ドッグフードの原材料「小豆」
小豆(あずき/アズキ)はマメ科ササゲ属に分類される、東アジアを原産とする植物です。
普段私たちが食べているのは、小豆の種子の部分です。
日本において、小豆は北海道で特に多く栽培されており、8月から11月頃にかけて収穫の時期を迎えます。
小豆は「あずき」と発音することが一般的ですが、本来は「しょうず」と呼ばれていました。
そのため現代でも、和菓子店や和菓子職人さん、先物取引(小豆相場)を行う人たちなどの専門家の間では「しょうず」といわれています。
小豆は私たち日本人の生活と密着した歴史を持つ植物です。
古来、小豆の赤い色には魔除けの力があると考えられていたことから、おめでたい席では小豆を使った料理が頻繁に振る舞われてきました。
現代においても、お赤飯などにその名残が伺えます。
また、界面活性作用(※1)のあるサポニンを含む小豆は、洗剤や洗顔料としても利用されてきたのです。
このように長い間人々から愛されてきた小豆は、ワンちゃんの体にうれしいポリフェノールやビタミンB群、カリウムなどが豊富に含まれた栄養価の高い食材でもあります。
今回は、そんな小豆について詳しくご説明していきたいと思います。
※1 界面活性作用・・・相性の悪い(馴染みにくい)性質を持った物質同士を、混ざりやすくする働きのことです。例えば水と油はお互いに弾き合い、そのまま混ぜようとしても分離してしまいます。しかしここに界面活性作用を持つ物質を加えると、水の表面(外との境目=境界面)や油の表面が変化を起こし、互いに混ざり合いやすい状態になるのです。また、界面活性作用には、水に溶けにくいパウダー状の物質と水を均一に混ぜたり、繊維の中へ水を染み込みやすくするといった働きもあります。私たちが日頃利用している石鹸や洗剤は、こうした仕組みを利用して汚れを落としてくれているのです。
小豆に含まれる栄養素
小豆は全体の約6割が炭水化物で構成されています。
しかし、炭水化物の他にもワンちゃんの健康に役立つ成分がたっぷりと含まれているのです。
ここでは小豆の特徴的な栄養素について、細かくご説明していきます。
免疫力アップやコレステロール減少効果が期待できるサポニン
小豆の栄養素の中でも真っ先にご紹介したいのは、小豆の皮に含まれているサポニンです。
サポニンは、小豆以外でもマメ科植物の葉や茎、根などにも多く含有されており、食べた時に「苦い」「渋い」と感じる原因ともなる成分です。
しかし昔からサポニンには、咳を鎮める、母乳の出を良くするなど数々の働きがあるとされ、中国では民間療法として小豆が利用されてきたという歴史もあります。
2018年1月現在においてサポニンは研究途上の物質であり、具体的な健康効果や体に対して作用する仕組みなどがすべて解明されているわけではありません。
しかしサポニンに、健康にとって有益なさまざまな力が秘められていることは、各種実験を通して判明しつつあるのです。
サポニンの健康効果のひとつは、免疫力を上げることです。
サポニンには、体の免疫力に関するナチュラルキラー細胞を活性化して、さまざまな感染症からワンちゃんをガードしてくれる働きがあると考えられています。
またサポニンは、本来は相性が悪いはずの水と油などを混ざりやすくする作用である「界面活性効果」を持ちます。
私たちに身近なものでご説明するならば、洗濯や食器洗いなどに使用する石鹸や洗剤が汚れを落としてくれるのも、この界面活性効果のお陰です。
界面活性効果を持つサポニンを含む小豆は、奈良時代から江戸時代頃にかけて洗剤としても用いられてきました。
小豆を茹でるとブクブクと泡が出てきますが、これはサポニンが煮汁に溶け出した合図であり、昔の人はこれを食器洗いなどに使用していたのです(※2)。
サポニンの界面活性作用は、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪の大掃除(=数値の減少)にも役立ちます。
また、コレステロールや中性脂肪は脂質からできています。
そのため酸化されやすいという弱点があるのですが、サポニンはこれらの成分の酸化自体も防いでくれるのです。
活性酸素がLDLコレステロールや中性脂肪を酸化させると、過酸化脂質という物質が出来上がります。
「酸化する」というのは、「錆び付いて劣化する」とイメージすると分かりやすいでしょう。
この過酸化脂質は、体内の他の細胞までをも酸化させてしまいます。
これにより細胞がダメージを受けると、ガンや心臓病、高血圧、アレルギーなどの発症に繋がると懸念されているのです。
私たち人間に比べてワンちゃんたちはLDLコレステロールの数が少ない(HDLコレステロール値が優位)動物ではありますが、一部の犬種(※3)においては脂質異常症(※4)になりやすいといったケースも存在するため、ワンちゃんだからといって安心はできません。
血中コレステロールや中性脂肪の数値に気を配ることは、人にとっても犬にとっても大切です。
※2 「サポニン」という名前も、この界面活性効果から名付けられました。サポニンの語源は、ラテン語で「石鹸」を意味する「サポ」であるとされています。
※3 高脂血症になりやすい犬種には、ロットワイラーやシーズー、ドーベルマン・ピンシャー、ミニチュア・シュナウザー、シェットランド・シープドッグ、ビーグルなどが挙げられます。
※4 脂質異常症・・・LDLコレステロールや中性脂肪が異常に多い、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が少ないなど、血中の脂質バランスが崩れる疾患です。別名、高脂血症とも呼ばれます。人間の場合、脂質異常症を放置すると動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などを誘発するリスクが高まります。しかし犬においてはこうした病気よりも、膵炎や神経の麻痺、目の疾患などが現れることが多いのです。
さらにサポニンには、脂質の代謝を促したり、体内に蓄積されることを抑制する働きもあるとされ、肝臓の機能障害や炎症の予防にもなると期待されています(※5)。
このため、体重の増加が気になるワンちゃんや肝臓の機能が心配なワンちゃんなどにも、小豆は適した食材なのです。
※5 肝臓に付いた脂肪の酸化は、肝臓そのものを損傷させ、働きの低下、時には炎症を引き起こす要因にもなるといわれています。
いまだ研究中とはいえ、多くの健康効果が明らかになりつつあるサポニンですが、胃腸が弱っているワンちゃんが摂取することにより、下痢や腸内の炎症といったトラブルを誘発するケースもあるといわれています。
それに加えて、食物繊維の多い小豆は、犬にとって決して消化が容易な食べ物ではありません。
普段から下痢気味のワンちゃんや胃腸が弱いワンちゃんには、小豆を与えることは控えたほうがよいでしょう。
強力な抗酸化作用を秘めるポリフェノール
小豆には、アントシアニンやカテキングルコシド、プロアントシアニジン、ルチンといったポリフェノールがたっぷりと含まれています。
ポリフェノールとはひとつの成分の名称ではなく、植物が紫外線や外敵から自分を守るために作り出す成分の総称です。
野菜などを食べた時に苦みを感じることがあるかと思いますが、ポリフェノールはこの苦さの原因ともなります。
有害な紫外線は植物自体にダメージを与えますし、虫や鳥、草食(あるいは雑食)性の動物などに種子が食べられてしまっては、次の世代に命が繋がりません。
このため、ポリフェノールは太陽の光を受けることの多い葉や、生き物に狙われることの多い種子に多く蓄えられているのです。
小豆の食用とされている部分も種子ですから、もちろんポリフェノールの含有量が高い傾向にあります。
ポリフェノールは種類によって異なった作用を示しますが(アントシアニンは眼精疲労や老眼に効果的、ルチンには血圧降下作用がある、など)、共通している働きもあります。
それが抗酸化作用です。
ポリフェノールには、ワンちゃんの体内の脂肪や細胞を、活性酸素の害(酸化)から強力に保護してくれる働きがあります。
小豆に限っていうと、中国産のものよりも北海道産のもののほうが、このポリフェノールの含有量が多いということが分かっています(気候や気温差、その他さまざまな栽培環境によって変動するとのことです)。
また、花が散り、種子が熟していく期間に多くの日光を浴びた小豆ほど、ポリフェノールが多く蓄積されている傾向にあります。
栽培中の日照時間までは、私たち消費者が関与できる部分ではありません。
しかし、小豆のポリフェノールの恩恵を最大限に受けたい場合には、北海道産のものを選んだほうがよいということは覚えておいて損はないでしょう。
サポニンと同様、ポリフェノールの健康効果についても、今現在(2018年1月)多くの研究が行われている最中です。
すなわち将来的には、ポリフェノールの新たな働きが解明される可能性も充分期待できるということです。
エネルギー産生には欠かせないビタミンB1とB2
ビタミンといえば、みずみずしい葉物野菜や果物に多く含有されているイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
しかし意外にも、小豆もビタミン豊富な食品なのです。
小豆は特に、ビタミンB1とビタミンB2の含有量に優れています。
それぞれの栄養素の特徴を簡単にご説明します。
ビタミンB1
ビタミンB1はグルコース(ブドウ糖)からエネルギーを生成するためには不可欠な栄養素です。
グルコースから生み出されたエネルギーは、脳を正常に働かせるために非常に重要な燃料となります。
さらに、エネルギーが生まれた時にできる副産物である乳酸を、再度エネルギーとして使えるようにリサイクルする時にもビタミンB1が使われます。
乳酸がリサイクルされずに蓄積すると疲れを感じやすくなりますので、ビタミンB1は愛犬が毎日元気に過ごすためには必須の栄養素なのです。
ビタミンB1はワンちゃんの夏バテの解消にも有効であったというデータも出ています。
ビタミンB1の詳細については、こちらの記事をご確認ください。
→ドッグフードのビタミンB1の働きとは?欠乏した犬はどうなるの?
ビタミンB2
ビタミンB2も、栄養素がエネルギーへと変換される際に必要です。
具体的には、体内に取り入れられた脂質と炭水化物、タンパク質を分解するフラビンという酵素の働きを補助する作用があります。
ビタミンB2のサポートが入ることによって、上記の3大栄養素(脂質、炭水化物、タンパク質)が無駄なく速やかにエネルギーとして利用できるようになるのです。
ビタミンB2は、3大栄養素の中でも脂質の代謝時に大量に使われる栄養素です。
脂質はしっかりエネルギーへと変えてあげなければ体内に蓄積してしまい、肥満の原因にもなります。
人間よりも活動量の多いワンちゃんのエネルギー補給のためにも、肥満防止のためにも、ビタミンB2はしっかりと摂取させたい栄養素です。
ビタミンB2は、皮膚や被毛の成長促進や生まれ変わりも支えています。
この作用によって、ワンちゃんのケガの回復が早まったり、ツヤツヤの毛並みや丈夫な皮膚が維持されているのです。
ビタミンB2のその他の働きなどはこちらをご確認ください。
→ドッグフードの栄養素「ビタミンB2」の働きと欠乏の危険性
体内の塩分濃度を調節してくれるカリウム
小豆に豊富に含まれるカリウムは、体内の塩分(ナトリウム)の量を調節する働きを持ちます。
カリウムは余分な塩分が体内に増えてくると、それを体外へと排泄し、血圧を安定させてくれる(=血圧の上昇を防ぐ)栄養素です。
上でご紹介したサポニンも利尿作用を持ち、塩分の排出を助けてくれます。
すなわち小豆には、カリウムとサポニンというふたつの塩分排出作用を持った栄養素が含まれているということです。
小豆のふたつの成分が、塩分過多からくるむくみなどに強力に働きかけてくれると考えられています。
またカリウムは、神経の刺激伝達や、筋肉の緊張と緩和などにも、ナトリウムと協力し合いながら作用します。
このように、ワンちゃんの体のコンディションを常に一定の(良好な)状態にキープするために重要な役割を果たす成分がカリウムなのです。
腸内の大掃除をしてくれる不溶性食物繊維
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類に分けられます。
水溶性食物繊維が、ヌルヌルするワカメやジューシーな果物など、口に入れた時にトロリと柔らかい食品に多く含有されているのに対し、不溶性食物繊維は豆の表皮やゴボウ、キノコ類など、歯ごたえのある食品に多い傾向があります。
とはいえ、ひとつの食べ物にどちらか一方が入っているわけではなく、たいていの場合は水溶性と不溶性のどちらも含まれています。
どちらの食物繊維が多いかによって、食感に違いが生じてくるのです。
小豆は、不溶性食物繊維の含有量が多い食材です。
不溶性食物繊維はその名の通り、水に溶けません。
その代わりに、腸内で水を吸い込み何倍ものサイズに膨らみます。
この性質により、ワンちゃんが満腹感を感じやすくなるのです。
きちんと食事を与えているのにもかかわらず、食後にまだごはんをねだってくるような食いしん坊のワンちゃんには、不溶性食物繊維を含む食材でかさを増してあげたごはんが適しています。
また、不溶性食物繊維は腸内で膨らみ、腸壁を刺激します。
これによって腸の蠕動運動が促進され、便意を催しやすくなるというメリットもあります。
ワンちゃんの体調不良のリスクにもなり得る、腸内の老廃物や有害物質を絡め取り、便として速やかに排出してくれるので、腸の中の大掃除にも役立ちます。
ただし、不溶性食物繊維の摂取のしすぎは便秘やお腹の張りの原因にもなるため、含有量の多い食品(もちろん小豆も含まれます)を大量に愛犬に与えることは避けましょう。
ちなみに水溶性食物繊維は、水に溶けてゲル状になる性質を持ち、便を軟らかくして排泄しやすくしてくれます。
他にも、腸内細菌の栄養源となって、善玉菌(生体に良い影響を与える細菌)を増やす作用もあります。
腸内の老廃物の排出作用があるところは、不溶性食物繊維と同じです。
ただし、ある程度の硬さを保った状態で老廃物を巻き込む不溶性食物繊維に対し、水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になり、体に不必要な物質をペタペタと吸着するという違いがあります。
原材料にこだわったドッグフードに使用されるケースが多い
小豆を材料に使ったドッグフードは、多くの種類は販売されていません。
近所のスーパーやホームセンターなどどこのお店に行っても手に入りやすく、誰でも知っているような銘柄のフードの原材料欄に、「小豆」の記述を見かけることはあまりないでしょう。
小豆は、原材料や添加物の安全性にこだわった、やや価格帯の高めのドッグフードに使われているケースが多いのです。
こうしたフードであれば、ドライフード・ウェットフードともに小豆を使用した商品が販売されています。
入手方法としては、実店舗を探し回るより、Web上の通信販売などを利用したほうが手軽に購入できるでしょう。
小豆がドッグフードに使われる場合、加熱したものをそのまま混ぜることもあれば、乾燥させて粉末状に加工したものが利用されるケースもあります。
原材料にこだわって作られたドッグフードには、日本で栽培された小豆を使用したものも多いです。
前述の通り、中国産よりも北海道産の小豆のほうがポリフェノールの抗酸化作用が強力であるというデータが出ているため、これは嬉しいポイントです(日本で栽培されている小豆の8割以上が北海道で作られています)。
小豆はワンちゃんの主食以外にも、クッキーやパンなど犬用おやつに使われることもあります。
また、小豆をフリーズドライしたものや(※6)、乾燥させてパウダー状にしたものも売られています。
フリーズドライの小豆であれば、そのまま砕いてふりかけのようにもできますし、水で戻してごはんのトッピングにも利用できて便利です。
パウダー状の小豆も、フードにかけたり手作り食に混ぜたりと、飼い主さんのアイデア次第で、普段とはちょっと目先の変わったごはんを愛犬に提供してあげることができるでしょう。
※6 フリーズドライの小豆は、人間向けにも販売されています。しかし、砂糖類が多く添加されていることもあるため、ワンちゃんに与える際には原材料欄をよくチェックするようにしましょう。
小豆で手作りごはんを作る際の注意点
小豆の皮にはサポニンやポリフェノール、食物繊維など、たくさんの栄養素が詰まっています。
しかし、火を通してあっても少しボソボソとした硬めの食感が残ることからも分かるとおり、ワンちゃんにとって小豆の皮の消化性は高くはありません。
時には消化されなかった外皮が、そのまま便と一緒に出てきてしまうこともあります。
この時に下痢などを起こしていなければ、ひとまずは安心ですが、ワンちゃんの胃腸の調子が優れない時などには小豆を与えることは控えた方が無難です。
ワンちゃんに小豆を調理して与える際には、しっかりと加熱して柔らかくすることはもちろんのこと、皮もなるべく細かくしてあげるようにしましょう。
茹でた小豆を裏ごしして餡(あん)の状態にすることもおすすめですが、人間が食べる時のように砂糖をたっぷりと入れないように注意してください。
ワンちゃんは甘味に敏感なため、甘い餡を与えれば喜ぶでしょう。
しかし糖質の摂り過ぎとなることが心配です。
甘味をつけなくても、小豆独特の香りで食欲が増すこともありますので、ワンちゃんには無糖の小豆や餡を与えることをおすすめします。
市販されている缶や袋入りの茹で小豆(人間用)にも、砂糖が使われているケースが非常に多いです。
添加物などが使用されていることもあります。
やはり最も安心してワンちゃんに与えられるのは、ご家庭で調理した小豆です。
ちなみに、小豆の煮汁にもビタミンB群やカリウムが溶け出しています。
人間を対象とした研究ではありますが、煮汁に含まれた小豆のポリフェノールで「LDLコレステロールや中性脂肪の値が低下した」という結果も報告されています。
ぜひ煮汁も、いつものドッグフードや手作りフードにかけるなどして、愛犬に摂取させてあげてください。
まとめ
小豆の皮の消化性はやや気になりますし、栄養的にもワンちゃんの健康管理上絶対に必要な食べ物というわけではないので(どうしても小豆から摂らなくてはいけない栄養素といったものはなく、他の食品からでも摂取が可能という意味です)、いくら健康に良いとはいえ、嫌がる子にまで頑張って与える必要はありません。
あくまでも、小豆を愛犬が喜んで食べてくれる場合に限り、トッピング程度にいつものごはんにプラスするといった利用の仕方が望ましいでしょう。