ドッグフードの成分表示「水分」
カリカリのドライフードから、素材の食感を生かしたウェットフードまで、店頭にはたくさんのドッグフードが並んでいます。
水分量の少ないフードほど硬く、香りも弱くなりますが、保存性は高まります。
一方、水分を多く含むフードは食べやすく嗜好性が高い半面、腐敗しやすいことから長期保存には向きません。
ドッグフードの個性を決める大事な要素である水分について、また、水分量別のフードの特徴についてみていくことにしましょう。
結合水と自由水
ドッグフードに含まれる水分には、結合水と自由水の2種類があります。
結合水(結合水分)
ドッグフード内に含まれる糖質やタンパク質と結びついており(結合)、動くことができない水分です。
ドッグフードの中で増殖した細菌類やカビ菌が、栄養素(タンパク質など)を分解することによって引き起こされる現象が「腐敗」です。
結合水は、菌類が増殖に利用できないため、腐敗の原因にはなりません。
自由水(自由水分)
ドッグフード内の栄養素と結合しておらず、自由に移動することが可能な水分のことです。
食品が凍結したり、水分が蒸発して乾燥したりすることがありますが、これらは自由水の状態が変化することによって引き起こされます。
細菌などの微生物類は、水分や温度、栄養素を利用して増殖します。微生物が利用可能な水分とは、この自由水のことを指しています。
ドッグフード中にどの程度の自由水が含まれているのかを表した値を水分活性といいます。
ドッグフードの水分活性が高ければ高いほど、微生物が増えるリスクが上昇し、フードが腐りやすくなるのです。
漬物やジャムなどが保存食品であるということは誰もが知っています。
しかし、こうした食品類がなぜ腐りにくいのか、疑問に思われたことはないでしょうか。
これら保存食は、製造過程でふんだんに加える塩や砂糖と水分を結合させ、自由水の含有量を減らす(=水分活性を低下させる)ことによって保存性を高めているのです。
ドッグフードは水分量によって3タイプに分類される
ドッグフードの水分量の測り方
ドッグフードのパッケージには、水分量が「〇〇%以下」などと表示されています。
この水分量は、フードを高温で乾燥させ、水分を飛ばしたあとの重量を測定して求められます。乾燥前と後の重さを比べ、減った分が水分量であると判断されるのです。
水分量が少なめのドライフードやセミドライフードは、135℃で2時間乾燥させます。
水分がタップリと含まれているウェットフードは、105℃で3時間乾燥させたあとに、重さを測ることが一般的です。
ドッグフードは水分の含有量によって、「ドライ」、「ソフトドライ/セミモイスト」、「ウェット」という3つのタイプに分けられています。
次の項目より、それぞれのフードの持つ特徴やメリット、デメリットなどを解説していきたいと思います。
保存性や携帯性に優れるドライフード
ドライフードの水分量は10%以下
10%以下という非常に水分量の少ないドライフード。カリっとした食感を好むワンちゃんもいますが、ニオイが弱く嗜好性は低めです。
通称「カリカリ」とも呼ばれるドライフードは、水分量が10%以下に保たれていることが多く、3種類の中でも最も水分量が少ないフードです。
水分量が13%を超えると微生物類が繁殖するといわれているため、10%以下という水分量は安心できる数値です。
最も一般的な粒(キブル)タイプのものを始め、子犬の離乳食に便利なフレーク状や顆粒状、粉末状のもの、クッキーやビスケットといったワンちゃん用おやつなど、さまざまな形状のドライフードが売られています。
他の種類のフードに比べて比較的安価であり(もちろん、ピンからキリまでありますが)、色々な商品が出ているので、愛犬の嗜好や体質に合ったものが見つけやすいでしょう。
ドライフードのメリット
水分量の低さによる保存性の高さ
ドライフードの最も大きなメリットは、ギリギリまで水分を飛ばすことによって得られる、高い保存性です。
開封前であれば、何ヶ月も保存することができますし、開封後でも1ヶ月程度であれば保存が可能です(もちろん、高温になる場所や紫外線を避ける、水分や他の食品などを混入させない、キレイな手で扱うなどの注意が必要です)。
長期保存ができるドライフードは、災害時に備えてストックしておく非常食としても適しています。
いくら保存性に優れているドライフードといえども、開封後の腐敗や酸化を防ぐために、保存料や酸化防止剤などが使用されていることが一般的です。
しかし、いくら添加物を使っても、フードの劣化を完全に防ぐことはできません。たとえ賞味期限内であっても、なるべく早めに使い切ることが大切です。
商品によっては、開封後は1週間や2週間しか品質を保つことができないものなども存在します。
パッケージの注意事項をよく読み、定められた消費期限を守りましょう。
栄養価が高く、フード量の調節が容易
ドライフードは水分が少ない分、一粒に栄養素がギッシリと詰まっています。
そのため、もともと少食なワンちゃんや病気で食欲が低下しているワンちゃんでも、少ない量で必要な栄養素が摂りやすいという利点があります。
また、一粒一粒が小さめでバラけているため、ワンちゃんの食欲に合わせてフードの量を増やしたり減らしたりすることも簡単にできます。
人が持った時に手が汚れることも少なく、お出かけの際に携帯する、トレーニング中のごほうびとして使用するといった使い方もできるでしょう。
歯に汚れが付きにくい
水分量を極力減らしたドライフードは、ワンちゃんが食べた時に歯に付きにくく、歯垢が溜まりにくいフードです。
硬く成形された粒をカリカリと噛むことによって、歯をキレイにする効果も期待できます。
フードの種類によっては、特殊な形状に仕上げることにより、歯磨き効果をアップさせたものもあります。
ワンちゃんは人間とは異なり、虫歯になりにくい動物です。
しかし、歯周病にはかかりやすいため注意が必要です。
毎日食べるドライフードで歯磨きができるのであれば、これほど便利なことはありません(とはいえ、歯ブラシなどを使った日々の歯磨きも大切です)。
食事をしながら歯をキレイにできるというドライフードの利点を生かすためには、フードをお湯やスープ類でふやかしたりせずに、そのまま与えることが必要です。
しかし中には、ふやかしてあげないとフードを食べないワンちゃんや、そのまま食べてはくれるけれど丸呑みしてしまうという子もいるでしょう。
こうした子には、しっかりと噛める歯磨きガムなどを別に与えてあげることが有効です。
ドライフードのデメリット
犬によっては食い付きが悪いことがある
カリカリに乾燥しているドライフードは、水分を多く含んだフード類と比べるとニオイが弱い傾向があります。
そのため、食にこだわる性格のワンちゃんや、病気によって鼻の利きが悪いワンちゃんなどの食い付きが悪くなるケースがあるのです。
ワンちゃんたちが目の前のフードを食べるか食べないか判断する際に、ニオイは非常に重要です。
ドライフードのニオイが弱く、ワンちゃんの食欲が刺激されない場合には、茹でた肉や野菜、犬用のふりかけなどをトッピングすると食べてくれることがあります。
スープなどをかけて温め、香りを出すという方法もよいでしょう。
フードから水分が摂取できない
水分の含有量が低く抑えられているドライフードは、水分補給には適していないため、しっかりと水を飲ませないとワンちゃんが水分不足となる可能性があります。
ワンちゃんに対して、人間が望むタイミングで水を飲ませることは困難です。
ワンちゃんが「のどが渇いた」と思った時に、いつでも自由に水が飲めるように、新鮮な水を常に用意しておいてあげましょう。
歯の悪いワンちゃんには食べにくいことがある
噛む力の弱い子犬や、歯が抜けてしまっている老犬など、食べ物をしっかりと噛めないワンちゃんにとって、ドライフードは食べにくいことがあります。
「丸呑みするクセのある子ならば、問題はないのではないか」と思われるかもしれませんが、それも危険です。
ワンちゃんの体に合わないドライフードを選んでしまうと、ワンちゃんがあまり噛まずに飲み込んだ際にのどに詰まらせる危険性があります。
そのため、愛犬のサイズに合ったの大きさのフードを選択することが大切です。
特に問題が起こりやすいのは、小型犬に大きな粒のフードを与えてしまうことです。
しかし反対に、大型犬に小粒のフードを食べさせようとしても食べにくく、食い付きが悪くなってしまう場合もあります。
愛犬の好みのサイズを把握しておくことが大切です。
ソフトドライフードやセミモイストフードは添加物に要注意
水分量は約25~35%
カラフルな商品が多くラインナップされている、半生タイプのフー ド。程度な水分を含みやわらかいため、歯の弱いワンちゃんにも適 しています。添加物の少ないものを選んであげましょう。
ソフトドライフードやセミモイストフードは、「半生タイプ」とも呼ばれ、しっとりとした柔らかい食感が特徴です。
ソフトドライフードは熱を加えて発泡させたもの、セミモイストフードは発泡させずに成形したものという違いはありますが、どちらも水分量は25~35%程度です。
可愛らしい真ん丸の形をしたものやサイコロのような角切り、平べったいペレット状のものなどが売られています。
ソフトドライ・セミモイストフードのメリット
犬の嗜好性が高い
ソフトドライやセミモイストフードは、ドライフードよりも水分が多く含まれているため、ニオイが強く、やや肉に近い食感を持ちます。
そのため、ワンちゃんの嗜好性が高いフードです。
ワンちゃんによって、フードの食感の好みはそれぞれです。
柔らかめのフードが好きで、ドライフードの食い付きがイマイチなワンちゃんでも、半生タイプのフードであれば食べてくれることもあります。
歯の悪いワンちゃんでも食べやすい
適度な水分を含んだやわらかい半生フードは、咀嚼力の弱いワンちゃんでも食べやすいというメリットがあります。
とはいえ、ウェットフードよりは硬さがあるため、よく噛まずに飲み込んでしまうとのどに詰まるリスクがあることも否定はできません。
ドライフードと同じように、ワンちゃんのサイズに合わせた大きさのフードも販売されていますので、愛犬に適したものを購入するようにしましょう。
ソフトドライ・セミモイストフードのデメリット
多くの添加物が使われていることがある
半生タイプのドッグフードは、しっとりとした食感を出すために保湿剤(保潤剤)が使用されています。
保湿剤にはグリセリンやソルビトール、プロピレングリコールなどがあります。
中でも特に注意したい添加物は、プロピレングリコールです。
プロピレングリコール(PGと表記されることもあります)は、ワンちゃんが長期的に摂取することによって、肝数値の上昇や、アレルギー発症、腸の働きが悪くなるなどといった症状を引き起こす可能性が指摘されています。
まだ仮説の段階ではありますが、「ワンちゃんの中には、プロピレングリコールの悪影響が出やすいタイプがいるのではないか」という説もあるため、警戒するに越したことはありません。
ソルビトールとプロピレングリコールに関する詳細は、こちらの記事をお読みください。
→ドッグフードにソルビトール(甘味料)を添加する目的と安全性
→ドッグフードの保湿剤「プロピレングリコール」の働きと犬への毒性
また半生タイプのフードには、赤やピンク、緑、黄色、茶色と、色とりどりの粒を組み合わせた商品が頻繁にみられます。
こうしたフードには着色料が使用されていることが大半ですが、その中にはワンちゃんの体に害を及ぼす心配のある色素も多く存在するのです。
一例を挙げると、黄色4号(タートラジン)にはアレルギーや胃炎を誘発するリスクが、赤色104号(フロキシン)には遺伝子や染色体を変異させる危険性が指摘されています。
それぞれの着色料については、こちらのページをご確認ください。
→ドッグフードの着色料「黄色4号」の用途と犬に対する安全性
→ドッグフードの着色料「赤色104号」の用途と犬に対する安全性
微生物の繁殖の抑制、脂質の酸化防止など、ドッグフードに添加物は付き物です。
市販されているほとんどのドッグフードには、何かしらの添加物は含まれています。
しかし、乾燥を防ぎやわらかな感触を保つことが必要な上に、カラフルな演出をされがちな半生フードは、とりわけ多くの種類の添加物が使用されている傾向があるのです。
特に総合栄養食は、愛犬が毎日欠かさず食べるものです。ワンちゃんの安全性に配慮された、添加物が控えめなフードを選んであげるようにしましょう。
保存可能期間が短く、価格も高め
ドライフードよりも水分量の多い半生フードは、その分腐敗しやすく、保存できる期間も短くなります。
開封後の品質劣化を抑えるために、袋に小分けしたフードをひとまとめにした形で販売されていることも多いです。
特に1回の給餌量が少なく、フードの消費に日数がかかってしまう小型犬に対しては、小分けされた商品を選んであげましょう。
また、半生フードの価格は、ドライフードと比べると全体的にやや高めであるため、「毎日与える主食として購入し続けるのは厳しい」と思われる飼い主さんも多いのではないでしょうか。
ウェットフードは水分補給に便利
水分含有量は約75~85%
水分をたっぷり含んだウエットフードは、缶やレトルトパウチに 充填された商品が主流です。開封前は日持ちしますが、開封後 は腐敗しやすいため、すぐに使い切りましょう。
ウェットフードは、75~85%程度の水分を含んだ商品です。
製造段階で殺菌のための加熱をしっかりと行い、缶詰やレトルトパウチなど密閉できるパッケージに入れられて販売されています。
水分含有量が非常に多いため腐りやすいウェットフードですが、密閉容器のお陰で、開封前であれば長期間保存することが可能です。
ウェットフードのメリット
3種類の中で最も嗜好性に優れる
3タイプのドッグフードの中で、原材料のニオイや味、食感が最も残っているのが、ウェットフードです。
生の肉や魚に最も近いタイプであるため、ワンちゃんの嗜好性も抜群です。病気や夏バテなどでワンちゃんの食欲が落ちている時に利用するのもよいでしょう。
また、愛犬がいつものドライフードに飽きてしまった場合に、ウェットフードをトッピングしてニオイを出してあげると食い付きが良くなることもあります。
水分補給ができる
製品の半分以上が水分でできているウェットフードは、ワンちゃんの水分補給にも役立ちます。
寒い冬場はどうしてもワンちゃんの飲水量が減りますし、生まれつきあまり水を摂取しないタイプの子もいます。
こうした場合には、食事をしながらある程度の水分も摂ることができるウェットフードが便利です。
とはいえ、ウェットフードだけの水分では不充分であるため、キレイな水はいつも用意しておいてあげましょう。
子犬やシニア犬にも食べやすい
ウェットフードは、子犬やシニア犬にとって最も食べやすいフードです。
噛まなくても初めから充分柔らかいですし、水分が多いため、飲み込む時にもスムーズです。
歯が生えそろっていない子犬や、歯周病などで歯が抜けてしまったシニアのワンちゃんなどにも、非常に安心して与えられるでしょう。
ウェットフードのデメリット
給餌量が多い
大部分を水分が占めるウェットフードは、ドライフードや半生フードと比べると、多くの量を食べなければ充分に栄養を摂取することができません。
食いしん坊のワンちゃんにはピッタリかもしれませんが、食の細い子や、胃腸が悪くたくさんの量を食べることができないワンちゃんには不向きです。
ワンちゃんの体重にもよりますが、1日に一袋(一缶)では足りないこともよくあります。
ウェットフードの単価は高めであるため、特に大型犬や多頭飼いのご家庭にとっては、お財布に優しいとはいえません。
開封後の保存がきかない
水分タップリのウェットフードは微生物が繁殖しやすく、一度開封してしまったら食べ残しを長期間保存しておくことができません。
残ったウェットフードは冷蔵庫に入れ、なるべくその日のうちに使い切るようにしましょう。
タッパーなどのしっかり密閉できる容器に移して冷蔵庫で補完すれば、2~3日程度もたせることも可能です。
歯が汚れやすい
ウェットフードは柔らかく歯に付きやすいため、歯垢になりやすいという特徴があります。
ウェットフードを食べているワンちゃんに限ったことではありませんが、毎日の歯磨きはきちんと行いましょう。磨くときには歯と歯の境目や、歯と歯ぐきの境目を重点的に磨くことをおすすめします。
まとめ
上でご紹介した3種類の中で、最もたくさんの種類が販売されているものはドライフードですが、その他のフードもバリエーション豊富です。
ワンちゃんの体調や体質、年齢、食欲、好みなどに合わせて、愛犬にピッタリのフードを選んであげましょう。