ドッグフードの栄養添加物(塩化ナトリウム)

ドッグフードの栄養添加物(塩化ナトリウム)

塩化ナトリウムを構成しているナトリウム(塩)は、人間にもその他の動物にとっても欠かすことのできないミネラルです。ワンちゃんも、もちろん例外ではありません。 以前は、犬に塩分は必要ないという説が常識のように信じられていたこともありましたが、犬の健康のためにはナトリウムを摂取させることも大切なのです。 塩化ナトリウムは、ドッグフードの素材となる肉や野菜、穀物類だけでは賄いきれない分のナトリウムを補給するために利用されています。 ここでは、塩化ナトリウム、そして塩化ナトリウムから摂取できるナトリウムについて解説します。

塩化ナトリウムというミネラルについて

塩化ナトリウムは食塩の主成分

塩化ナトリウムは塩素(Cl)とナトリウム(Na)からできている化合物であり、化学式ではNaClと表記します。 などと書くと小難しい物質のように感じられますが、塩化ナトリウムとは、私たちの非常に身近な食品である「」のことです。 正確にいえば、一般的に売られている食塩には、塩化カリウムや硫酸カルシウムなどいくつかの物質も含まれているため、純粋な塩化ナトリウムというわけではありません。しかし、そのほとんどは塩化ナトリウムから構成されているのです。

四方を海に囲まれた日本で暮らす私たちにとって、馴染み深い塩といえば、海水を利用して作られた塩(海塩)ではないでしょうか。 しかし、世界中で使用されている塩の三分の二は、岩塩から製造されています。 岩塩とは、地層の奥深くに存在する塩の結晶から成る層のことです。 地殻変動によって陸地に囲まれてしまった海水が干上がると、塩の結晶が表出します。その上に、長い年月をかけてゆっくりと地層が形成されていき、岩塩層ができあがるのです。 日本には岩塩層が存在しないため、日本産の岩塩はありません。

ナトリウムは犬の必須ミネラル  

塩化ナトリウムは、ミネラルの一種であるナトリウムの補給を目的として、ドッグフードに添加されています。 ナトリウムは、ワンちゃんの体にとって不可欠な栄養素です。 ナトリウムのように、生きるために欠かせないミネラルを総称して必須ミネラルと呼びます。 必須ミネラルはさらに、体内にどの程度存在するか、1日にどれくらいの量が必要かなどによって、多量ミネラルと微量ミネラルに分けられます。 とはいっても、2018年3月現在において、この分類基準は明確には定まっておらず、大まかなものです。 ナトリウムは、カルシウムやカリウム、マグネシウムなどと同じく、多量ミネラルに分類されています。

長いこと、「犬は汗をかいて塩分を排出しないから、ナトリウムの補給は必要ない」という説が根強く信じられていました。 しかし、多くの研究を通じて判明した、「ワンちゃんの健康維持のためには、ある程度のナトリウムが必要である」という考え方が、次第に広がり始めます。

確かに人間は汗とともにナトリウムを排出しますが、さらに多くのナトリウムを排出する行為があります。 それは、排尿です。 汗腺に乏しいワンちゃんが、汗の量が少ない生き物であることは事実ですが、尿は人間と同様に排泄します。 しかもワンちゃんは、摂取しすぎた塩分を尿として速やかに処理してくれる優秀な腎臓を持っているのです。 もしも、ナトリウムを100%カットした食事を犬に与え続けたとしたら、尿から排泄されていく一方で、 確実にナトリウムの欠乏症(ナトリウム不足の症状については、「ナトリウムの欠乏は犬の行動や体調に影響を及ぼす」にて後述します)が起こるでしょう。

野生の犬は、捉えた獲物の肉だけを食べるわけではありません。内臓や骨、血液も口にします。 これらの部位を食べることによって、ナトリウムが自然と摂取できるのです。 しかし、ドッグフードには肉の部分しか使われないことが一般的です。 ナトリウムは細胞から構成されているあらゆるものに含まれるミネラルであるため、肉類や魚にも多少のナトリウムは含有されています。また、野菜や穀物類にも含まれますが、その量はわずかです。 そのため、フードに配合した食材だけではナトリウムの不足が心配される場合には、塩化ナトリウムが添加されます。

ナトリウムは細胞の活動に不可欠

動物が生きるためにはナトリウムが欠かせないことや、塩分と水分だけあればある程度の日数は生きていくことが可能であるという話は広く知られています。 しかし、塩分がなぜ生命の維持に大切なのか、体内でどのような働きを持つのかを、じっくりと考えたことのある方は少ないのではないでしょうか。

ナトリウムの最も大きな働きは、細胞の外側と内側の水分バランスをキープすることです。 これは、ナトリウム単独でできることではなく、もうひとつのミネラルであるカリウムと協力し合って行われます。 細胞の外の体液にはナトリウムが含まれ、内側の体液にはカリウムが主に含まれています。 細胞内外の均衡が保たれることによって、食品から摂取した各種栄養素がスムーズに取り込まれ、細胞が正常に働くことが可能となるのです。 「ナトリウムが少ない」、「カリウムが多すぎる」など、2種類のミネラルバランスが崩れると、細胞が本来の役割を果たせなくなります。 ご存知の通り、動物の全身は細胞から構成されています。その細胞の働きが落ちるということは、体の至る所に不調が現れ、生命の危機にも直結するということです。 これが、ナトリウムが生きるために不可欠であるといわれる理由です。

ナトリウムは、脳が発した命令を各器官に伝達したり、皮膚刺激を脳に伝える働きも持ちます。 この作用にも、カリウムが関係しています。細胞の中と外に存在するナトリウムとカリウムが入れ替わって電気信号が生まれることにより、情報の伝達が行われるのです。 こうした仕組みのお陰で、筋肉が伸縮し、スムーズに体を動かすことができます。また、何かを触った際に「硬い」、「ザラザラしている」、「冷たい」といった質感を判断することも可能になるのです。

さらに、ナトリウムは、消化液である胃酸の構成成分にもなります。 胃酸となったナトリウムは、ミネラルを取り込んだり、タンパク質を分解したりと、栄養素の消化吸収のために活躍します。

ナトリウムの過剰と欠乏

ナトリウムの欠乏は犬の行動や体調に影響を及ぼす

体内に貯めておくことのできるナトリウム量は限られていますので、食べ物などを通して毎日摂取することが大切です。 NRC(The National Research Council)(※1)によると、体重が1kgのワンちゃんに必要な1日分のナトリウム量は、0.242g(最低値)であるといわれています。 とはいえ、犬の必要塩分量については、まだまだ医学的根拠に乏しく、専門家の間でも意見が分かれているのが現状です。 各ドッグフードメーカーにおいても、それぞれ考え方が異なり、ある程度のナトリウムを含有したフードや、極力ナトリウムを排除したフードなど、さまざまな種類が販売されています。 しかし、一般的には、必要な栄養素が満たされている総合栄養食を与えられているワンちゃんであれば、ナトリウム不足の心配はあまりないといわれています。

心配なのは、手作りフードを食べさせているご家庭において、「犬の体に塩分は良くないから」と、徹底した塩分制限を行っているようなケースです。 この場合、愛犬に深刻なナトリウムの欠乏症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。 また、長期的に下痢や嘔吐が続いているワンちゃんの場合、便や吐しゃ物と一緒にナトリウムが出て行ってしまうため、体内のナトリウム濃度が低下するリスクがあります。

※1 NRC(The National Research Council)・・・米国科学アカデミーの調査研究部門です。The National Research Councilの頭文字を取って、NRCと呼ばれます。さまざまな研究機関で行われた実験データを収集し、評価を行う組織です。1974年に、ワンちゃんの栄養基準を発表して以来、数度の改定を行っています。もともとは、家畜飼料に対する研究評価からスタートした団体です。

体内にナトリウムが不足すると、ワンちゃんに以下のような症状がみられます。

自分や人を頻繁に舐める

ワンちゃんは、ナトリウムが足りなくなると、不足分を補おうとして自分の毛や皮膚(足先・肉球など)を頻繁に舐めるようになります。 また、飼い主さんを始めとした人間の手を盛んに舐めるようになることもあります。これは、手にかいた汗の中のナトリウムを摂取しようとする行為です。 中には、土の中に含まれるナトリウムを摂り入れようと、土を食べてしまうワンちゃんもいます。

食欲が落ち痩せる、消化不良を起こす

前述通り、ナトリウムは胃液の成分ともなるため、欠乏すると消化液の分泌が少なくなります。 胃液の減少により、食欲が減退したり、食べ物がうまく消化できなくなるなどの症状が出ます。結果的に栄養が充分に吸収・活用できず、体重の減少が起こるのです。

尿の回数が増える、下痢や嘔吐をする

ナトリウムが不足すると、ワンちゃんの体は血液中のナトリウム濃度をアップさせようと、水分を体外へと排出し始めます。その結果、尿を出す回数が増えたり、下痢や嘔吐を繰り返すようになります。

成長が遅くなる

ナトリウムは、栄養素の吸収に不可欠なミネラルです。 そのため欠乏すると、体中に栄養素が十分に行き渡らなくなり、子犬の発育にも影響を及ぼします

神経の過敏や気力の減退がみられる

神経の伝達にも関与するナトリウムの不足は、ワンちゃんに精神的な不安定さをもたらします。 少しの刺激に過剰に反応する、その反対にボーっとして、何に対しても興味を示さなくなるなど、さまざまな精神症状が現れます。

腎臓や心臓にダメージを与えるナトリウム過剰症

ナトリウムとカリウムのバランスが崩れることは、動物にとっての一大事、いわば命の危機です。 そのため、ワンちゃんの体の中では常に、ナトリウムとカリウムが適量に保たれるよう調整が行われています

まず、食事として取り入れたナトリウムと同じ量だけ、体内のナトリウムが排泄されていきます。これにより、ナトリウム濃度が過剰とならないようにコントロールされているのです。 反対に、体内のナトリウム濃度が低い、ごはんの中にナトリウムがわずかしか含まれていないといった場合には、ナトリウムが尿から出ていかないように調節され、また、体内でナトリウムの再吸収が行われます。 このような仕組みのお陰で、ワンちゃんの体はナトリウムの過剰症から守られているのです。 とはいえ、ナトリウム量の調節にも限度があります。毎日毎日、塩気の濃い食事を与え続ければ、ナトリウムの過剰症が起こることは避けられません。

ナトリウムの摂り過ぎで起こる症状は以下の通りです。

消化不良や下痢を起こす

塩辛いものを食べた後にのどが乾くのは、私たち人間もワンちゃんも同じです。 体内のナトリウム濃度が増えると、ワンちゃんは大量に水を飲むようになります。すると、胃液が薄まり、消化不良や下痢などを起こしやすくなるのです。 それでも食べ物を消化しようと頑張り続けた胃は、次第に疲れ切っていきます。 疲弊した胃は炎症を起こしやすくなり、ガンの発生に繋がることもあるというデータが多くの実験から得られています。

心臓や腎臓の病気になりやすくなる

ナトリウムを尿として排出する役割は、腎臓が担っています。 そのため、ナトリウム過多になると、過剰分を排泄するために、普段以上に腎臓が働かなければなりません。 また、上昇した血中の塩分濃度を薄めるために、血液の中に水分が増えます。 増量した血液を処理する器官は心臓です。当然、こちらにも負担がかかります。 腎臓や心臓が酷使された結果は、腎機能の低下や心不全などとして現れる可能性があります。

まとめ
塩化ナトリウム及び、ナトリウムについてご説明しました。 ナトリウムは、犬の生命を維持するためには不可欠なミネラルですが、心臓病や腎臓病など一部の疾患を抱えているワンちゃんには害となるケースもあります。 とはいっても、闇雲に塩分制限を行えばよいというものではありません。各々の病状や体調に合わせて最適な時期や制限量を見極めることが大切です(※2)。 心臓や腎臓に問題を抱えるワンちゃんをケアするためのドッグフード(療法食)も販売されています。この療法食の種類にも色々とあり、ナトリウムの含有量が制限されていることは共通していますが、具体的な量やその他の栄養素のバランスはさまざまです。 こうしたフードにいつ頃切り替えるのか、種類はどれがよいのかなども、細かな調整が必要となります。 愛犬にこれらの疾患がある場合には、獣医さんとよく相談し、アドバイスをいただきながらフード選びをすることが大切です。

※2 例えば、心臓病にかかったからといって、あまりにも早い段階(心雑音は聞こえるが、心室の拡大は確認されていない段階など)から塩分を制限してしまうと、かえって心臓に悪影響を及ぼすことが分かっています。また、病気が悪化した状態であっても、必要最低限の塩分は摂取する必要があります。