ドッグフードに関する法律の内容と問題点

ドッグフードに関する法律

私たちが普段口にする食品は、「食品衛生法」によって安全が守られています。
それでは、ワンちゃんの口にする「ドッグフード」に関する法律はあるのでしょうか。

日本で初めてドッグフードに関する法律ができたのは、2009年のことです。
案外歴史が浅いと感じた方もいるのではないでしょうか。
実は2009年に「ペットフード安全法」が施行されるまで、日本には国内で販売するドッグフードを規制する法律がなかったのです。

そのためドッグフードに、ゴミ同然の原材料や大量の添加物が使用されていても、法による規制手段が存在しなかったためにメーカーはやりたい放題であったということです。
その現状を打破するべく、犬猫の食の安全を守るために生まれたのが、「ペットフード安全法」です。

ペットフード安全法について(概要)

ペットフード安全法の概要

それでは、日本初のドッグフードに関する法律である「ペットフード安全法」とは、どのようなものなのでしょうか。

簡単にいえば、「ペットフードの安全に関する規制を行い、ペットの健康を守る」ための法律です。

ペットフード安全法は、ペットフードの製造、輸入、販売を規制することで、その安全性を確保することを目的としています。
ペットフードの安全性を高めることによって、動物の愛護に貢献します。
そのためにこの法律では、製品の生産・流通過程を明らかにするために原料や製造、表示に関する規格が定められています。

正式な法律名は、「愛がん動物飼料の安全性の確保に関する法律」といい、この「愛がん動物」は犬と猫を指しています。

農林水産省と環境省の共管によって、この法律は2008年の6月に公布され、翌年2009年の6月1日より施行されました。
ペットフードに関係する法律は、このペットフード安全法が日本で初となります。

法律制定に至るまでの経緯

それまでは存在しえなかったドッグフードに関する法律が、突然定められることになったのはなぜでしょうか。
当然、きっかけとなる出来事がありました。
それは、2007年に北アメリカを中心に起きた、世界的なペットフードのリコール(回収)事件です。

アメリカの大手ペットフード会社の販売したドッグフードに、メラミンという化学物質が混入し、それを食べた犬猫が次々に健康被害を訴えました。
これにより死亡した犬猫は、アメリカ国内のみでも2000匹以上といわれています。
これを受けてメーカーは、6000万個の製品を自主回収することとなりました。

事件はアメリカで起きましたが、日本も全く無関係ではありませんでした。
該当するドッグフードは、日本国内にも輸入されていたからです。
販売業者の自主回収によって実害は免れましたが、当時は日本の法令による規制手段がありませんでした。
そのため、問題解決や原因究明は業界内の自主的な取り組みにゆだねられることになりました。

こういった経緯から、「国内にはペットフードを規制する法律そのものがない」という事実が浮き彫りになり、不安が高まりました。
そこで日本国内のペットフードの安全を守るために制定されたのが、「ペットフード安全法」なのです。

この法律ができたことで、ペットの身体に悪影響を及ぼすペットフードの製造や輸入、販売は禁止され、表示方法にも取り決めが定められました。

ペットフード安全法について(詳細)

対象となる動物

それでは、この「ペットフード安全法」はどういった動物に適用されるのでしょうか。
「ペットフードの安全」というと、すべてのペット(動物)が該当するように思えますが、実はそうではありません。
この法律によって安全が保障されるのは、「愛がん動物として飼われている犬猫の食べるもの」のみです。
条文内の「愛がん動物」とは、ペットとして飼われている犬や猫のみを指し、小鳥やウサギなどは含まれません。
そのため犬猫以外のペットフードに関しては、規制をするための法律が存在しないのが現状です。

また、たとえ犬猫であっても、調査・研究目的で使用される実験動物は愛がん動物には含まれませんので、その飼料は法律の対象外になります。
牛や豚などの家畜についても同様です。

愛がん用 実験・調査用
犬・猫 ×
ウサギや小鳥など
その他の小動物
× ×
豚や牛などの家畜 × ×

法律の適用:あり…○ なし…×

対象となるフード

ペットフード安全法の定義するドッグフードが、すべて法律の対象となります。
それでは対象となるフードは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

ペットフード安全法は、ドッグフードの定義を「愛がん動物の栄養に供することを目的として使用されるもの」としています。
これは、ペットフード公正取引協議会の定めるものとは少々異なります。

ペットフード公正取引協議会の定義では、おもちゃ用の犬用ガムや天然水、加工を施さない生肉などはドッグフードに含まないとしていますが、ペットフード安全法の場合はこれらもドッグフードに含むとしています。

ですので犬用ガムや生肉にも、この法律は適用されることとなるのです。

定義について詳しくは→ドッグフードの定義を分かりやすく解説

基準・規格の設定

ペットフード安全法では、消費者に適切で十分な情報を提供するために、以下の5項目を必ず表記しなければならないとしています。

ペットフードの名称

ペットフードの商品名です。
重要なのは、「犬用なのか猫用なのか、はっきりと記載しなければならない」ということです。
商品名が「ドッグ○○」や「キャット○○」の場合はそのままでも問題ありませんが、商品名からは何用かが伝わりにくい場合は、必ず商品名のほかに「犬用または猫用」と併記しなければなりません。

原材料名

原則として、使用した原材料および添加物をすべて記載することになっています。
原材料表示の順番に関してはこの法律では規制はしていませんが、「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」においては使用料の多い順と定められており、ペットフード安全法もそれが望ましいとしています。
添加物以外原材料は、個別名の代わりに分類名で記載することも可能です。
また、個別名と分類名の併用もできます。

しかし、原材料に含まれる添加物の表示は任意とされており、「キャリーオーバー()」が可能であるのも現状です。
例えば原材料にチーズを使用した場合、「チーズ」と表記することは義務ですが、チーズを作るうえで使用された添加物(乳化剤など)の記載は任意ということです。

※キャリーオーバー…加工食品を製造するうえで、原料に使用されている添加物がそのまま加工食品に残ること。

賞味期限

製品ごとに定められた方法で保存した場合において、期待されるすべての品質が十分に保持できる期間を「賞味期限」と定めています。
そしてペットフード安全法では、この賞味期限を「年月日」または「年月」で記載することを義務付けています。
「日月年」のように順番を変えて表記する場合は、消費者に誤解を与えないように注意書きなどを併記する必要があります。

事業者の名前

ペットフード安全法により、ドッグフードのパッケージには「事業者の名前」を記載することが義務付けられています。
製造を行う者は「製造業者」または「製造者」、輸入する者は「輸入業者」または「輸入者」、販売する者は「販売業者」「販売者」と表記します。

原産国名

ペットフードを製造した国を記載します。
複数の国にまたがる場合は、製品の最終加工が完了した国を原産国とします。
最終加工を完了した国とは、「実質的な変更をもたらす行為が最終的に行われた国」のことです。
例えば、ドライタイプの場合は押し出し成型工程(エクストルーダー)、ウェットタイプならばレトルト殺菌加工を施した国、焼き菓子タイプならば焼成工程を行った国を原産国とします。
原材料の調達などは外国でも、最終工程を日本で行えば「国産」のドッグフードとして販売できるということです。

「ドッグフードの袋を開けて小分けにする」などの作業は製造工程に含まれませんので、日本で詰め替えのみを行っても、「国産」とは表記できません。

以上の表示を記載することが、ペットフード安全法では定められています。
しかし実際のドッグフードにはそのほかにも、内容量や給餌方法に関しても書かれていますよね。
これは、公正取引協議会の認定を受けた「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」にも表示に関する規約が定められているためです。
実際の製品に表示される項目は、ペットフード安全法のものと合わせて9項目になります。
公正競争規約の定める必須表示事項は、以下の4つです。

成分

粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分、水分の重量比がパーセントで示されます。
例:粗タンパク質20%以上、粗脂肪5%以上、粗繊維6%以下、粗灰分9%以下、水分12%以下

ペットフードの目的

基準にしたがって、「総合栄養食」、「間食(おやつまたはスナック)」、「その他の目的食」のいずれかを記載します。 「その他の目的食」は「一般食(おかずタイプ)」、「副食」、「栄養補完食」、「カロリー補給食」、「特別療法食」のように記載します。

それぞれの基準や定義については、以下の記事を参考にしてください。

ドッグフードの種類「総合栄養食」とは?メリットと注意点
ドッグフードの種類「間食」とは犬のおやつ!与える際の注意点は?
副食タイプのドッグフードは犬のおかずとして与えよう
ドッグフードの種類「栄養補助食」とは?使い方と注意点
ドッグフードの種類「特別療法食」とは?与え方には要注意

内容量

正味量をg(グラム)またはkg(キログラム)などの単位で表示します。

給餌方法

主に一日に与える量や回数を表記します。
ドッグフードの目的や、与える犬の犬種・年齢・体重などによって量や回数は変化しますので、具体的かつ詳細に表記することが好ましいとされます。
表などを用いて見やすくしているものもあります。

事業者の責務

ペットフード安全法で定義されている「事業者」は、製造業者・輸入業者・販売業者ととされています。
これらの事業者には、ペットフードの安全を守る責任があります。
もし万が一危険なペットフードが出回った際は、ペットの健康を害する前に迅速に回収を行う必要あります。

ペットフード安全法の問題点

2007年のアメリカの事件を受けて、日本でつくられたペットフード安全法ですが、まだまだ法律としての抑止力は弱いといいます。ほとんど意味がないのではないかという意見もあるほどです。
それはいったいなぜでしょうか。
一見問題のなさそうに見えるこの法律ですが、実は思わぬところに抜け穴があるのです。

原産国名の表記に抜け穴がある

原産国名の表記方法に関しては、ペットフード安全法では「最終加工工程が終了した国」を記載することになっています。
この原産国名の定義は非常に曖昧で、消費者を混乱させる原因にもなってしまいます。

例えば「国産」と表記されて売られているドッグフードがあったとします。
消費者である飼い主さんは、「原材料の調達から加工まですべて日本で行った」と考えるのが自然だと思います。
しかし実際には、ドライフードならば「押し出し成型工程」を、ウェットタイブならば「レトルト殺菌加工」を日本で行ってしまえば「国産」と記載することができるのです。
つまりどの国で手に入れたかも分からないような原材料を、日本国外で加工していたとしても、最終加工が日本で行われていれば「国産」という表記が可能であるということです。

これでは「原産国名」に関しては、いくらでもごまかしがきくことになってしまいます。
安全なドッグフードを購入するために原産国を参考にするのに、肝心の表記のルールがこれでは、手の打ちようがありませんよね。
しかしこうした記載方法をよしとしているのは、「ペットフード安全法」なのです。

添加物の規制

添加物の規制に関しても、いくつか問題があります。
ペットフード安全法の制定により、ある程度の規制はされることとなりましたが、それでも決して厳格な規制とはいえません。
では具体的には、どのような問題があるのでしょうか。

原材料に使用される添加物は任意で記載される

ペットフード安全法では、原材料で使用された添加物の表記は「任意」としています。
例えば原材料に「かまぼこ」を使用した場合、原材料表示に「かまぼこ」と表記するのは義務ですが、かまぼこに使用した「着色料」や「魚」などを表記するか否かは、メーカー側の判断にゆだねられているということです。
つまり極端な話、添加物だらけの原材料を使用していても、加工の段階で添加物を使用していなければ「無添加ドッグフード」として販売することができるのです。
このような、加工食品を製造するうえで、原料に使用されている添加物がそのまま加工食品に残ることを「キャリーオーバー」といいます。
規制の甘さから、キャリーオーバーが日常的に行われてしまっているのも、ペットフード業界の現状です。

規制の基準が甘い

ペットフード安全法では添加物に関しても規定を定めていますが、その基準はお世辞にも厳しいものとはいえません。
酸化防止剤のなかでも特に危険とされている、「エトキシキン」や「BHA」、「BHT」などは、使用量に制限があるものの、「ペットフード安全法」においては使用が認められています。
そのため、有名メーカーなどにおいても、これらの酸化防止剤が平然と使用されています。
長期的に与えても問題のない量を使用しているとしていますが、かといって絶対に安全とも言い切れないのです。
しかし、添加物が使用されるようになってからの歴史はまだまだ浅く、突然何らかのトラブルが起こる可能性も十分にありえます。
本来ならばそういった事故を事前に防ぐことが好ましいですが、現段階での法律ではそれは難しいといえるでしょう。

それぞれの酸化防止剤に関しては、以下の記事を参考にしてください。
ドッグフードの酸化防止剤「エトキシキン」の危険性とは?
ドッグフードの酸化防止剤「BHA」の犬への健康リスク
ドッグフードの酸化防止剤「BHT」の危険性

対象が犬猫に限る

ペットフード安全法では、法律の対象として守るべき動物を、「愛がん用に変われている犬猫」に限定しています。
そのため、小鳥やうさぎのような小動物に与えるペットフードを規制する法律が、いまだ存在しないのです。
「ペットフード」と銘打っていますが、適用範囲は一部であることも覚えておかなければなりません。

まとめ

このように、「ペットフード安全法」も抑止力としては力不足である面も多く持ち合わせています。
そのため日本の「ドッグフードに関する」法律は、まだまだ不完全であるといえるでしょう。