ドッグフードの栄養素「葉酸」の働きとは?不足すると貧血になる?

ドッグフードの栄養素「葉酸」

葉酸は、厚生労働省が妊婦さんに対して積極的な摂取を呼び掛けているほど、胎児の発育に不可欠な栄養素として知られています。
人間と同じように、ワンちゃんたちの体にとっても葉酸は非常に重要な働きを持ちます。
とはいえ、「葉酸は大事」という情報だけが先行してしまい、「大切な栄養素だということは認識しているけれど、どのような作用を持っているのか詳しくは知らない」という方も多いのではないでしょうか。
ワンちゃんにとって葉酸はどのような健康効果をもたらすのか、詳しくみていくことにしましょう。

葉酸はビタミンB群の一種

葉酸は別名をビタミンMやビタミンB9といい、その名の通りビタミンB群に属す栄養素です。
1931年に、猿の貧血予防物質として酵母エキスの中から発見されたことが始まりで、ビタミンMの「M」は英語で猿を表す「Monkey」の頭文字から名付けられました。
ビタミンB9の「9」は、ビタミンB群の中で9番目に発見されたという意味です。
その後、ホウレンソウの「葉」からも発見されたことにより、「葉酸」と呼ばれるようになりました。

葉酸は、ビタミンB12と共に赤血球の生産を担っている成分です。
赤血球が足りなくなると貧血が起こるため、葉酸は抗貧血因子と呼ばれることもあります。

その他にも、タンパク質を分解してエネルギーへと変換する酵素を助ける補酵素となったり、心臓発作の予防、アミノ酸のホモシステインを減らして動脈硬化を防ぐなど、さまざまな働きを持っているのです。

ホモシステインがコレステロールと一緒になることによって、認知症の原因となるアミロイドベータの脳への蓄積が加速するという研究結果も出ています。
昔に比べて犬の平均寿命も延び、認知症を発症する子も増えています。
ホモシステイン減少に効果のある葉酸は、ワンちゃんが末永く元気に生活するための強力なサポート役となる可能性も秘めているのです。

葉酸は、ワンちゃんが妊娠した際に、お腹の赤ちゃんのDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)といった遺伝物質を作り出すためにも活躍します。
DNAは、ワンちゃんの体をどのように構成するかといった遺伝情報が詰まっており、RNAはDNAの情報を基にしてタンパク質を合成します。
葉酸は、犬の胎児が正常に発育するためにも重要な働きをするのです。

ビタミンCは、葉酸を活性化し体内で働きやすい状態へと変換してれる栄養素です。
ビタミンCが共に体内に存在することによって、葉酸は効率よく働くことができます。
人間であれば食品などからの補給が不可欠なビタミンCですが、ワンちゃんは体の中で合成することが可能です。
そのため必要以上にビタミンC摂取に神経質になる必要はありませんが、病気のワンちゃんやストレスを受けやすいワンちゃんなどは多くのビタミンCを消費するため、欠乏する可能性もあります。
そうした愛犬には、葉酸と一緒にビタミンCも補給してあげる必要があるでしょう。

葉酸の欠乏症と過剰症

深刻な事態を招くこともある葉酸の欠乏

葉酸は体内に貯蔵されにくい

AAFCO(米国飼料検査官協会)()によると、ドッグフードに含まれる葉酸の最低量は維持期、成長期や繁殖期ともに、乾燥重量100g当たり20.6μgと規定されています。
ワンちゃんの腸内に棲む細菌によって合成されている葉酸ですが、それだけで必要量がまかなえているのかどうかは分かっていません。
そのため、毎日の食事から葉酸を摂取させることが大切なのです。

※AAFCO(米国飼料検査官協会)・・・ペットフードの業界により設立された、アメリカにある機関です。ここから発表されているフードの栄養基準を、ほとんどの日本のペットフードメーカーが採用しています。

健康なワンちゃんが、栄養管理をしっかりとされたドッグフード(総合栄養食など)を規定量食べている場合には、葉酸が欠乏する心配はほぼありません。
しかし葉酸は、体内において少ない量しか貯蔵できないにもかかわらず、1日当たりの必要量は多いという少々やっかいな栄養素なのです。
そのため、以下のような状況において、ワンちゃんに葉酸の欠乏が起こるケースがあります。

葉酸の必要量が増大する妊娠中の摂取不足

人間の妊婦さんは、普段の約2倍ほどの葉酸を摂取するようにといわれていますが、これはワンちゃんでも同様です。
妊娠中のワンちゃんは、通常の成犬よりも多くの葉酸が必要になります。
これは、活発な細胞分裂によって体が作られている途中のお腹の中の赤ちゃんが、多くの葉酸を消費するためです。
母犬が葉酸をしっかりと摂取しないと、子どもに充分行き渡らずに、口蓋裂などの先天性の奇形を持って産まれてくるリスクが上昇します。

口蓋裂とは、口の中の上顎と鼻腔の間に穴が開いている状態を指します。
本来は分かれていないといけない口腔内と鼻の中が繋がっているために、ミルクを飲んでも鼻から出てきてしまったり、気管から肺に流れ込んでしまいます。
飲んだミルクが肺に入ると、呼吸困難や誤嚥性肺炎を発症して死に至る可能性もあるのです。

口蓋裂の治療は外科手術で行います。
あまり早い時期に行うとまた元に戻ってしまう可能性があり、手術に耐えられるだけの体力もないため、子犬が生後2ヶ月から3ヶ月程度まで育ってから行われることが一般的です。

ある研究においては、葉酸が不足している妊娠中のワンちゃんの割合は全体の14%に上るという結果も出ています。
また、妊娠中のワンちゃんと同様に、成長期の子犬も葉酸を大量に消費します。
成犬では体重1kg当たり約4gが必要なところ、子犬では8g程度必要になるともいわれています。

犬の偏食のために、摂取する栄養素が偏っている

偏食で、いくら工夫をしてもドッグフードを食べてくれないというワンちゃんは一定数存在します。
その場合には手作り食を与えたり、中には「おやつなら食べるから」と犬用おやつを食事代わりとして与えてしまう飼い主さんもいらっしゃいます。

手作り食の場合は、栄養バランスが考慮されたメニューであれば問題ないですが、知識不足などから必要な栄養素を満たさない食事となってしまう可能性もあります。
また、犬用おやつはもちろんのこと、偏食家のワンちゃんが食べてくれる食材のみを使った食事を与え続けるなどすると、当然栄養が偏り、いつの間にか葉酸不足となっていることもあるのです。

一部の薬の服用

一部の抗がん剤や、抗てんかん薬を処方されているワンちゃんにおいても、葉酸の欠乏を起こすことが知られています。
抗がん剤ではメトトレキサート(メソトレキセート((葉酸代謝拮抗剤))、抗てんかん薬では最も使用頻度の高いフェノバルビタールなどで、血中の葉酸量が減ることが確認されています。
これらは獣医師の指示のもとで使用する薬ですので、愛犬にこれらの薬を投与していて不安なことが出てきた時には、すぐに主治医に相談するようにしましょう。

葉酸欠乏時にみられる症状

ワンちゃんが葉酸不足となると、主に以下のような症状がみられます。

  • 巨赤芽球性貧血
  • 下痢
  • 食欲低下による体重減少
  • 口内炎や舌炎、胃や腸の粘膜の炎症

巨赤芽球貧血とは、ワンちゃんの体内で赤血球が充分に作られずに、赤血球の前段階ともいえる赤芽球ばかりが大きくなってしまうことによって起こる貧血です。
葉酸とビタミンB12は、お互いに協力して赤血球を作っています。
しかし、どちらか一方でも不足してしまうとこの巨赤芽球性貧血を発症する可能性があるのです。

赤血球は、赤芽球が成長して分裂することによって作られます。
しかし、葉酸やビタミンB12が不足すると、赤芽球の成熟スピードが遅くなります。
そして赤血球に分化されないままに大きくなり、最終的には死滅してしまうのです。
そのため、ワンちゃんの体内で赤血球が足りなくなり、貧血となります。

この貧血は、たとえヘモグロビンが足りていたとしても発症するため、悪性貧血という名前で呼ばれることもあります。
この病気になると、心拍数の増加や疲れやすくなる、食欲不振などの他の貧血と同じような症状が出てきます。

葉酸の欠乏を起こすと、ワンちゃんが葉酸不足を補おうとして、散歩中に道端の草を食べてしまう可能性もあります。
屋外に生えている草には農薬などの有害物質が付着している可能性もありますし、アジサイやアサガオ、菊、ヒガンバナなど、ワンちゃんに対して毒性を持つ植物も多く存在します。
外に出かけなくても、チューリップやシクラメン、ポインセチア、ポトスなど、自宅でよく育てられている植物にも、犬にとって危険な種類がありますので要注意です。

葉酸の過剰による健康被害は起こりにくい

葉酸は水に溶けやすい(水溶性)ビタミンのため、摂り過ぎてワンちゃんの体内で使い切らなかった分は尿として排泄されます。
葉酸は体の中では肝臓に蓄えられますが、溜めておける量はわずかです。
加えて、葉酸自体がもともと毒性の低い栄養素であるといわれています。
そのため、過剰摂取でトラブルが起こる可能性はほとんどありません

ただし、人間のデータではありますが、サプリメントなどで葉酸ばかりを集中的かつ大量に摂取した際に、じんましんや呼吸困難、発熱などがみられることが確認されています。

葉酸は多くのドッグフードに添加されている

葉酸は熱や光に弱いビタミンです。
葉酸がドッグフードの原材料の中に含まれていても、調理過程や運搬中、保存中などに分解され減少してしまいます。
そのため、栄養素の補給目的で葉酸が添加されている商品が一般的です。
中には総合栄養食であっても、葉酸を添加していないドッグフードもあります。
これらは新鮮なレバーや野菜、豆類などをたっぷりと使い、栄養剤を加えなくてもワンちゃんの必要量の葉酸を摂取できるように設計されたフードです。

葉酸を多く含む食材と与える際の注意点

葉酸はレバーに多く含まれる

以下に、ワンちゃんが食べられる食材の葉酸含有量を比較した表を掲載いたしました。
フードを手作りされる飼い主さんや、ドッグフードのトッピングにお悩みのかたは参考になさってみてください。

まずは、数ある食材の中でも葉酸含有量がトップクラスのレバーを含む、肉類や魚などを比べてみました。
鶏、牛、豚はそれぞれで含有量の違いはあるにしても、他の食材と比べると非常に多くの葉酸を含んでいます。
これらの家畜の心臓や腸などのホルモンは、レバーに次いで含有量は多いのですが、一般的ではないために表からは除外してあります。
ホルモンの次に葉酸を多く含むのは鶏のモモ肉ですが、レバーに比べると遠く及びません。
愛犬に葉酸を摂取させたい場合には、レバーを用いることが最も効果的であると分かります。

魚介類で多くの葉酸を含むものには、ウニやカズノコ、イクラなどがありますが、いずれもワンちゃんが食べるには適さないため、表からは外しました。

次は、野菜や豆類の葉酸含有量です。
枝豆やモロヘイヤなどには100g当たり200μgを超える葉酸が含まれますが、全体的にレバーには劣ります。
しかし、枝豆はサヤに入ったまま調理をすれば、中の豆が守られて葉酸の損失が抑えられるというメリットがあります。
アレルギーなどで肉類が食べられないワンちゃんにとっては、良い葉酸源となるでしょう。

上記の豆類やエリンギには、ワンちゃんが消化を苦手とする食物繊維が多く含まれています。
与え始めは少量から始め、また、火を通して細かくするなど、少しでも消化しやすくしてあげることが大切です。

葉酸の吸収を阻害するカテキンに注意

葉酸は水溶性(水に溶けやすい性質)で、熱にも弱いため、調理過程で半分ほどに減少してしまうといわれています。
最も効率的に葉酸を摂取するためには生食が一番ではあるのですが、上記の食材でワンちゃんに生で与えられるものはありません。
そもそも犬が生で物を食べることに関しては、生肉でさえ賛否両論あるのです。
そのため通常は、ほとんどの食材は火を通してから与えることになりますが、水溶性の葉酸を含んだ食材の場合は、葉酸が溶け出た汁まで飲める献立にすることをオススメします。

また、インゲン豆やレンズ豆、キャベツなどに含まれているタンニンは、酸化するとカテキンという物質に変化します。
このカテキンは葉酸や鉄の吸収を邪魔する作用があります。
したがって、愛犬に葉酸を多く摂らせたい時にはこうした食材に注意が必要です。

しかしこれらの豆や野菜には、ワンちゃんの健康維持に役立つ栄養素が多く入っていますので、一切与えないというのももったいない話です。
適量をたまに与える程度に留め、過剰摂取させることは避けましょう。

まとめ
葉酸は、妊娠中のワンちゃんや子犬に限らず、全ての犬たちが健康に生きていく上で必要不可欠な栄養素だということが分かりました。
体に微量しか貯蔵できないために、毎日補給する必要があるというのは少々面倒ではありますが、良質な食事をきちんと取れているワンちゃんであれば自然と葉酸を摂取できているでしょう。
反対に偏った食生活をさせていると、ワンちゃんに深刻な影響が出てしまう成分でもあります。
愛犬を葉酸不足にしないためにも、しっかりと食事を管理してあげることが大切です。