルを使用したりするケースもあります。 すなわち、乳製品を全く使わずに作られたフードを、まるでミルクが入っているかのような風味に仕上げることも可能なのです。 乳製品にアレルギーを持つワンちゃんは、乳成分の入ったフードを食べることはできませんが、乳製品由来の原料を一切使わずにミルクの香りを再現したフードであれば、アレルギーを心配することなく食べることができます。

フレーバーの配合はオーダーメイド 

ミルクの香りをつけるための香料の種類や配合バランスは多種多様であり、一概に述べられるものではありません。 フレーバーは、香料メーカーが、各フードメーカーの各商品ごとに配合を変えて作るオーダーメイドが一般的です。 そのため、「ミルク風味の歯磨きガム」とひとくちに言っても、さまざまな「ミルクの香り」が存在するのです。

香りは、食品の強力なアピールポイントのひとつとなります。 同じ素材で同じものを作った場合、どうしても同じような色、形、大きさ、味になりがちです。そのため、商品をライバル会社と差別化するためには、香りが有効に働くのです。 特にニオイにこだわりの強いワンちゃん用のフードにとって、香りづけは重要な要素です。 フードの香りによって愛犬がよく食べてくれれば、私たち飼い主は、「次もまたこのフードを買おう」と考えるでしょう。 しかし、ワンちゃんが好まずに残してしまった場合、「以前買ったメーカー製のフードの方が良かった」と思い、リピーターになることはありません。 そのため、各メーカーでも、フレーバーには特に気を遣っており、その配合バランスなどもトップシークレットとして公表してはいないのです。

どのフードにどのような香料が使用されているのかをチェックしようとしても、フードパッケージには記載されていないことがほとんどです。 食品における香料の表示は、どんなに多くの成分をブレンドした香料であっても、「香料」の2文字のみで表示することが認められています。 これはドッグフード、人間用の食品ともに同様です。 これにはふたつの理由があります。 ひとつには、香料は多くの成分から構成されているため、それをいちいち列記することは、かえって購入者の混乱を生みだす原因となる可能性があるという理由です。 もうひとつは、食品類に使われる香料が、摂取した犬や人の健康に害を及ぼすリスクが低いからという理由です。 香料は天然物の香りの模倣が主な目的であり、その使用量はごくごく少量で事足ります。 1種類の食品に使用される香料の量は、平均で約1ppm~10ppm以下です。 「parts per million(パーツ・パー・ミリオン)」の頭文字をとった「ppm」という単位は、100万分の1意味しています。

さまざまなタイプのフレーバー

カリカリのドライフードや子犬の歯にも優しいウエットフード、サクサクのビスケット、プルンとやわらかいゼリー、粉末状に加工されたミルクなど、ワンちゃん用フードにはさまざまな食感や形状を持った商品が存在します。 高温で加熱する必要のあるドライフードやビスケットもあれば、冷やして固めるゼリーもあります。 ウエットフードのように、素材本来の食感を生かしたものから、しっかりと乾燥させるジャーキーまで、原材料や水分量、加工方法もそれぞれです。 香料は、このような多種多様な食品に馴染み、しっかりと香りづけができる品質が求められます。 どのような素材や調理法、温度にも対応できるよう、香料にはいくつかのタイプが用意されているのです。

粉末香料(パウダータイプ)

高温調理をしても香りが残りやすく、長時間持続することが特徴です。 デンプンやゼラチン、デキストリンなどを使用し、香料を乳化(※2)させてから水分を飛ばし、粉末状に加工することによって作られます。

※2 乳化・・・反発し合う物質同士を、混ざり合いやすい状態へと変化させることです。例えば、水と油は本来相性の悪い物質ですが、油の表面を水に馴染みやすく変質させることによって、ふたつの物質を均一に混ぜ合わせることが可能となります。シャンプーや洗濯用洗剤など、汚れを落とす商品は、乳化の原理を利用したものです。

エッセンス系香料(水溶性香料)

香り立ちがさわやかで、着香料にありがちな「わざとらしい香り」になりにくいというメリットがあります。 生クリームや凍らせる前のアイスクリームなど、とろみのある原材料にも均一に馴染み、温度の低い食品に使用してもよく香ります。その反面、熱に弱いことがデメリットです。 香料をグリセリンやアルコールに溶解させたものです。

オイル系香料

強い香りと持続性の高さが特徴のフレーバーです。 熱に強いため、クッキーやビスケットなどの焼き菓子や、キャンディーなど、高温で加熱する必要性のある食品に適しています。 「オイル」と名のつく通り、香料と植物性油脂を混ぜ合わせることによって作られます。

乳化香料(エマルジョン)

食品に、ふんわりとした、やさしい香りをつけたい時に用いられます。 香りだけではなく、乳酸菌飲料などにみられる「濁った色味」をジュース類につけることも可能です。 製造方法は、乳化剤や安定剤を用いて香料を乳化させ、水と混合します。

このように、各香料は、香り立ちや香りの強さ、耐熱性、親水性などに個性があります。 フードメーカーは、それぞれのドッグフードに合わせて最適なタイプの香料を選択し、香りづけに利用しているのです。

まとめ

子犬からシニア犬にまで人気のミルクの香りのフレーバーは、ワンちゃん用のおやつに幅広く使用されています。 フード類に使用されている香料はごく微量であるため、ワンちゃんの健康に対して悪影響を与える可能性は低いと考えられています。 しかし、香料に使用されている原料にアレルギー反応を起こすワンちゃんが出てこないとも限りません。 法律で認められているとはいえ、構成成分が全て表示されていないという現状も、消費者の不信感や不安感をあおる一因となっています。

それ以前に、そもそも食品に香りを加えるという不自然な行為に不安感や違和感を持ち、「素材そのままの香りを生かした、安心なフードを愛犬に食べさせたい」と考える飼い主さんも大勢いらっしゃることでしょう。 また、人工的なニオイを嫌がって、香料使用のフードに対して食い付きの悪いワンちゃんもいます。 犬用おやつの中には、原材料の香りがそのまま残るように、素材や調理法に留意して製造された「無香料」の商品もたくさん販売されています。 「犬の体に必要のない成分はできる限り避けたい」と考える場合には、無香料のフードを選んであげましょう。