ドッグフードの成分表示「粗繊維」について解説!

ドッグフードの成分表示「粗繊維」

商品名、原材料、賞味期限、メーカーのこだわり、原産国など、ドッグフードのパッケージにはさまざまな情報が記載されています。
その中には必ず、保証成分という欄が存在します。
保証成分とは、繊維やタンパク質、脂肪などが、どの程度の割合で含まれているかを示した項目です。
この欄をよくよくチェックしてみると、各栄養素の頭に「粗」という文字が付いていることに気付きます。例えば、繊維であれば「粗繊維」です。
粗繊維とはどのようなものなのか、繊維とはどう違うのか、詳しくみていくことにしましょう。

粗繊維とは

純粋な繊維のみの値ではないことを示している

愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)(※1)では、5種類の成分割合について、ドッグフードのパッケージに必ず表示しなければならないと定めています。
その5つとは、「繊維」の他、「タンパク質」、「脂肪」、「灰分(ミネラル」、「水分」です。
そしてその表示名には、「粗繊維」、「粗タンパク質」、「粗脂肪」など、それぞれの栄養素名の頭にもれなく「粗」という文字が付いています。

「おおざっぱ」や「雑」といった意味合いを持つ「粗」という漢字は、「粗雑」や「粗暴」、「粗悪」など、あまり良い意味で用いられることはありません。
そのため、「粗繊維」イコール「質の良くない、粗末な食物繊維」であると考えてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、ここでいう「粗」とは、食物繊維の品質の良し悪しとは全く関係がありません。
あるドッグフードにどの程度の食物繊維が含まれているかを測定する際には、測定方法の都合上除去しきれない繊維以外の成分も一緒に測ることになります。
「他の成分も含んだ値である」、すなわち、「純粋な繊維だけの数値ではありませんよ」という意味を込めて、「粗」という文字が使われているのです。

※1 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)・・・日本において飼育されているペットの健康を保護する目的で施行された、ペットフードの安全性を細かく規定する法律です。フードパッケージの表示方法やその内容、添加物の使用制限、違反品に対しては回収や輸入禁止命令が出せる、などといった項目が盛り込まれています。2018年3月現在、この法律によって守られているのは、犬と猫の口に入るフードのみです。これは、日本で最も多く飼育されている動物が、犬と猫であるためです。
ドッグフードに関する法律の内容と問題点

栄養素の割合の測定方法は、成分によってさまざまです。
食物繊維の場合は、ドッグフードをアルカリや酸で煮込み、洗浄や乾燥の工程を経て、溶け残った分量を測定します。
この溶け残りのほとんどは食物繊維ですが、繊維と同様、この測定方法では溶けないケラチン(※2)などの成分も含まれているのです。

つまり、
【食物繊維+溶け切らなかったその他の成分=粗繊維】
というわけです。

※2 ケラチン・・・18種類のアミノ酸から構成された、タンパク質の一種です。ワンちゃんの皮膚や爪、被毛などに含まれます。

粗繊維の割合は「~以下」で表される 

粗繊維の割合は、「○○%以下」というように、「以下」という表現を用いらなければならないとの規定があります。
これは日本国内だけでなく、世界中で共通の決まりごとです(英語を使ったパッケージには、「min.」と表示されています)。
繊維以外に「以下」を使って含有量を表示することが定められている成分は、灰分(ミネラル)と水分です。

これら3種類の栄養素は、ワンちゃんの健康維持に必要不可欠です。
しかし、(各成分によって異なるものの)その必要量は少なく、過剰に摂取することによって健康被害を引き起こすリスクを持った成分も少なくありません(水分は、生きるためにある程度の量が必要ですが、ドッグフードが主な供給源ではありません)。
そのため、「これ以上の量は含有されていませんよ」ということを証明するために、「以下」という文字が採用されているのです。

対して、タンパク質と脂肪は、「体を作る」、「動物が活動するための大きなエネルギー源となる」といった、重要な栄養素です。
さらに、繊維や灰分と比べて多くの量が必要であるため、「この値よりも多く入っています」という意味で、「以上」の表現をするようにと決められているのです(英語では「max.」と表記されます)。

粗繊維の割合はドッグフードによって異なりますが、一般的には4%以下が望ましいといわれています。
粗繊維が過剰になると、他の栄養素の吸収を邪魔して体内で有効利用ができなくなることがあります。
また、粗繊維が多すぎるフードの中には、栄養価が低いものがあるとの指摘も出ているのです。
ただし、

  • 減量が必要
  • 運動量が少ない(消費カロリーが少ない)
  • 胃腸が弱い
  • 糖尿病を抱えている

などといったワンちゃん向けに作られているドッグフードは、それぞれの状態をケアするために、繊維の含有量が多めに調整されている傾向があります。
4%を超える繊維量が必ずしも良くない、というわけではなく、ワンちゃんの体やライフスタイルに合ったフードを選んであげることが大切です。

水溶性食物繊維と不溶性食物繊維

時代によって変化する食物繊維の評価

炭水化物に分類される食物繊維は、日本において、「食物に含まれる成分のうち、(人間の)消化酵素では分解することが不可能な物質」のことを指します。
わざわざ「日本において」という表現をしたのには理由があります。
食物繊維はその時代によって「栄養素としての評価」がコロコロと変わり、何を持って「食物繊維」とするかが定義しにくい成分なのです。
そのため国によって食物繊維の意味合いは異なり、これからさらに定義が変更される可能性もあります。

食物繊維は長いこと、体の構成成分にもならず、エネルギー源にもならない、存在価値のない成分であると考えられてきました。
食物繊維は人の消化酵素で処理できないため、ずっとこのように考えられてきたのも頷ける話です。
しかしさまざまな研究を通して、腸内に生息する微生物たちが食物繊維を発酵・分解し、大腸の蠕動運動のエネルギー源として使用していることが分かってきたのです。
人間の体内におけるその熱量は、食物繊維1gにつき最大でも2kcal程度とごくわずかではありますが、確実に動力源としての役割を果たしています。

残念ながら2018年3月現在において、ワンちゃんの体内での食物繊維のエネルギー量については、明確なデータが得られていません。
しかし、ワンちゃんも人間と同様、食物繊維をエネルギー源として利用できるということはハッキリとしています。

食物繊維には、大きく分けて2種類が存在します。
水に溶けやすい性質を持つ「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」です。
ドッグフードの保証成分の粗繊維の値は、これら2種類の繊維を合計した割合が表示されています。

ふたつの食物繊維はさらに、さまざまな種類に細かく分けられます。
果物に含まれるペクチンやコンニャクのグルコマンナン、穀物に多いセルロース、甲殻類のキチンなどの名称を聞いたことがある方も多いことでしょう。
ここでは、この水溶性と不溶性という2種類の食物繊維について、詳しくみていくことにしましょう。

善玉菌を増やす水溶性食物繊維(可溶性食物繊維)

水溶性食物繊維(可溶性食物繊維)は、トロリとした食感の果物や、ヌルヌルする海藻類、プルッとしたコンニャク、一部の野菜など、のど越しが良く柔らかい食品類に多く含有されている成分です。
とはいえ、水溶性食物繊維の多い食品が、不溶性食物繊維を一切含んでいないわけではありません。
含有量の差こそありますが、ほとんどの食材は、水溶性と不溶性食物繊維の両方を含んでいます※3)。

※3 一部、例外的な食材も存在します。例えば乾燥きくらげは、含有する食物繊維のほぼ100%が不溶性食物繊維です。

水に溶けるとドロっとしたゲル状に変わる(一部、サラサラとした感触のものもあります)水溶性食物繊維は、ワンちゃんの体内でさまざまな健康効果を発揮します。
まず、腸内の水分に溶けて粘り気を生じ、便をやわらかくしてくれます。
上で述べたように、食物繊維は腸の蠕動運動(※4)を起こすエネルギーともなるため、このふたつが合わさることで、便が排泄されやすくなり、便秘の改善に繋がるのです。
それと同時に、腸内の老廃物や重金属(水銀や鉛、カドミウムなど)などの有害物質を吸着し、便とともに体外へと追い出す役目も持ちます。
加えて水溶性食物繊維は腸内微生物の好物でもあり、善玉菌の増殖にも繋がります。
つまり、「老廃物が一掃され、善玉菌が優勢」という理想的な腸内環境のできあがりです。
善玉菌は免疫細胞を活性化させる働きを持っているため、細菌やウイルスの感染からワンちゃんの体を守ってくれます。

※4 蠕動運動・・・腸や胃のいくつかの筋肉が繰り返し伸縮を行うことによって、食べた物を先へ先へと押しやる動きを意味します。

また、消化管内において水溶性食物繊維がゲル化すると、食べ物が腸内をスムーズに移動できなくなります。これは、消化のスピードがゆっくりになることを意味します。
さらに、糖分がゲルによってコーティングされたような状態となるため、消化されにくくなり、食後の血糖値の上昇が緩やかになるのです。

以上のことから、水溶性食物繊維は便秘や肥満に悩むワンちゃんや、風邪をひきやすいワンちゃん、糖尿病などの血糖値に問題を抱えるワンちゃんなどの体にうれしい成分であることがわかります。

★水溶性食物繊維を多く含む食材
ニンジン、ダイコン、じゃがいも、長いも、リンゴ、モモ、納豆、ワカメ、コンブなど。

食後の満腹感をもたらす不溶性食物繊維

玄米やフスマ、ゴボウなどの野菜類、キノコ類など、硬くボソボソとした食感を持つ食材が多く含有している繊維が、不溶性食物繊維です。

不溶性食物繊維は水に溶けませんが、スポンジのように水を吸い込んで膨らみます。
腸内で膨張した不溶性食物繊維は、便のかさを増し、水分が多く緩めの便をちょうどよい硬さに整えてくれます。
さらに、腸内の壁が優しく刺激され、蠕動運動が活発になるのです。

腸がよく動くようになると、便がどんどん押し出され、素早く排泄されます。
便は、体にとって不必要、あるいは有害な成分や菌を多く含んでいます。
不溶性食物繊維は、こうした不要な物質が腸内に長く留まることを防いでくれるのです。
ちなみに、水溶性食物繊維は老廃物を吸着して排泄するとお話しましたが、不溶性食物繊維の場合は絡めとってかき集めます。
便を柔らかくする、固める、という真逆の働きを持つ2種類の食物繊維ですが、便秘の解消や腸内の大掃除に役立つという点では共通しています。

また、胃の中で膨張した不溶性食物繊の役割は、食べた物が速やかに腸へと移動するのを妨害することです。
結果的に胃の中に食べ物が長時間留まり続けることになり、食後の満腹感が維持されます。

不溶性食物繊維は、便通や腸内環境の改善に役立つ他、食べても食べてもすぐにお腹が空いてしまうような食いしん坊のワンちゃん、少しの食事で我慢しなければならないダイエット中のワンちゃんに満足感を与えることができます。

ただし、不溶性食物繊維の便を適度に固める働きは、度を超すと便をカチカチにしてしまうということです。
不溶性食物繊維の過剰摂取は、便通の改善どころか便秘の誘発や、お腹の張りに繋がるリスクがあるため、大量の摂取は危険です。

通常のドッグフードであれば、食物繊維の配合量はコントロールされているはずですので、一度に大量に食べるなどしない限りは、摂り過ぎを心配する必要はないでしょう。
また、肉食性の強いワンちゃんにとって、ゴボウや玄米の大量摂取も考えにくい状況です。
したがって、常識的な食生活を送っているワンちゃんであれば、不溶性食物繊維が過剰となることはあまりありません。
例外的に、食物繊維配合のサプリメントなどを一度にたくさん飲ませることなどで、過剰摂取となる可能性もあるため、決められた分量を厳守しましょう。

★不溶性食物繊維を多く含む食材
ゴボウ、セロリ、レンコン、しめじ、シイタケ、玄米、トウモロコシ、アーモンドなど。

食物繊維を多く含む素材

最後に、ドッグフードによく利用される素材の中で、食物繊維の供給を主な目的として利用される食材や、食物繊維を多く含む食材をご紹介します。

フスマ
小麦粉の副産物であるフスマです。ドッグフードにおいて、不溶性食物繊維の供給源となります。

麦から小麦粉を作る際に取り除かれる胚芽や皮の部分を総称して、フスマと呼びます(小麦ブランと呼ばれることもあります)。
小麦粉に適さずフスマとなる麦の部位は、およそ22%程度といわれています。
ワンちゃんの嗜好性が低いため、大量に使うとフードへの食い付きが悪くなるフスマではありますが、体重コントロール用のドッグフードを作る時には便利な食材です。
植物の細胞壁の構成成分であるセルロースやヘミセルロース、リグニンといった成分が、不溶性食物繊維に該当します。
これはフスマだけではなく、下で紹介している穀類を原料とした素材全てに共通した成分です。

ビートパルプ(ビートファイバー)

砂糖ダイコン(甜菜/ビート)から砂糖を作る時に得られる副産物が、ビートパルプ(ビートファイバー)です。
甜菜糖(てんさいとう)やビート糖と呼ばれる糖分を取り出す際、砂糖ダイコンは圧力をかけられ絞られます。
その搾りかすとして残った繊維質がビートパルプです(中には薬剤を用いて、砂糖ダイコンから繊維質だけを取り出すという方法で作られたビートパルプも存在します)。
フスマと同様の不溶性食物繊維に加えて、ペクチンやガムといった水溶性食物繊維も含みます。

玄米

稲の種子からもみ殻を取り除いた状態のものが玄米です。
玄米100g当たりの水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の割合は、水溶性が0.7g、不溶性が3gと、不溶性食物繊維が特に多く含まれています。

玄米に関する詳細は、こちらの記事をお読みください→ドッグフードの原材料「玄米」は栄養豊富な一方、残留農薬の心配も

脱脂米ぬか

玄米を白米に加工することを精米といいますが、この精米時に得られる胚芽やぬか(表皮の部分)から油分だけを抽出(脱脂)し、残りを乾燥させたものです。
油分は酸化しやすく保存性の低下を招きます。
その点、油分が取り除かれた脱脂米ぬかは酸化が抑えられ、長期保存を前提として作られるドッグフードの原料としても適しています。

おから
向かって左側は生のおから、右側は水気を飛ばした乾燥おからです。

おからは、大豆から豆腐を作る際に得られる副産物です。
生のおからは水分量が多く腐敗しやすいですが、水気を飛ばした乾燥おからは保存性も良好で、ドッグフードやワンちゃん向けのクッキー、チップスなど、さまざまな商品に利用されています。
食物繊維が豊富なおからは、水分を吸ってお腹の中で膨らみ、非常に満腹感を得やすい食材です。
そのため、いつものフードにトッピングをして、愛犬のダイエットに役立てている飼い主さんも多くいらっしゃいます。

おからについては、おからのもとである大豆に関するページで詳しく解説しています。→ドッグフードの原材料「大豆」の栄養素やアレルギーのリスクについて

さつまいも

ワンちゃんは甘い味に敏感な味覚を持っています。
そのため、優しい甘さを持つさつまいもを好むワンちゃんは多いです。
さつまいもをドッグフードに使うことによって、嗜好性のアップも期待できるでしょう。

さつまいも100g当たりの食物繊維含有量は、水溶性食物繊維が0.9g、不溶性食物繊維が1.8gです。 食物繊維の理想的なバランスは、「水溶性:不溶性」が「1:2」の割合であるといわれています。
さつまいもの食物繊維は、この条件にピッタリと当てはまるのです。
ちなみに、小さめのさつまいもの方が食物繊維を多く含んでいます。

さつまいもの栄養素や与える時の注意点などについては、こちらで詳しく解説しています。→ドッグフードの原材料「さつまいも」は食物繊維が豊富!

ごま

ゴマは、ひと粒当たりのサイズが非常に小さく、料理のメインとして活躍する食材ではありません。
したがって、ゴマだけで食物繊維をタップリと摂取することは現実的ではないでしょう。

しかし、ゴマには水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方が含まれています。
その他にもゴマリグナンという独自の抗酸化物質や、牛乳の12倍ものカルシウムなど、栄養がタップリです。
香ばしい風味を持つゴマは、ドッグフードのみならず、ワンちゃん用のおせんべいやクッキーなどのおやつにも頻繁に使用されています。

ゴマの栄養素についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。→ドッグフードの原材料「ゴマ」の抗酸化作用と犬への上手な与え方

フラクトオリゴ糖

オリゴ糖の一種であるフラクトオリゴ糖は、少し意外ではありますが、食物繊維の仲間です。
「お腹にうれしい」などといったうたい文句とともに、ワンちゃんのフードやおやつに配合されています。

フラクトオリゴ糖は、トマトやアスパラガス、ニンニク、バナナなど、自然界に存在する植物にも含まれ、水溶性食物繊維が豊富です。
消化されることなく大腸まで到達したフラクトオリゴ糖は、腸内に生息するビフィズス菌や善玉菌の栄養源となり、これらの菌を増やす働きがあります(悪玉菌はフラクトオリゴ糖を好みません)。
またフラクトオリゴ糖には、カルシウムの吸収を良くしてくれる作用も確認されています。

まとめ
食物繊維の表示方法やその働きについてみてきました。
食物繊維は、便通の改善から、免疫力アップ、血糖値上昇の抑制など、さまざまな健康効果を持つ成分です。
しかし、摂取量によっては逆効果となる可能性もゼロではありません。
きちんと成分調整されているドッグフードであれば、深刻な健康被害が出るリスクは限りなく低いと思われますが、粗繊維のパーセンテージが高いフードを与えたところ、便の回数や量が増えすぎて困った、といった事例もあります。
「粗繊維の割合なんて、今までしっかりと確認したことがなかった」という飼い主さんも、愛犬の体調管理のために、フードの成分表示をちょっと気にしてみることをおすすめします。