ドッグフードの原材料「鴨(ダック)」の栄養素とアレルギー

ドッグフードの原材料「鴨(ダック)」

鴨(ダック)の肉は、コクのある味を持つ高級食材として世界中で愛されています。
日本でも昔から鴨南蛮や治部煮、すき焼きなどさまざまな料理にアレンジされて食されてきました。

私たち人間から人気を集める鴨肉は、ドッグフードの世界でもポピュラーな原材料のひとつです。
鴨肉を使ったフードには多くの種類があり、ワンちゃん用のジャーキーなどといったおやつにも加工されています。

ここでは、鴨に関する基礎知識から栄養素、使用されるドッグフードの傾向からアレルギー発症の可能性まで幅広く解説していきたいと思います。

鴨とは

食肉としての鴨の特徴

鴨(ダック)の肉は、鶏と比較するとしっかりとした歯ごたえがあります。
鶏肉は万人に好まれやすいサッパリとした味ですが、鴨肉はやや特有のクセがあり、好き嫌いが分かれやすい肉です。
しかし、生産者のたゆまぬ努力によって改良が繰り返され、昔よりも臭みが少なくおいしい鴨肉が生産されるようになっています。

また、鴨肉の脂肪は融点(溶け始める温度)が非常に低く、14℃を超えると液状化し始めます。
そのため鴨肉は胃にもたれる心配が少なく、消化性にも優れているといわれているのです。
口に入れると体温で脂が溶け出すため、鴨肉を使った料理は冷めても口どけ良くおいしく食べることができ、もともと冷たい状態で提供するレシピにも適しています。

ちなみに鶏は30℃~40℃、牛は35℃~50℃、豚は28℃~48℃程度が脂肪の融点とされていますので、冷めると白く脂が浮き、見た目や食感に影響を及ぼします。

アヒルやガチョウも鴨の仲間

上の写真はマガモのオスとメスを写したものです。緑色の頭部を持つ右側がオス、全身が茶色がかっている左側がメスです。

「鴨」と呼ばれる鳥にはいくつかの種類が存在します。
「マガモ」や「アイガモ」のように名前に「鴨」の付く鳥たちの他、「アヒル」や「ガチョウ」なども鴨の仲間です。
それぞれの特徴を簡単に表にしてみました。

鴨の仲間4種類の特徴
品種 漢字表記 特徴
マガモ 真鴨 野生の鴨を意味します。
オスは緑色の頭頂部を持ち、メスは茶色と黒が入り混じった色の羽毛を持つことが特徴です。性別により見た目が大きく異なります(上の写真をご覧ください。右がオス、左がメスのマガモです)。
肉から皮に至るまで、しっかりとしたコクのある味わいですが、臭みも強いため食べ慣れていないと抵抗感を感じることもあります。
一般的に「鴨」といえば、マガモのことを指すことが多いです。
しかし肉の流通量は非常に少なく希少とされます。
アヒル 家鴨
真っ白な体毛と黄色いくちばしでお馴染みのアヒルは、マガモを飼い慣らしたものです。
生物学的にはマガモとの違いはありませんが、2000年前から続くといわれる飼育の歴史の中で、マガモよりも大柄な体格へと改良されました。
柔らかで脂肪がたっぷりと乗った肉質を持ちます。
北京ダックや皮蛋(ピータン。アヒルの卵を熟成させたもの)など、中華料理で頻繁に使われる他、世界中で食べられています。
アイガモ 合鴨
間鴨
相鴨
マガモとアヒルを掛け合わせて生み出された品種です。
そのため、名前表記には、「合う」や「間」など「2種類の鳥の交配」を意味する漢字が使用されています。
肉質はマガモよりも柔らかく、品種によって大味なものから、甘みやコクの強いものまでさまざまです。
また肝臓は、「肥大した(グラ)肝臓(フォア)」という名を冠された「フォアグラ」の原料となります。
ガチョウ 鵞鳥
鵝鶏
もともとは野生の雁(ハイイロガンとサカツラガン)を家禽化(※1)した鳥がガチョウです。
粗末な餌でもよく育ちますが、警戒心が強く気性が荒いという性格上のデメリットも持ちます。
ガチョウの肉は中国やドイツで料理に用いられることが多く、日本でも肝臓がフォアグラとして食されています。

この中で、「鴨肉」として頻繁に利用されているのはアイガモとアヒルです。
アイガモやアヒルのおおもととなったマガモは脂質3g、エネルギー128kcal(100g当たり)という低脂肪低カロリーな食肉です。
対してアヒル肉は、脂質、カロリーともに非常に高いことに特徴があり、この脂の多さが食べる人によっては鼻に付いたり、「脂肪ばかりでうま味が薄い」と感じる要因ともなります。

そこで、アヒル肉の味をもう少しマガモ寄り(コクやうま味の増加)に近付けるために作出されたのがアイガモです。
そのため、アイガモの肉はマガモほどではありませんが、アヒルと比べるとややヘルシーな成分組成となっています(鴨肉の栄養素の詳細については後述します)。

※1 家禽・・・人の手によって改良され、飼育や繁殖が行われている鳥類の総称です。一般的には食肉や卵、羽毛などを手に入れるために育てられる鳥を意味しますが、愛がん動物(ペット)として飼われているものを指す場合もあります。

鴨肉の栄養素

以下に示した表は、鴨肉とその他の肉類の栄養素含有量を比較したものです。
栄養素は、鴨類の肉に特に多く含有されているものを抜粋しました(タンパク質のみ、参考程度に載せてあります)。
前述の通り、鴨肉の種類にはいろいろとありますが、一般的に食肉として用いられる機会の多いアイガモとアヒル肉の数値を掲載しています。
アイガモ・アヒルと比較する肉類には、ドッグフードにおいても、日本国内においてもポピュラーな3種類の肉を選びました。

この表からは、鴨類の肉はその他の肉類と比べてエネルギー(カロリー)や脂質が高く、多くの鉄を含んでいることが読み取れます。
ビタミンB2は突出しているとまではいえませんが、アイガモはトップの含有量であり、アヒルは豚肉と同等量です。
こうしたことを踏まえて、それぞれの栄養素を解説していきたいと思います。

アイガモ・アヒルと他の肉類との栄養素含有量比較(可食部100g当たり)
栄養素 単位 アイガモ アヒル
(もも)
和牛
(もも)

(もも)
エネルギー kcal 333 450 200 246 183
タンパク質 g 14.2 12.2 16.2 18.9 20.5
脂質 g 29 42.3 14 17.5 10.2
一価不飽和脂肪酸 g 13.32 20.68 6.61 8.98 4.24
ビタミンB2 mg 0.35 0.3 0.18 0.2 0.3
mg 1.9 1.8 0.4 1 0.7

鴨の脂質の大部分はオレイン酸

「鴨肉は脂肪分が少なくカロリーも低いため、ダイエットに最適である」といった話を耳にされたことのある方は多いのではないでしょうか。
しかしこの説が当てはまるのはマガモに対してのみです。
一般的に鴨肉として広く流通しているアイガモやアヒルの肉は、(品種にもよりますが)全体的に脂質もカロリーも高い傾向にあります。
しかし鴨肉(以降、一般的によく食べられているアイガモとアヒルの肉を総称して「鴨肉」と呼称します)の脂質は、鶏や牛、豚などとは少し異なる成分バランスで構成されているのです。

上の表を見ると、アイガモの一価不飽和脂肪酸の含有量は13.32g、アヒルに至っては20.68gと、同じ鳥類である鶏を始めその他の肉類を大きく引き離しています。
鴨肉の脂質の大部分を占めるのは、この一価不飽和脂肪酸※2)に属する「オレイン酸」です。
オレイン酸はオリーブオイルやアボカド、アーモンドなどの植物性食品に多く含有されています。
通常、鶏肉や豚肉といった動物性食品は、飽和脂肪酸(※3)の割合が高いことが一般的であるため、不飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含有する鴨肉は珍しい肉類なのです。

オレイン酸はガンの予防効果が期待できるとよくいわれます。
その理由は、オレイン酸の持つ過酸化脂質発生の抑制作用にあります。
過酸化脂質とは、活性酸素(酸素が変質しやすくなった状態)により脂質が酸化した状態を指します。「脂質が錆び付いた状態」と表現した方が伝わりやすいでしょうか。

ワンちゃんの体内の脂質が酸化すると、ガンや心臓病、高血圧、糖尿病、アレルギーなど、さまざまな疾病の原因となるといわれています。
さらには老化のスピードを加速させるという悪影響までも及ぼすため、愛犬の体をいつまでも若々しく健康に保つためには、過酸化脂質をなるべく発生させないようにすることが大切なのです。
オレイン酸にはこの体にとって有害な過酸化脂質が作られることを防いでくれる作用があります。

またオレイン酸は、悪玉コレステロールと呼ばれる「LDLコレステロール」の数値を減少させることでも知られており、コレステロール過剰による高脂血症や動脈硬化、心筋梗塞などからも守ってくれます。

このオレイン酸を豊富に含有した鴨肉は、上で挙げたような「生活習慣病」にかかるリスクが増加するシニア期のワンちゃんはもちろん、若いワンちゃんの健康維持にも役立つ食品なのです。

また、オレイン酸は皮脂にも含まれており、しっかりと供給してあげることで、ワンちゃんの皮膚を外的刺激から保護し、適度にしっとりとした良いコンディションに保つことができます。
もちろん皮膚から生えている被毛にも好影響を与えますので、年齢が上がっても若々しい毛並みをキープすることに役立ちます。

脂質というと「太りやすい」、「血管に溜まり、循環器障害の要因となりやすい」などというイメージから、とかく悪者扱いされがちですが、このように健康に非常に有益な種類も存在するのです。

※2 一価不飽和脂肪酸・・・脂肪酸は不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸に大別されます。さらに不飽和脂肪酸はその炭素の結合数により、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分かれます。一価不飽和脂肪酸にはオレイン酸が、多価不飽和脂肪酸には植物油に多く含有されるリノレン酸やリノール酸、青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などが属します。

※3 飽和脂肪酸・・・中性脂肪やコレステロールのもととなる脂肪酸です。また、運動するためのエネルギーとしても使われます。融点が高いため血管中でも固まりやすく、過剰に摂取することにより、中性脂やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)過多となることが懸念されています。

皮膚の保護、脂肪燃焼に役立つビタミンB2

鴨肉には、ビタミンB2(リボフラビン)も豊富に含有されています。
ビタミンB2もオレイン酸のように、過酸化脂質の害からワンちゃんを保護してくれる働きを持つ栄養素です。

体内で生成された過酸化脂質を分解して無害化する「グルタチオンペルオキシダーゼ」という酵素があるのですが、この酵素は役目を終えると過酸化脂質と戦う力がなくなってしまいます。
使い物にならなくなったグルタチオンペルオキシダーゼを、再び活動できる状態へと戻すことができるのがグルタチオン還元酵素です。
ビタミンB2は、この還元酵素の働きをサポートし、グルタチオンペルオキシダーゼをスムーズに復活させることに貢献します。
そのため、間接的にではありますが、ビタミンB2も体の酸化を防いでくれる働きを持つということになるのです。

ビタミンB2は「美容のビタミン」や「発育のビタミン」と呼ばれることもあり、これらの愛称が表す通り、皮膚や被毛の強化や保湿、成長促進にも役立つ栄養素です。
皮膚や被毛の生まれ変わりを助けるため、ケガの治りも早まります。
さらに口腔内や目の粘膜を保護して、白内障の予防にも繋がるといわれています。

また、ビタミンB2は脂質がエネルギーへと変換される際にも活躍します。
脂質からエネルギーを産生するには「フラビン」という物質が必要となりますが、ビタミンB2にはこのフラビンの働きを助けて脂肪燃焼の効率をアップさせる作用があるのです。
ビタミンB2のサポートのお陰で脂質がよく燃え減少すると、その分体に蓄積する量は減ります。
ビタミンB2は運動量の多いワンちゃんや体重が気になるワンちゃんを支えてくれる栄養素でもあるのです。

ビタミンB2は水に溶けやすい性質を持つため、鴨肉を使ってフードを手作りする際には、スープごと食べられるメニューにすると、ワンちゃんに無駄なく摂取させることができます。

ビタミンB2についての詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています。→ドッグフードの栄養素「ビタミンB2」の働きと欠乏の危険性

体内の酸素供給に不可欠な鉄分

鴨肉に含まれる鉄分は非常に多く、上記の表の数値でも、牛もも肉のおよそ2倍、鶏もも肉の4~5倍ほどの含有量を誇ることが分かります。
鴨肉に含まれる鉄分は「ヘム鉄」と呼ばれ、体内での吸収性に優れています。
鉄分にはヘム鉄の他に、植物に多く含まれる非ヘム鉄がありますが、こちらは吸収効率が非常に悪いのです。
非ヘム鉄が5%程度しか体に吸収されないのに対し、ヘム鉄の吸収率は約30%といわれています。
したがって、愛犬に鉄分を補給したい時には鴨肉を始めとした肉類を使うことが効率的です。

鉄分は、体中を巡って酸素を届けるという重要な役割を持つヘモグロビンの原料となります。
また、ヘモグロビンが運んできた酸素を受け取り、筋肉中に取り込むミオグロビンも鉄分から作られます。
ミオグロビンは体内で酸素不足が起こると、自分の持っている酸素を吐き出して補うという働きもあり、このお蔭で生物が長時間バテずに運動し続けることができるのです。

鉄分が不足すると、ヘモグロビンやミオグロビンが充分生成できなくなり、貧血が起こります。
ワンちゃんも人間と同様に、貧血によって動悸や疲労感を感じるようになります。
具体的には、本来は活発な愛犬が少しの運動で息を切らせたり、けだるそうに寝てばかりいるようになることがあります。
また、被毛の色ツヤが悪くなり切れやすくなる、脱毛する、下痢を起こすなどの症状が見られることもあるため注意が必要です。

顔色が青白くなるという症状もありますが、全身を被毛に覆われているワンちゃんの場合、皮膚の色を確認することは困難です。
そこで、歯ぐきの色を参考にしてみましょう。健康な状態ではピンク色の歯ぐきが白っぽく変色している時には、貧血が疑われます。
普段から、愛犬の歯ぐきをチェックして、平常時の色を把握しておきましょう。

このように、ワンちゃんが生きる上で欠かすことのできない栄養素である鉄分が、鴨肉には豊富に含まれています。
特に鉄分が不足しがちな授乳中のワンちゃんや成長期の子犬の鉄分補給には便利です。

鴨肉を使用したドッグフードとアレルギーについて

ラインナップ豊富な鴨肉フード

鴨肉を使ったドッグフードは、多くの種類が販売されています。
ドライフードはもちろんのこと、缶に詰められたウェットフード、手作りフードやトッピングに使える生肉など、豊富なラインナップです。
ワンちゃん用のおやつでは、ササミや砂肝を乾燥させたジャーキー類が人気です。
こうしたフードのパッケージには「鴨」と書いてある他、「ダック」と表記されていることもありますが、どちらも同じ「鴨肉」を使用した商品です(「アヒル肉」などと詳細に記載されているケースもあります)。

鴨肉は、マガモを除いては高カロリー・高脂肪の傾向にあり、少量でも多くのカロリーが摂取できます。
そのため、しっかりとエネルギーを補給させたい活発なワンちゃんや、食欲が落ちているワンちゃんなどにもおすすです。

鶏肉やターキー肉との交差性に注意

アレルゲン(アレルギー症状の引き金となる物質)になりにくいとして、アレルギーを持つワンちゃん用のフードに利用されることもある鴨肉ですが、他の肉類との交差性(交叉性)には注意しましょう。

交差性とは、交差感作ともいい、「Aという物質に対してアレルギーを持つワンちゃんが、Aによく似たBという物質に対してもアレルギー反応を起こしてしまうこと」をいいます。
AとBという異なる物質であっても、アレルゲンとなる成分の組成が類似している場合に、免疫機能が「A=B」と誤認し、排除しようと攻撃してしまうケースがあるのです。

鴨肉と交差性を持つ食品には、鶏肉やターキー肉(七面鳥肉)、鶏卵、鴨に属する鳥類の卵などが該当するといわれています。
もちろんこれらの食品にアレルギーを持っているワンちゃんでも、鴨肉は問題なく口にできる子もいます。
しかし万が一のリスクを念頭に置きながら、与えるか与えないかを判断するようにしましょう。

まとめ

以上、鴨肉について詳しくみてきました。
鴨肉は、世間でいわれているほどにはカロリーも脂肪分も決して少なくはありません。
とはいえ、ワンちゃんの体調維持に役立つ良質な脂質を多く含んでいる健康的な食品であることは事実です。
カロリーが高いため、与えすぎはもちろん肥満の要因となりますが、オレイン酸やビタミンB2、鉄分などが豊富な鴨肉を必要以上に警戒することもありません。
ワンちゃんの普段の運動量や年齢、環境(妊娠中・授乳中か否かなど)などと、鴨肉の栄養を照らし合わせて上手に利用していきましょう。