鶏の各部位の栄養素含有量比較(可食部100g当たり)
栄養素 |
単位 |
もも (皮つき) |
もも (皮無し) |
むね (皮つき) |
むね (皮無し) |
ささみ |
レバー |
エネルギー |
kcal |
200 |
116 |
191 |
108 |
105 |
111 |
タンパク質 |
g |
16.2 |
18.8 |
19.5 |
22.3 |
23 |
18.9 |
脂質 |
g |
14 |
3.9 |
11.6 |
1.5 |
0.8 |
3.1 |
ビタミンA |
μg |
39 |
18 |
32 |
8 |
5 |
14000 |
ナイアシン |
mg |
5 |
5.6 |
10.6 |
11.6 |
11.8 |
4.5 |
ビタミンB6 |
mg |
0.18 |
0.22 |
0.45 |
0.54 |
0.6 |
0.65 |
鉄 |
mg |
0.4 |
0.7 |
0.3 |
0.2 |
0.2 |
9 |
鶏には、タンパク質だけでなく、ビタミン類や鉄分なども豊富に含まれています。
上の表の通り、部位によって、もしくは皮つきかそうでないかによっても、栄養素の含有率は異なります。
各栄養素の働きを把握して、ワンちゃんの体調によって使い分けてあげましょう。
ビタミンA
ビタミンAは、肝臓に蓄積され、油に溶ける性質を持つ栄養素です。そのため、鶏のレバーや、皮つきの肉に多く含まれています。
ビタミンAは、オプシンと呼ばれる視細胞に含まれています。オプシンのお陰で、動物は光を感じて物をハッキリと見ることができるのです。
明るい場所から暗闇へと入ると、始めは何も見えなくても、かすかに光があれば、次第に目が慣れて周囲が把握できるようになります。
これを暗順応(あんじゅんのう)といいます。
ビタミンAの不足はオプシンの機能低下に繋がり、この暗順応がうまくいかなくなってしまうのです。
また、ビタミンAは粘膜を丈夫にすることで、口や鼻の中、胃、食道、呼吸器官などを外的な刺激から保護してくれます。
さらに免疫機能を正常にキープする作用もあるため、普段から体調を崩しがちなワンちゃんや、風邪やその他の感染症にかかりやすい冬場などには、特に積極的に摂取させたい栄養素です。
鶏肉などの動物性食品に多く含まれるビタミンAはレチノールと呼ばれる種類であり、吸収性に優れています。
しかし、肝臓に溜まりやすいという欠点もあるため、過剰摂取には注意が必要です。
特に鶏レバーには100g当たり14000μgという多くのレチノールが含有されています。
ワンちゃんの肝臓にレチノールが過剰に蓄積されると、腎臓や肝臓機能の低下、筋肉の痛み、脱毛、皮膚の発疹など、さまざまな過剰症が起こることが確認されています。
吸収性は低いものの、体に溜まりにくいビタミンAは、植物性食品に多いβ‐カロテンです。
ナイアシン
ナイアシンは、ビタミンB群の仲間です。
動物の体内には、数百種類の酵素が存在し、健康を維持するためにさまざまな働きをしています。
これら酵素の働きをサポートする役割を持つ栄養素がナイアシンです。
ナイアシンは、400種類以上の酵素を手助けする役割を持っていることが分かっています。
主に、タンパク質・脂質・炭水化物を燃やしてエネルギーに変換する際に作用する酵素をサポートし、効率的なエネルギー産生を行います。
また、ナイアシンには毛細血管を広げ、血流を促進する作用も確認されており、ワンちゃんの肩や首のコリを緩和してくれる働きも期待できます。
愛犬にナイアシンを摂取させたい場合には、ささみや胸肉など、サッパリとした部位を選びましょう。
ビタミンB6
ビタミンB6は、タンパク質の再合成(「必須アミノ酸をバランスよく含んだタンパク質(リンク)」で解説しています)に関与する酵素の働きを助ける補酵素として知られています。
食事から摂取したタンパク質を効率よく吸収・利用するためには、不可欠な栄養素です。
ビタミンB6がサポートする酵素は、100種類を超えるといわれています。
ビタミンB6は各酵素と協力し、免疫力の維持、ヘモグロビンの生成、過剰な塩分の排泄、脂肪の代謝などに関与し、ワンちゃんの体のコンディションを維持しているのです。
ビタミンB6の補給には、レバーやささみが適しています。
鉄
鶏レバーにたっぷりと含まれている鉄は、ヘモグロビンやミオグロビンの構成成分として有名です。
ヘモグロビンは血流に乗って体中をくまなく巡り、酸素を届ける役割を持ちます。
ミオグロビンは筋肉の中で待機しており、ヘモグロビンから酸素を受け取って蓄えます。運動などで酸素不足になりそうな時には、ヘモグロビンが酸素を放出して、酸欠になることを予防しているのです。
動物性食品には、吸収性に優れるヘム鉄が含有されています。
ヘム鉄の吸収率は最大で30%程度です(食品の種類、同時に摂取する他の食材や栄養素との組み合わせなどにより、吸収率は変動します)。
「たったの30%?低い!」と感じられるかもしれませんが、鉄はもともと吸収率の悪いミネラルです。
植物などに含まれる非ヘム鉄が、5%前後しか吸収されないことを考えると、30%という数値がいかに高いかがお分かりいただけるのではないでしょうか。
各栄養素の詳しい働きや、欠乏症・過剰症については、それぞれの解説ページをご覧ください。
→ドッグフードの栄養素「ビタミンA」の働きとは?過剰摂取に注意
→ドッグフードの栄養素「ナイアシン」の働きとは?欠乏は命の危険も!
→ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」の働きについて知ろう
→ドッグフードの栄養添加物「硫酸鉄」の働きは?不足するとどうなる?(こちらのページには、鉄分についての解説も載っています)
チキンミールと鶏脂について
鶏は、チキンミールや鶏脂(チキンオイル)などの形に加工されて、ドッグフードに使用されることもあります。
チキンミールと鶏脂について、簡単にご説明します。
チキンミール
鶏から、食用となる肉や内臓を取り除いて残った部分を使用した素材です。
鶏の脚や頭、羽毛、血液、食用として利用されない内臓などのいわゆる「副産物」が主な原材料であり、これらを乾燥・粉砕して作られます。
チキンミールは、主にタンパク質源としてフードに配合されていますが、上記のような「食用に適さない」部位が使われることが非常に多く、「しっかりと栄養が摂れるのか不安だ」という意見も根強くあります。
また、副産物は本来廃棄される部分であるため、ミールになるまでの衛生面や鮮度管理などが適切になされているのかを疑問視する声も多いのです。
「粗悪な原料を使用している」、「栄養価が期待できない」など、マイナスイメージの強いミールですが、ミールの全てが質の悪いものというわけではありません。
素材にこだわったプレミアムフードなどでは、「人間用食品の安全基準を満たした、鶏の肉だけで作ったミール」が使われることも増えてきました。
ミールは、原材料から水分を飛ばして製造するため、成分がギュッと凝縮されています。
良質な素材から作られたミールは、ワンちゃんの良いタンパク質供給源となるのです。
こうした質の良いミールを使用したドッグフードのパッケージには、
「当社のミールには、副産物は使用しておりません」
「肉の部分だけを使用したミールです」
などといった内容の文言が書かれているケースが多いので、チェックしてみてください。
鶏脂(チキンオイル)
鶏脂(チキンオイル)は、ワンちゃんの嗜好性が高く、ドッグフードにもよく利用されている油脂のひとつです。
植物性油脂に比べて、動物性油脂は安定性に優れた脂肪酸から構成されているため、酸化に強い傾向があります。
しかし、鶏の脂はやや植物性に近い組成であるため、酸化の影響を受けやすいのです。
油脂の酸化はドッグフード自体の品質低下を招き、摂取したワンちゃんに下痢やアレルギーなどを引き起こす要因ともなります。
これを防ぐためには、油脂にあらかじめ酸化防止剤を添加しておくことが有効です。
酸化防止剤にも色々な種類があり、BHTやBHA、エトキシキンといった、健康リスクが懸念される物質も存在します。
理想としては、ミックストコフェロール(ビタミンE)やビタミンC、ローズマリー抽出物など、ある程度の安全性が確認されている酸化防止剤を使用したものを選びたいものです。
各酸化防止剤の詳細については、以下のページをご参照ください。
→ドッグフードの酸化防止剤「BHT」の危険性
→ドッグフードの酸化防止剤「BHA」の犬への健康リスク
→ドッグフードの酸化防止剤「エトキシキン」の危険性とは?
→ドッグフードの栄養添加物「ビタミンE」の種類と働き(こちらではミックストコフェロールの解説も行っています)
→ドッグフードの酸化防止剤「ローズマリー抽出物」の作用と安全性
とはいえ、油脂にどのような酸化防止剤が使われているかをパッケージに表示する義務は、メーカーにはありません。
そのため、ドッグフードに含まれている原材料の全てを知ることは、私たち消費者には困難なのです。
親切なメーカーでは、酸化防止剤に何を使用しているか、また、上記のような危険性が指摘されている成分を使っていない旨などを、フードパッケージやWEBサイト上に公開しているケースもあります。
また、「動物性油脂」といった曖昧な表記の場合、どのような原料が使用されているか分かりません。
中には、飲食店などで何度も調理(揚げ物など)に使用され、廃棄されるべき劣化した油が使用されていることもあるといわれています。
100%安全とまでは断言できませんが、「鶏脂(ミックストコフェロールで保存)」などと、油脂の素材や添加物名が明記されているフードの方が、安心度は高いでしょう。
鶏肉アレルギー
「犬は鶏肉でアレルギーを起こしやすい」といわれる理由
前述通り、鶏肉はドッグフードに最も多く使用されている肉です。また、ワンちゃん用のおやつにも幅広く使用されています。
高タンパク質で低脂肪、その上、牛肉などに比べて価格も安く、さまざまなメニューに利用できるなど、メリットも大きいことから、フードのトッピングや手作りごはんに鶏肉を利用している飼い主さんも多いことでしょう。
当然、ワンちゃんの口に入る機会も多く、その分アレルギーを発症するリスクも高まります。
アレルギーは、アレルゲン(アレルギー症状を引き起こす物質)の摂取が頻繁であればあるほど、発症する確率は上昇します。
「鶏肉は、犬がアレルギーを起こしやすい食材である」といわれる背景には、こうした事情もあるのです。
もしも、ラム肉がドッグフードに頻繁に使用されていたならば、「犬はラム肉にアレルギーを持つ子が多い」といわれていたかもしれません。
食物アレルギーの症状は皮膚に出やすい
ワンちゃんの食物アレルギーは、皮膚の赤みや痒みとして現れることが一般的です。
症状が出やすい部位には、脚の付け根や肛門周り、背中、顔面(特に目や口の周囲)、耳、脚の先などが挙げられます。
耳を頻繁にかく、脚の指の間や肉球が赤く腫れあがるほどになめ続けるといった愛犬の行動は、食品アレルギーを発症している可能性があります。
あまりの痒みに、飼い主さんがワンちゃんの名前を呼びかけても、無視してなめ続けているケースも多いです。
また、軟便や下痢、嘔吐を繰り返す場合にも注意が必要です。
当然のことですが、鶏肉アレルギーの愛犬に、鶏肉を使ったメニューは厳禁です。
幸いにも現在では、鶏肉以外のタンパク質源を使用したドッグフードも多く販売されています。
そのため、鶏肉にアレルギーがあったとしても、他の種類の肉や魚を使ったフードの中に、愛犬の体質に適したものがみつかる可能性も高いでしょう。
やや面倒なのは、シニア犬用や体重コントロール用のフードには、鶏肉メインの商品がほとんどであるということでしょうか。
この場合には、鶏肉が含まれていない成犬用フードの量を減らしてあげるなどの工夫が必要となることもあります。
七面鳥や鴨肉は、鶏肉との交差性を持つ
鶏肉アレルギーのワンちゃんが、七面鳥(ターキー)の肉に対してもアレルギーを起こす、といったケースがあります。
鶏と七面鳥は異なる種類の鳥ですが、アレルギーを引き起こす成分の構造が類似しているために、免疫システムが七面鳥を鶏と勘違いして排除しようとする(=アレルギー症状の発症)可能性があるのです。
これを、アレルギーの「交差(交叉)性」や、「交差(交叉)反応」と呼びます。
鶏肉との交差反応を起こすリスクのある食材には、七面鳥の他、鴨や鶏卵、うずらの卵などが挙げられます。
もちろん、鶏肉にアレルギーを持つワンちゃんが、これらの食材に対しても100%症状を起こすわけではありません。
しかしもし、鶏肉不使用のフードを与えているにも関わらず、愛犬のアレルギー症状が緩和しない、あるいは悪化してきた、といった場合には、他のタンパク質に反応している可能性もあり得ます。
七面鳥や鴨肉は、日本ではそれほどメジャーな食材ではありませんが、ドッグフードには頻繁に利用されています。
特にアメリカでは、ミールに七面鳥が使用されることも多いため、アメリカ産のフードを購入する際には原材料をよくチェックしましょう。
鶏肉とアレルギーの交差性を持つ七面鳥です。興奮することによって、頭や首の皮膚の色が、青から紫・赤に変わることが呼び名の由来とされています。肉は高タンパクで低脂肪です。アメリカやブラジル、ヨーロッパ各国では盛んに飼育されています。
七面鳥、鴨肉、食物アレルギーの詳細については、以下の記事をご確認ください。
→ドッグフードの原材料「七面鳥(ターキー)」に含まれる栄養素
→ドッグフードの原材料「鴨(ダック)」の栄養素とアレルギー
→食物アレルギーの犬に対応したドッグフードの特徴(こちらのページでは、アレルギーを抱える犬用フードの話に加えて、アレルギーの概要や交差反応について、動物病院でのアレルギー検査などについてもご説明しています)
まとめ
カロリーが低くタンパク質が豊富と、ヘルシーなイメージが強い鶏ですが、皮の有無や部位によって、栄養素の含有量の差が大きい食材でもあります。
風邪をひきやすい寒い季節にはビタミンAが豊富なもも肉を、貧血気味のワンちゃんにはレバーを使ったおやつを、というように、愛犬の体調によって使い分けができることも、鶏肉の魅力のひとつです。
ドッグフード類になくてはならない存在である鶏肉は、それだけワンちゃんのアレルギー発症の危険性も高い素材です。
他のタンパク源を使用したフードとローテーションを組むなど、アレルギーのリスクを低く抑える工夫をしながら、上手に利用していきたいですね。