ドッグフードの保湿剤「プロピレングリコール」
ドッグフードによく使用される添加物に、プロピレングリコールというものががあります。
保湿力や殺菌力が高く、セミモイストフードやジャーキーなどの柔らかい食感のフードに幅広く利用されているので、原材料表示欄で見かけたことのある飼い主さんも多いことと思います。
このプロピレングリコールですが、ネット上では、
「極めて危険な物質だ」
「毒性は弱いので安心だ」
などと、さまざまな情報が飛び交っています。
そのため「調べれば調べるほどに混乱してしまった」というかたもいるのではないでしょうか。
はたしてプロピレングリコールは犬にとって安全な添加物なのかどうか、詳しく見ていくことにしましょう。
プロピレングリコールとは
まずは、そもそもプロピレングリコールとはどのような物質なのかについてご説明します。
プロピレングリコールとは石油を原料とした有機化合物で、油のようなとろみのある液体です。
「プロピレングリコール」という呼称がなじみ深いですが、他にも「1,2-プロパンジオール」「1,2-ジヒドロキシプロパン」、略称として「PG」と表記されることもあります。
無色で、味もニオイもありません。
プロピレングリコールの特徴といえば、
- 水分を抱え込む力が強い
- 油と水を混ざりやすくする性質を持つ
- 殺菌力が高い
などが挙げられます。
保湿・防カビ・乳化などの目的でドッグフードのみならず、人間用の様々な商品にも使用されています。
使用例としてはシャンプー、歯磨きペースト、麺類、ギョウザの皮、車の不凍液やブレーキオイル、サプリメントや各種化粧品など挙げればきりがありません。
塗り薬の成分を素早く患部に浸透させるために配合されていることもあります。
これは「分子量が小さく、皮膚から体内に浸透しやすい」というプロピレングリコールの性質を利用したものです。
ドッグフードへの添加は保湿・防腐目的
プロピレングリコールは保湿剤や防腐剤として多くのドッグフードへ添加されています。
なかでもソフトドライフードやセミモイストフードと呼ばれる、25~35%程度の水分を含んだ半生タイプのドッグフードに入っていることが多いです。
ビーフジャーキーや歯磨きガムなど、柔らかくしっとりとした質感の犬用おやつにもよく使われています。
プロピレングリコールの危険性と犬の体に与える影響
飼い主さんがもっとも気になるポイントといえば、「プロピレングリコールが、犬の健康に悪影響を及ぼす可能性はないのか」ということではないでしょうか。
ここではプロピレングリコールの毒性、犬の体への影響を詳しく見ていきます。
プロピレングリコールは旧表示指定成分である
プロピレングリコールは旧表示指定成分です。
旧表示指定成分とは「使用することにより、人によっては肌トラブルやアレルギー反応が出る危険性があるため、旧厚生省(現在の厚生労働省)により化粧品への表示を義務付けられている成分」のことを言います。
この旧表示指定成分ですが、以前は表示指定成分と呼ばれていました。
現在は基本的に全ての成分を表示しなくてはならなくなったので「旧」という文字が付いていますが、表示指定が解除されたわけではありません。
2017年現在でも、全成分表示義務のない医薬部外品に使用する場合を除いては、必ず表示しなければならない成分とされています。
体に対して何の影響も及ぼさない安全な物質ならば、表示成分には指定されないはずです。
旧表示指定成分であるという事実からも、プロピレングリコールには何らかのリスクがあるということはご想像いただけるのではないでしょうか。
原液で使うと眼や気道への弱い刺激性がある
化学物質の安全情報をまとめたICSCによると、プロピレングリコールには眼と気道への弱い刺激性が確認されています。
眼に入ると乾燥感やかゆみなどの症状、吸い込むと咳が出たり喉の渇きを覚えることがあります。
しかしこれは、プロピレングリコールを原液で取り扱った場合の話であり、薄めて使用する分には安全性は高いとされています。
もちろん、ドッグフードへと添加されているプロピレングリコールは原液ではなく、薄められたものですので、犬がフードを食べたからといって咳をしたり目がかゆくなったりするということではありません。
仕事で原液のプロピレングリコールを扱ったりしない限りは、一般の人や犬が触れる機会はそうそう無いはずですので、この点については心配はいらないでしょう。
犬の肝臓、腸、皮膚に与える影響
プロピレングリコールは数ある化学物質の中では安全性が高く、希釈したものを短期間少量摂取する程度ではほとんど問題がないとされています。
ただし長期に渡り連用すると、犬によっては肝臓の数値が上昇する、腸がうまく働かなくなる、皮膚アレルギーを起こすなどの可能性があると言われています。
なかでも肝臓の数値が上がるという症状は、特に多くの獣医師や飼い主さんによって確認されています。
しかし、プロピレングリコールが肝臓の数値を上げる理由は、まだハッキリと証明されてはいません。
有力な説としては、「犬の中にはプロピレングリコールに対する感受性が強くて影響を受けやすい子とそうでない子がいる」というものが挙げられます。
同じ量のプロピレングリコールを摂取しても体調に影響が出る犬もいれば、ケロッとしている犬もいるのです。
また、たくさんの水を吸収する性質を持つプロピレングリコールは、体内の水分をも奪ってしまいます。
プロピレングリコールが犬の腸内の水分を過剰に吸収してしまった場合、腸の働きが悪くなったり腸閉塞になる危険性も指摘されています。
キャットフードへの使用は禁止されている
猫へプロピレングリコールを投与すると赤血球へ悪影響が出るというデータから、2009年にキャットフードへのプロピレングリコールの使用が禁止となりました。
しかし犬やマウス、ラットに対して、あきらかな毒性は確認されていません。
その根拠は、これらの動物に対して行われた実験にあります。
犬やマウスの餌にプロピレングリコールを混ぜて2年間与え続けた実験結果において、腫瘍や血液の異常などの目立った影響や臓器への蓄積は無かったというデータがあります。
プロピレングリコールが犬にもたらす影響は報告されていないため、2017年現在においてドッグフードに対する使用は禁止されていません。
発ガン性の決定的な根拠はない
「プロピレングリコールには発ガン性があるので犬に与えるのは危険だ」という話をネット上で見かけ、不安に思われている飼い主さんも多いのではないでしょうか。
しかし先に述べた通り、犬に2年間投与しても腫瘍の形成は確認されなかったという実験結果があります。
そして現在のところ、プロピレングリコールに発ガン性が認められるという決定的なデータは存在しません。
それでは一体どこから「プロピレングリコールには発ガン性がある」という話が出てきたのでしょうか。
突き詰めて調べていくと、どうやらプロピレングリコールの性質が発端となっているようです。
いまだグレーな部分はあるものの、取り敢えず「プロピレングリコールに発ガン性は無い」と仮定してご説明しましょう。
ほとんどの人は普段、プロピレングリコールを単独で肌に付けることはありません。
シャンプーや化粧品など、大抵はプロピレングリコールと他の物質が組み合わされた商品を使用しています。
先に述べた通りプロピレングリコールには、物質が皮膚を通って体内へ浸透・吸収されるスピードを速めるという働きがあります。
もしも化粧品の中に発ガン性のある物質が入っていた場合には、プロピレングリコールの働きで有効成分とともに発ガン物質までもが、皮膚を通して効率良く体へと吸収されてしまうというわけです。
当然これが毎日積み重なれば体に良くはありません。
発ガン確率が上がるという可能性も否定はできないのです。
この一連の仕組みが伝言ゲームのように伝わり、最終的に「プロピレングリコールには発ガン性がある」という話になってしまったのだと推測できます。
プロピレングリコールの危険性については専門家の間でも意見が分かれており、特に犬に対しての安全試験の結果は多く出回っていません。
「なぜプロピレングリコールを摂取すると肝臓を悪くする犬がいるのか」
「2年以上犬に与え続けた場合の健康被害はないのか」
「プロピレングリコール自体の発ガン性は本当にないのか」
など多くの疑問が残ります。
ここでこれまでの情報をおさらいしてみましょう。
プロピレングリコールと犬の健康との関連性は、
- 肝機能の数値が上昇する可能性がある
- 腸の働きが弱まったり、腸閉塞の危険性がある
- 犬の体質によってはアレルギーを起こすケースがある
- 2年間犬に与え続けた実験によると血液異常や腫瘍形成は認められず、臓器への蓄積もなかった
- 猫に対しては使用禁止だが、ドッグフードへは現在も使われている
- プロピレングリコールに発ガン性があるという根拠は無い
といったところでしょうか。
一部では「プロピレングリコールはドイツでは全面的に使用禁止になっている。そんな物質を使ったドッグフードは危険だ」という話もありますが、プロピレングリコールはドイツにおいて赤ちゃんのおしりふきなどにも使用されているようです。
情報が錯綜しており危険性も靄に包まれた部分の多いプロピレングリコールですが、犬は自分で食べるフードを選べません。
プロピレングリコールを使用したドッグフードを使うか避けるかは、飼い主さんの判断にゆだねられています。
とはいえほとんどの飼い主さんが、愛犬には健康で長生きしてほしいと思われていることでしょう。
「重大な危険性は確認されていないけれども、犬によっては悪影響を及ぼす可能性のある」プロピレングリコールの入ったドッグフードは、避けられるのならば避けるに越したことはない商品であることは間違いありません。