ドッグフードの原材料「かぼちゃ」
ホクホクと甘いかぼちゃ(カボチャ/南瓜)は、甘味に敏感な味覚を持つワンちゃんたちにとって、大のごちそうと呼べる野菜です。
ドッグフードの食いつきが悪い時に、小さく切ったかぼちゃを茹でてトッピングしてあげると、喜んで食べてくれるワンちゃんは多いことでしょう。
甘くておいしいだけではなく、栄養価にも富むかぼちゃについて、詳しくご説明します。
最も出回っている種類は「西洋かぼちゃ」
温かい煮物やハロウィンのマスコットなど、秋から寒い冬にかけて大活躍のかぼちゃですが、収穫期は5月から8月にかけてだということをご存じでしょうか。
産地によって若干の差はありますが、かぼちゃが収穫の旬を迎えるのは暑い盛りなのです。
収穫されたかぼちゃは数か月寝かされます。
この間にかぼちゃに含まれるデンプン質が糖に変化していき、甘くおいしくなるのです。
そして9月から12月にかけて食べ頃を迎えます。
かぼちゃは「日本かぼちゃ」、「西洋かぼちゃ」、「ペポかぼちゃ」の3種類に大別され、そこから更に多くの品種に分かれます。
日本かぼちゃは水分を多く含むためにねっとりとした食感を持ち、西洋かぼちゃに比べると甘味は薄くあっさりとしています。
西洋かぼちゃは栄養が豊富で、甘みが強くホクホクとしています。
ペポかぼちゃは日本ではあまりメジャーではありません。しかし食用から観賞用まで、形も大きさも様々な品種が存在します。
ズッキーニやそうめんかぼちゃ、ハロウィンの時によく見かけるオレンジ色の皮のかぼちゃやなどもペポかぼちゃの仲間です。
ペポかぼちゃは水分が多く、栄養価、甘味とも西洋かぼちゃには劣ります。
スーパーや八百屋さんなどで一般的に売られているかぼちゃのほとんどは西洋かぼちゃです。
西洋かぼちゃは上記の3種類のかぼちゃの中で最も栄養価が高く、味にも優れているために食用として重宝されているのです。
したがって、ここでは主に西洋かぼちゃの栄養素や、ワンちゃんに対する健康効果について述べていきたいと思います。
強力な抗酸化パワーを秘めるかぼちゃ
かぼちゃに含まれるビタミンといえば、ビタミンEとβ-カロテンがまっ先に挙げられます。
どちらもワンちゃんの健康維持には欠かせないビタミンです。
ひとつずつ詳しくみていきましょう。
強い抗酸化力を持つビタミンE
かぼちゃにはビタミンEがたっぷりと含まれています。
その量は可食部100g当たり約4.9mgです。
唐辛子や落花生、モロヘイヤなどのビタミンE含有量には負けますが、これらは頻繁に多くの量を食べることはできませんし、そもそもワンちゃんが食べることに適していないものもあります(※)。
そう考えると、ワンちゃんにとって安全でしかもおいしく食べられる食材の中では、かぼちゃはビタミンEの含有量ナンバーワンの食材であるといえるでしょう。
ビタミンEは強い抗酸化作用を持ち、体内の活性酸素を除去する働きを持ちます。
活性酸素はワンちゃんの体内で脂肪を酸化させ、過酸化脂質を作り出します。
すると連鎖的に遺伝子や酵素、コレステロールなども酸化していきます。
酸化することにより、酵素が充分に働けなくなったり、コレステロールや遺伝子が変質し、体にさまざまな悪影響が出てくるのです。
活性酸素がもたらす健康被害には、ガンや動脈硬化、高血圧、アレルギーなどが指摘されています。
これらの病気からワンちゃんの身体を守り、若々しさを保つ働きをする成分がビタミンEなのです。
ビタミンEが不足すると、毛並みが悪くなる、筋肉の萎縮、不妊、ひどい場合には肝臓の壊死などの症状がみられることもあります。
※唐辛子は犬の下痢の原因となる他、腎臓や肝臓に負担をかける可能性がありますので、与えてはいけない食材です。落花生も、消化不良やアレルギー、カロリー過多となるリスクがあるため食べさせないほうがよいでしょう。モロヘイヤは栄養に富み、犬の胃腸にも負担をかけにくいためにドッグフードの材料として適しています。
粘膜を強くするβ-カロテン(ビタミンA)
ニンジンには及びませんが、かぼちゃのβ-カロテンの含有量もなかなかのものです。
かぼちゃは100g当たり3900~4000μg程度のβ-カロテンを含んでいます。
β-カロテンは天然色素の一種で、ワンちゃんの体内に入るとビタミンAへと変化します。
ビタミンAは、皮膚に適度な潤いを与えたり、明暗を識別する目の機能を保つ働きを持ちます。
またビタミンAは、皮膚や粘膜を丈夫にしてくれる栄養素です。
目や鼻、口の中、食道などの粘膜を強くしてくれるため、感染症などの予防にも効果的です。
ビタミンAには抗酸化作用もあり、免疫力を強くしてくれる効果も期待できます。
かぼちゃは、普段から体調を崩しやすいワンちゃんや、病気や加齢で抵抗力の落ちているワンちゃんにも最適な食材なのです。
ビタミンAはワンちゃんの肝臓に蓄えられるため、欠乏は起こりにくい栄養素ですが、長期的に摂取しなかった場合には不足することもあります。
ビタミンAの欠乏によってみられる症状は、
- 夜盲症
- ドライアイ
- 被毛が細くなり切れやすくなる
- 食欲不振、体重減少
- 免疫機能の低下
などが挙げられます。
ビタミンA、E、Cの相乗効果で抗酸化力アップ
かぼちゃには抗酸化作用やコラーゲン生成の働きを持つビタミンCも含まれています。
私たち人間とは違い、ワンちゃんは体内でビタミンCを作ることができます。
しかし、病気やストレスなどによって体内で生成する分だけでは足りなくなることもあるのです。
そのような時には、食品から摂取する必要性が出てきます。
このビタミンCと、前述のビタミンA、ビタミンEを同時に摂取した場合には強力な抗酸化作用が得られるといわれています。
まず、ビタミンEがワンちゃんの体内で抗酸化作用を発揮すると、「ビタミンEラジカル」という物質に変化します。
ビタミンEラジカルとなったビタミンEには、もう活性酸素を除去するパワーはありません。
しかしビタミンCを一緒に摂取していた場合には、ビタミンCがビタミンEラジカルを再びビタミンEへと戻してくれるのです。
こうしてビタミンEは、また活性酸素と戦うことが可能になります。
また、ビタミンEはビタミンAが消化管内で分解されるのを抑える作用を持つため、ビタミンAの吸収率がアップします。
こうした各ビタミンの助け合いが、ワンちゃんの体を酸化から強力に守ってくれるのです。
ビタミンA、E、Cとすべてが揃っているかぼちゃは、ワンちゃんの健康のために、積極的に取り入れたい野菜です。
骨の健康に関与するビタミンK
骨を丈夫にしてくれる作用を持つビタミンKも、かぼちゃに含まれる栄養素です。
骨からカルシウムが流出するのを防いだり、血液を固める作用もあります。
そのため、ビタミンK が不足すると出血しやすくなるのです。
健康なワンちゃんの消化管内では、微生物によってビタミンKが生成されるため欠乏の心配はあまりありません。
しかし、病気の治療などで抗生物質を服用しているワンちゃんの場合には、ビタミンKが作られにくくなることが分かっています。
そうした時には、いつものフードにかぼちゃをトッピングしてあげるだけでも、不足しているビタミンKを手軽に補うことができます。
便通改善に役立つ食物繊維
かぼちゃには、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方が含まれていますが、水溶性の含有量のほうが多めです。
水溶性食物繊維はワンちゃんの腸内で水分に溶けてゲル状に変化し、老廃物や有害物質などを取り込んで、便と一緒に排出してくれる作用を持ちます。
また、便が柔らかくなり排泄しやすくなるため、便秘ぎみのワンちゃんをサポートしてくれる成分です。
その他にも、血糖値上昇やコレステロール吸収の抑制、腸内の善玉菌を増やすなど、健康に嬉しい効果が期待できます。
食物繊維が多いと腹持ちも良くなりますので、食いしん坊なワンちゃんや、肥満気味のワンちゃんにも満足感を与えられるでしょう。
亜鉛が豊富なかぼちゃの種
かぼちゃの種には亜鉛が豊富に含まれる
「かぼちゃが犬の体に良いのは分かったけれど、かぼちゃの種は食べさせても大丈夫なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論からいいますと、かぼちゃの種はワンちゃんに与えても大丈夫です。
かぼちゃの種には100g当たり7.7mgと、亜鉛がたっぷりと含まれています。
牡蠣は別格ですが、亜鉛を多く含むことで知られる煮干しや豚レバー、卵黄などと比較しても、まったく見劣りしない含有量なのです。
犬には多くの亜鉛が必要
亜鉛は身体の発育の促進や、正常な味覚や嗅覚の維持などに関与するミネラルです。
ワンちゃんは体重1kgあたり1日0.9mgの亜鉛が必要であるとされています。
対して人間の成人男性の亜鉛推奨量は10mgです。
日本の成人男性の平均体重は66kg程度といわれています。
仮にこれをそのまま犬に置き換えると、66kgの体重のワンちゃんは59.4mgの亜鉛を摂らなければならないという計算になります。
ワンちゃんは人間の約6倍の亜鉛を必要とするのです。
亜鉛不足になると、ワンちゃんの見た目に顕著に表れてきます。
具体的には、
- 被毛にツヤがなくなり、パサつきがちになる
- 被毛の色が薄くなる
- フケが増える
- 体をよく掻きむしるようになる
- 鼻が乾いたり、肉球が硬くなる
- 食欲が低下する
- 傷の治りが遅くなる
- 疲れやすくなる
など、日頃から注意深くワンちゃんの様子を観察している飼い主さんであれば、比較的容易に気付くことのできる異変が多いです。
亜鉛は欠乏しやすいミネラル
亜鉛は欠乏しやすい栄養素です。
なぜなら亜鉛は、一緒に摂取するさまざまな食品によって、吸収が阻害されてしまう可能性があるからです。
たとえ良質な「総合栄養食」と書かれたドッグフードをあげていたとしても、その中に含まれる原材料の影響によって、思うように亜鉛が摂れていないワンちゃんもいます。
亜鉛の吸収を妨げるリスクの高い原材料には、
- 穀物類
- 食物繊維
- カルシウム
- 銅
などが挙げられます。
たとえ穀物不使用のドッグフードを選んだとしても、ここに挙げたその他の成分はほとんどのドッグフードに含まれていると思われます。「総合栄養食」表示のあるフードであれば尚更です。
亜鉛の吸収を邪魔する成分を完全に排除するのは不可能ですし、そもそもこれらもワンちゃんの健康維持にとっては必要な栄養素なのです。
亜鉛の吸収率は、ワンちゃんそれぞれの体質や食生活によっても異なります。
「これだけの量の亜鉛を与えれば、必要量が満たせますよ」という断言ができないのです。
そのため、普段から意識的にワンちゃんの皮膚や被毛の状態をチェックし、亜鉛不足になっていないかをチェックすることをオススメします。
もしも上記のような症状がワンちゃんにみられた際には、亜鉛を多く含むかぼちゃの種などを与え、不足した分を補ってあげる必要があります。
かぼちゃの種を犬に与える際の注意点
カボチャの種はドッグフードの原材料として入っている場合もありますし、手作りフードの食材としても利用できます。
スーパーなどで購入した生のかぼちゃの種を取り出し、乾燥させてから乾煎りし、皮を剥けば食べられる状態になります。
しかし手間がかかるため、市販されている人間用の「かぼちゃの種」を利用されている飼い主さんが多いようです。
一般的に売られているかぼちゃの種(「パンプキンシード」と表示されていることもあります)は、ペポかぼちゃ(2.【最も多く売られているのは「西洋かぼちゃ」】の項目を参照してください)の種子です。 他の種類のかぼちゃとは異なり、種に殻がなく、剥く手間が省けるというメリットがあります。
市販品のかぼちゃの種には、塩や油などが使われている場合があります。
塩分や脂肪分過多になるリスクがありますので、ワンちゃんには「無塩」、「無植物油」などと表示されているものを選んであげましょう。
また、生の状態のものと、ローストしてあるものにも分かれていますので、パッケージをよく確認してから購入されることをオススメします。
あくまでも人間の感想ですが、生のかぼちゃの種はあまりおいしくないという人もいます。
また、一度火を通した方が消化しやすいという利点もありますので、あらかじめローストしてある種を選んだほうが時間の節約になります。
ただ、生のまま与えている飼い主さんもいますので、どちらにするかはワンちゃんの様子をみて決めてもよいでしょう。
かぼちゃの種をそのままワンちゃんに与えると、小型犬などは喉に詰まらせてしまう危険性もあります。
細かく砕いたり、粉末状にしてフードに混ぜてあげるなど、食べやすくなる工夫をしてあげましょう。
そのままポリポリと噛んでくれる大型のワンちゃんには、まるごと与えている飼い主さんもいらっしゃいます。
脂質とリノール酸が多いため、過剰摂取に注意
亜鉛が多くワンちゃんにとって嬉しい食材のかぼちゃの種ですが、注意したい点もあります。
かぼちゃの種は全体の約半分が脂肪分で構成されているため、カロリーが高めです。
そしてその脂質の中には「リノール酸」が多く含まれています。
リノール酸はワンちゃんの体の中で合成できない脂質となるので、食品からの摂取が必要です。
リノール酸にはワンちゃんの皮膚を保護し、美しい毛並みを保つ効果があります。
亜鉛とともに摂取すると、被毛の状態を良好に保つのに特に効果的であるともいわれていますので、かぼちゃの種はまさにワンちゃんにとって理想的な食品であるといえます。
しかしこのリノール酸は、過剰摂取によって炎症反応を起こし、アトピーやアレルギーの原因となることが知られているのです。
以上のことから、かぼちゃの種を多く与えすぎると、ワンちゃんの肥満を招いたり、皮膚トラブルを誘発する可能性があることが分かります。
ワンちゃんの身体の大きさにもよりますが、かぼちゃの種はトッピング程度に少量を与えるくらいがちょうど良いでしょう。
よく加熱し、油とともに与える
最後に、かぼちゃをワンちゃんに与える際のポイントをご紹介します。
火を通し、柔らかくしてから与える
かぼちゃの皮は食物繊維が多く硬いため、野菜の消化を苦手とするワンちゃんにとっては特に胃腸に負担をかけやすい部分です。
しかし、栄養素が多く含まれているのもこの皮の周りなのです。
栄養を無駄にしないためには、かぼちゃの皮を薄めに剥くことをオススメします。
少し皮が残っていたとしても、細かく切り、しっかりと火を通して柔らかくすれば、問題なく食べられるワンちゃんも多いです。
人の指で簡単に潰せるくらいの柔らかさを目安にしてください。
しかし、どの程度の量までならあげても大丈夫かは、ワンちゃんの個体差によるところが大きいです。
愛犬の便の様子や体調を観察しながら、加減するようにしましょう。
もちろん皮だけでなく、かぼちゃ全体によく火を通してからあげるようにしてください。
ホックリとした食感はかぼちゃの大きな魅力ですが、決して飲み込みやすい野菜とはいえません。
嚥下機能が衰えたシニア犬や、体の小さなワンちゃんなどに与える時には、特に注意が必要です。
かぼちゃを小さくカットして、茹でたりふかしたりしてもよいですし、裏ごしをしてマッシュ状にしたり、スープにするのもワンちゃんのお腹に優しくなりオススメです。
甘い香りが際立ち、ワンちゃんの食欲も刺激されるでしょう。
少量の油とともに与える
また、かぼちゃに多く含まれているβ-カロテンは、油と一緒に摂取すると吸収性が上がります。
加熱調理時に使用する油にはオリーブオイルが適しています。
オリーブオイルは熱を加えても酸化しにくいため、ワンちゃんの身体に悪影響をもたらす過酸化脂質が作られにくいのです。
悪玉コレステロールを減らしたり、ワンちゃんの皮膚や被毛の潤いを保つ働きもあります。
仕上げにそのまま垂らす利用法ならば、亜麻仁油、エゴマ油、サーモンオイルなどがよいでしょう。
これらの油は熱により酸化しやすいため、加熱調理には向いていません。
亜麻仁油とエゴマ油は抗炎症作用により、リノール酸の過剰摂取によって引き起こされる皮膚トラブルを抑えてくれる働きが期待できます。
サーモンオイルには物忘れを防ぐDHA(ドコサヘキサエン酸)や、アレルギー反応を抑えるEPA(エイコサペンタエン酸)などが豊富に含まれています。
まとめ
かぼちゃはワンちゃんの健康に役立つ栄養素をたっぷりと含んだ食べ物ですが、まれにアレルギーを発症してしまう子もいますので、注意が必要です。
また、ホクホクとした甘さからも想像できる通り、カロリーが高めで食物繊維も多いため、与えすぎは肥満や下痢、便秘の原因ともなります。
常にワンちゃんの体調には気を配りながら、栄養満点なごはんを作ってあげましょう。