ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」
ビタミンB6には植物由来や動物由来のものなど3種類あり、その科学名は「ピリドキシン」、「ピリドキサール」、「ビリドキサミン」などと呼び分けられます。
ビタミンB6は1934年、ドイツの研究者によって、なかなか皮膚炎(ペラグラ(※1))が良くならないネズミに、酵母から抽出した成分を与えたところ回復がみられたことをきっかけに発見された栄養素です。
ビタミンB6は皮膚炎の予防因子として発見されましたが、その他にも体の中でさまざまな働きをすることが分かっており、2017年現在でもまだ研究が続けられている成分なのです。
※1 ペラグラ・・・ナイアシンの欠乏により発症する病気です。ナイアシンの不足に加えて紫外線に当たることで皮膚のかゆみや硬化を起こします。ひどくなると下痢や粘膜からの出血、精神不安定などに移行します。「ペラグラ」とは「荒れた皮膚」という意味です。
ビタミンB6の働き
タンパク質の分解や再合成に関与する
皮膚炎の予防効果よりも有名なビタミンB6の作用に、タンパク質の分解や合成があります。
食事から体内に取り込まれたタンパク質は、消化器官を通り抜けながら一度アミノ酸へと分解され、再度肝臓で体に必要なタンパク質へと作り変えられます。
このタンパク質の分解や再合成にはいくつもの種類の酵素が関わっているのですが、この酵素の働きを助けるのがビタミンB6なのです。
ビタミンB6の作用によって、タンパク質は速やかに効率良く、体内へと取り込まれていくのです。
ご存じの通り、タンパク質は肉や臓器、皮膚、血液、ホルモンなどに含まれ、動物の体を構成します。また、タンパク質はエネルギーへも変わります。
いわば、生き物の体を作るためには必要不可欠な栄養素がビタミンB6なのです。
タンパク質の摂取量が多ければ多いほど、それを処理するためのビタミンB6の必要量も増えます。
ワンちゃんは肉類や魚をたくさん食べるため、タンパク質を多く体に取り入れています。
それだけビタミンB6の要求量も多くなるのです。
ビタミンB6の多様な働き
ビタミンB6は、100種類以上の酵素の働きを助ける補酵素として機能します。
それらの酵素は、ビタミンB6がなければ十分に役目を果たせません。
ビタミンB6はさまざまな酵素と協力し合いながら、タンパク質の代謝以外にも、生体内でさまざまな働きをするのです。
具体的には、
- セロトニン、ナイアシンの原料となる
- タウリンやカルニチンの合成を助ける
- 神経伝達物質の生成に関与(ドーパミン、ギャバなど)
- 脂質の代謝を促進、肝臓への脂肪蓄積防止→脂肪肝の予防
- ヘモグロビンを合成→貧血の予防
- 摂り過ぎた塩分(ナトリウム)を排泄→体内の塩分濃度を一定に保つ
- 免疫を正常に働かせる→アレルギー症状の緩和
などが挙げられます。
ビタミンB6は他の栄養素とのバランスが大切
上でご紹介した各作用に、ビタミンB6は欠かせない栄養素です。
しかし、ビタミンB6だけでは役不足でもあります。
ビタミンB6と他の多様な栄養素が組み合わさって、初めて効果が発揮されるのです。
具体的にいくつかご説明します。
セロトニン、ナイアシンの原料となる
ビタミンB6は、アミノ酸の一種であるトリプトファンと共にナイアシン(※2)を作り出します。
さらに、ナイアシンが体内に充分存在する場合には、そのナイアシンやマグネシウムと合わさり、セロトニンを合成するのです。
セロトニンは、神経の興奮を静めたり、満腹感を与えて食欲を抑える作用のある成分です。
タウリンの合成を助ける
肝臓において、メチオニンとシステインという二つのアミノ酸から合成される成分がタウリン(※3)です。
タウリンが合成される際にサポートをするのがビタミンB6なのですが、ビタミンB6が欠乏していた場合にはタウリンは合成されません。
すなわち、ビタミンB6不足はタウリン欠乏にも繋がるのです。
カルニチンの合成に関与
カルニチン(※4)は、メチオニンとリジン(どちらもアミノ酸)を原料として、肝臓や腎臓、脳などで合成されます。
ビタミンB6は、ビタミンCやナイアシンとともに、この合成を手助けします。
このように、ビタミンB6は実にさまざまな栄養素の合成にかかわっています。
もしもビタミンB6が不足すると、こうした健康に有益な成分までも欠乏してしまうのです。
ビタミンB6がしっかりとした仕事をするには、他の栄養素との協力が不可欠です。
そのため愛犬には、ビタミンB6だけではなく、色々な栄養素をバランスよく摂取させることが非常に大切なのです。
※2 ナイアシン・・・タンパク質や脂質、糖質がエネルギーへと変換される際に必要となる補酵素(酵素をサポートする成分)です。ビタミンB群の一種に分類されており、ビタミンB3とも呼ばれます。
※3 タウリン・・・タウリンは、ワンちゃんの血圧や血糖値、体内水分量などを常に一定に保つ働き(ホメオスタシス)を持つ栄養素です。タウリンについての詳細はこちらの記事をご参照ください。→ドッグフードの栄養素「タウリン」の健康効果とは?
※4 カルニチン・・・脂肪を効率よくエネルギーへと変換する役割を持ちます。ビタミン様物質(ビタミンと同じような働きをする物質)の一種であり、ビタミンBtとも呼ばれます。
ビタミンB6の過剰と欠乏
健康な犬のビタミンB6欠乏はまれ
ビタミンB6はワンちゃんの腸内細菌によっても作られています。
基本的には、きちんと管理された食事を与えられている健康なワンちゃんであれば、ビタミンB6が不足する可能性はほとんどないといわれています。
日本で採用されているAAFCO(米国飼料検査官協会)(※5)の提唱する基準においては、ワンちゃんの体重1kgに対して、1日当たり1.5mg以上のビタミンB6を与える必要があるとされています。
しかし、ワンちゃんがどれだけのビタミンB6を必要としているかは、体内でどれくらい合成できるか、食事の内容、年齢、状況(病気や妊娠中、スポーツドッグ、使役犬など)などによって大きく異なります。
抗生物質の長期服薬や、消化器系・肝臓などの疾患により、体内でのビタミンB6合成が阻害されるケースもあるのです。
また、ビタミンB6が働くにはビタミンB2が必要です。いくら体内でビタミンB6が足りていても、ビタミンB2が不足していると結果的にビタミンB6欠乏と同じ状態となることがあります。
ビタミンB6が足りなくなると、以下のような症状が出ることがあります。
- 皮膚炎(主に目や鼻、尾の周り)
- 脱毛
- 軽度の貧血
- 筋肉が弱くなり、量が減る
- 食欲不振
- 神経過敏(少しの刺激でも過剰に反応する)
- 成長が止まる、遅くなる(子犬の場合)
また、ビタミンB6の欠乏がひどくなると、ワンちゃんのてんかん発作の要因となることが指摘されています。
てんかんを持っているワンちゃんに多量のビタミンB6を与えたことによって、発作が落ち着いたというケースも報告されているのです。
※5 AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・ペットフードの栄養基準を定めて公表しているアメリカの機関です。2017年現在、日本を含む多くの国々のペットフードメーカーが、AAFCOの発表する数値を参考にして商品作りを行っています。
ビタミンB6は過剰にもなりにくい
ビタミンB6は水に溶けやすい水溶性ビタミンです。
過剰摂取をしても、ワンちゃんの体内で使われなかったビタミンB6は尿と一緒に排泄されます。
そのため、ビタミンB6の過剰は非常に起こりにくいとされているのです。
しかし、大量のビタミンB6を長期的に摂取した場合には、過剰症が起こる場合もあります。
ビタミンB6が体内で過剰となると、
- 平衡感覚がにぶくなる
- 運動失調
- 筋肉量減少
- 血管の拡張
などがみられることがあります。
ドッグフードへの添加
市販のドッグフードには、ビタミンB6が添加されているものとされていないものがあります。
「総合栄養食」の表示があれば、どちらのフードであってもワンちゃんに必要最低限のビタミンB6は含まれていると考えて問題ないでしょう。
ただし「一般食」の場合は、商品によって含まれている栄養素にバラつきがあります。
総合栄養食が「主食」であるならば、一般食はいわば「おかず」です。
一般食だけでは、犬の必要とする全ての栄養素はまかなえませんので注意してください。
ビタミンB6が添加されているドッグフードの原材料欄を見ると、「ビタミンB6(塩酸ピリドキシン)」などと書かれていることが多くあります。
中には「ビタミンB6」の表記がなく、「塩酸ピリドキシン」とだけ記載されているフードもあります。
文字だけを見ると、何やら怪しげな化学物質のような印象を受けるかもしれません。
しかし、塩酸ピリドキシンは、ビタミンB6を人工的に化学反応させて体内への吸収効率を高めたもののため、敬遠する必要はないのです。
ビタミンB6を多く含む食品
ビタミンB6は、魚類や肉類、緑黄色野菜、全粒粉類、酵母などに多く含まれています。
以下に、ワンちゃんに安心して与えられる食材のビタミンB6含有量を比較してみました。
最もビタミンB6の含有量が多いのはミナミマグロですが、七面鳥(ターキー)や鳥のひき肉、鴨肉なども健闘しています。
また牛肉は日本産のものよりも外国産牛肉の方が、ビタミンB6が多く含まれている傾向にあります。
マグロを使ったドッグフードの種類は少ないですが、ドライフード、ウェットフードともに売られています。
また、マグロ肉を乾燥させて固形状に加工した犬用おやつなどもありますので、普段の食事にプラスして与えるということも簡単にできます。
七面鳥や鴨肉を使ったフードは、魚を使ったフードと比べると品ぞろえが充実している印象です。
ビタミンB6はさまざまな肉類に多く含まれているため、いずれかにアレルギーを持つワンちゃんでも、体質に合う食材から摂り入れやすいという利点があります。
また、ビタミンB6は比較的熱に強いため、食材の調理時にしっかりと加熱をしても壊れにくいです。
こちらは野菜類と豆類のビタミンB6含有量です。
きな粉やごまに多く含まれていることが分かりますが、どちらもワンちゃんの食事にメインとして取り入れられる食材ではありません。
したがって、これらの食材からはわずかな量のビタミンB6しか摂取できないということになります。
そもそも植物由来のビタミンB6は、動物由来のものよりも体内での働きが弱いことが判明しているため、アレルギーなどの事情がない限りは、肉や魚から摂り入れさせた方がよいでしょう。
しかしこれらの食材も、ワンちゃんの健康に有益な栄養素をたっぷりと含んだものばかりです。
愛犬の毎日の食事に、積極的に使いたい素材であることに変わりはありません。
まとめ
ビタミンB6は欠乏することも過剰となることもまれであり、愛犬の健康状態が良好であれば摂取量に神経質にならなくても問題は起こりにくい成分です。
しかし、ビタミンB6がその作用を発揮するには、他の多くの栄養素との協力が不可欠です。
ワンちゃんには栄養バランスの取れた食事を与え、ビタミンB6が最大限に働ける体内環境を作ってあげることが大切です。