ドッグフードの保存料「ソルビン酸」の働きと犬への健康リスク

ドッグフードの保存料「ソルビン酸」

世界中で広く使用されている保存料のひとつに、ソルビン酸があります。
ソルビン酸自体には味もニオイもないため、食品の風味を邪魔せずに保存性を高めることが可能です。

ソルビン酸は主に、ソルビン酸カリウム(「3.ソルビン酸を水溶性にしたものがソルビン酸カリウム」にて後述します)としてドッグフードや犬用のジャーキー、歯磨きガムなど、さまざまなフード類に使用されています。
人間向けの食品でも、ハムやベーコン、カマボコ、麺類、煮豆、ジャム、ケチャップ、マーガリンなど、ソルビン酸やソルビン酸カリウムが添加された食品は店頭に溢れています。

ソルビン酸とは

ソルビン酸は微生物の成長を抑制する保存料

ソルビン酸は、食品への使用が認められている添加物の一種であり、食品の腐敗要因となる微生物の代謝や成長を邪魔する働きを持ちます。
ソルビン酸によって成長を阻害された菌類は、仮死状態になったり死滅してしまい、それ以上活動や増殖ができなくなります

しかしソルビン酸は、菌類を殺す(=殺菌)作用を備えてはいません。
そのため、すでに菌類が大量に増殖してしまった食品へ添加しても、効果はあまり期待できません。
ソルビン酸は、クリーンな環境で、微生物が極力付着していない原材料を用いて作られた食品へ使用することで、有効に働くことのできる保存料なのです。

ソルビン酸の抗菌効果は色々な微生物に及びますが、その中でも特に、酵母菌やカビ菌などの真菌に対して強い作用を持つといわれています。

pH値が酸性の時に効力を発揮する

ソルビン酸は、食品のpH(ペーハー/ピーエイチ)(※1)の値が酸性の時に最も防腐効果を発揮します。
反対に、pHがアルカリ性に傾くと効果が弱まってしまうのです。
このような特徴を持つ保存料のことを、「酸型保存料」と呼びます(※2)。

主に酸性下で働くソルビン酸の防腐作用を最大に引き出すため、各メーカーでは、ある方法がとられるケースがあります。
それは、ソルビン酸と一緒にpH調整剤を添加することです。
pH調整剤には、食品のpHを酸性に傾けるタイプのものと、アルカリ性に寄せるものがあります。ソルビン酸と一緒に使用される調整剤はもちろん、pH値を酸性に近付けるものが使われています。

※1 pH(ペーハー/ピーエイチ)・・・pHとは、物質の酸性・中性・アルカリ性の度合いを示した数値のことです。pH値は0から14の数値で表され、中間の7が中性を、7より小さな値は酸性、大きな数値はアルカリ性をそれぞれ示します。

※2 酸型保存料に対して、pH値に左右されずに安定して防腐効果を発揮する保存料は、「非解離型保存料」と呼ばれます。非解離型保存料には、パラベンという名称で知られる、パラオキシ安息香酸エステル(パラヒドロキシ安息香酸 )が挙げられます。
これは、ワンちゃんの歯磨きペーストやサプリメント、シャンプー類などに多く使用されている保存料です。
詳しくはこちらの記事をお読みください→ドッグフードの保存料「パラオキシ安息香酸」の働きと安全性
また、マスやサケ、ニシンなどの魚類の精巣から抽出された成分から合成される白子たん白抽出物という保存料は、pHが中性からアルカリ性の時に最も効果的に働きます。

ソルビン酸はナナカマドの実から発見された

赤い実をつけたナナカマド

ソルビン酸は、化学的に合成された保存料です。
しかしもともとソルビン酸という成分は、自然界に存在する植物から発見されました。
その植物とは、バラ科ナナカマド属に分類される樹木である「ナナカマド」です。

ナナカマドは関東から西のエリアにお住まいの方々にとっては、「名前を聞いたことがある」くらいの認知度で、あまり馴染みがないかもしれません。
しかし、北海道や東北地方では街路樹として植えられているほどポピュラーな木なのです。
ナナカマドには秋から冬にかけて、上記の写真のようにたくさんの小さな赤い実がなります。
この可愛らしい実はジャムの原料となる他、鳥たちの食糧としても大人気です。

ソルビン酸は、このナナカマドのまだ未熟な実から発見された成分なのです。
ソルビン酸という名称も、ナナカマドの学名である「Sorbus commixta」から派生しました。

ソルビン酸を水溶性にしたものがソルビン酸カリウム

前述通り、ソルビン酸とは別に、ソルビン酸カリウムという保存料も存在します。
ソルビン酸は、アルコールなどの有機溶剤にはよく溶けますが、水には溶けにくいというデメリットがあります。
そのため、水分の多い食品などには混ざりにくく、使い勝手が悪いのです。
こうしたソルビン酸の弱点を、水酸化カリウムや炭酸カリウムで中和させることによって解消したものが、ソルビン酸カリウムです。

ソルビン酸もソルビン酸カリウムも、微生物類の増殖を抑えて食品の保存性を高めるという働きに違いはありません。
ただし、ソルビン酸のままのほうが抗菌効果はやや高めです。
しかしソルビン酸カリウムは、色々な食品に対して添加できるというメリットを持ちます。
現にドッグフードやワンちゃん向けのおやつにも、ソルビン酸よりもソルビン酸カリウムが使われる頻度が高いのです。

ソルビン酸カリウムは、原材料欄に表示される際に「ソルビン酸K」と表示されることもありますが、両者は同じものを意味しています。

ソルビン酸カリウムについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
ドッグフードの保存料「ソルビン酸カリウム」の働きと安全性

ソルビン酸に懸念される健康リスク

ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムが反応すると、発がん性物質が作られる

ソルビン酸は、亜硝酸ナトリウム※3)と反応することで、発がん性物質であるエチニル酸が生成されるリスクが指摘されています。

亜硝酸ナトリウムは、肉類や魚の色が黒ずむことを抑え、美しい赤色をキープする目的で使用される発色剤です。その他にも、ボツリヌス菌の繁殖抑制や、肉の獣臭を消すといった作用も持ちます。
この亜硝酸ナトリウムは、ソルビン酸やソルビン酸カリウムと同様に、ドッグフードに頻繁に使用されている添加物です。

さらに、野菜類に含まれる硝酸ナトリウムが、ワンちゃんの口の中の微生物に分解されることによっても、亜硝酸ナトリウムが発生します。
したがって、「ドッグフードの添加物には気を付けています」という飼い主さんや、「うちは手作りフードを与えているから大丈夫」というご家庭も要注意です。
知らず知らずのうちにワンちゃんの体内に亜硝酸ナトリウムが取り込まれている可能性は否定できません。

さらに亜硝酸ナトリウムは単独でも、肉類や魚に含まれる「アミン」という成分と反応して、ニトロソアミン類(ジメチルニトロソアミン、トリメチルニトロソアミンなどいくつかの種類が存在します)という強力な発がん性物質を作り出します。

※3 亜硝酸ナトリウムに関しては、こちらの記事で詳しくご説明しています。
ドッグフードに亜硝酸ナトリウム(発色剤)を添加する目的と安全性

日本においてソルビン酸の使用量に制限はない

亜硝酸ナトリウムは、 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)(※4)によって、「ドッグフード1g当たりにつき、100μg(=0.1mg)まで」と、使用量が定められている添加物です。
ソルビン酸やソルビン酸カリウムは2018年2月現在、ドッグフードへの添加量の規制はありません
ソルビン酸類に対して規制を設けない理由としては、

  • ペットフードに含まれるソルビン酸によって、体調を崩したペットが確認されていいないこと
  • 毒性の弱いソルビン酸は、通常の添加量であればペットの健康に悪影響を及ぼさないと考えられること
  • フード類は微生物の汚染に気を遣って製造されているため、ソルビン酸を大量に添加する必要がないこと

などが挙げられています。

しかし、人間の口に入る食品に対しては、漬物やジャムであれば「1㎏当たり1g以下」、チーズでは「3g以下」などと、食べ物の種類ごとに厳密な使用量規制があるのです。
もちろんこれは、ソルビン酸の過剰摂取によって起こるかもしれない健康被害から、人々を守るために定められた決まりごとです。

※4 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(通称:ペットフード安全法)・・・日本国内のペットフード(犬用と猫用に限る)の製造や表示方法、原材料や添加物などの基準や規制を設定、問題のあるフードが輸入・販売されていた場合には、業者に回収措置を命じることができる、などの効力を持つ法律です。現時点(2018年2月)において、この法律の対象となっている動物は、日本で最も多く飼育されている動物であるワンちゃんと猫ちゃんのみです。

日本は、ペットの食の安全性に対する意識が低いといわれています。
2009年よりペットフード安全法が施行されたため、これからさらにペットフードに対する規制が厳しくなり、安心して与えられるフードがたくさん売られるようになるかもしれません。
しかし、「動物愛護先進国」と呼ばれるヨーロッパ諸国やアメリカなどと比べると、まだまだペットフードに対する日本の規制は緩いといわざるを得ません。
当分の間は、私たち飼い主が正しい知識を身に着けて、安全性が疑われるフードは極力愛犬に与えないように自衛していくしかないでしょう。

ビタミンCで発がん性物質に対抗する

エチニル酸もニトロソアミン類も、ビタミンCによって生成量や毒性が減少するといわれています。

私たち人間とは異なり、ワンちゃんたちはビタミンCを体内で作り出すことが可能です。
そのため、「犬に敢えてビタミンCを与える必要はない」という意見もありますが、ビタミンCはさまざまな状況下で消費量が上がるため、体内の合成量だけでは不足する可能性もあるのです。
ビタミンCが不足しやすい状況には、病気、強いストレス、激しい運動などが挙げられます。

ビタミンCは水溶性ビタミンであり、尿で速やかに排出される栄養素です。
長時間体に溜めておくことができないのでこまめな摂取が必要ですが、多少過剰に摂取したとしても過剰症を起こしにくいという利点もあります。

キャベツやブロッコリー、大根の葉など、ビタミンCを豊富に含む食材には、手軽に手に入る野菜が多いです。
また、サツマイモやジャガイモなどに含まれるビタミンCは、デンプン質で守られているため、加熱しても壊れにくいという特徴があります。
こうした食材を日々の食事に上手く取り入れて、愛犬を発がん性物質の害から守ってあげましょう。

まとめ
コンビニエンスストアやスーパーで買えるお弁当であれば、輸送時、販売時の湿度・温度管理を徹底することにより、ソルビン酸などの保存量の使用を控えることが可能でしょう。(もちろんこうした食品は、購入後の保存に気を遣わなければなりませんし、早めに食べ切ることが必要です。)
しかし、飼い主側の利便性を考慮して作られるドッグフードにとっては、開封後でも長期間の保存が可能であるということは絶対条件です(特にドライフードは)。

成犬の食事回数は、1日に1~2回が一般的です。
つまりドッグフードは、最低でも1日に1回は空気(目に見えないだけで、空気中には多くの菌類が漂っています)や湿気、人の手などに触れる機会があるということになります。
フードの扱い方も、細心の注意を払う人から、無頓着に濡れた手で取り分ける人など、飼い主さんによってさまざまです。
ドッグフードには、ある程度雑な扱われ方をされたとしても、菌類が繁殖しにくく食中毒を起こしにくい処方が求められていることも事実なのです。
そのため、保存料の使用自体は致し方ない面もあります。
とはいえ、他の添加物との組み合わせ方によっては、ワンちゃんの体に有害な物質が発生するリスクもあります。

素材、メーカー、価格など、ドッグフードを選ぶ際に重視する点は人それぞれですが、フード購入時には必ず原材料欄に目を通し、「危険性のある添加物の組み合わせはないか」、「添加物の種類は多すぎないか」などをチェックすることは忘れないようにしましょう。