ドッグフードの原材料「ゴマ」
ゴマ(胡麻/ごま)は、私たち日本人にとって非常に馴染み深い食材です。
ゴマにはポリフェノール(※1)の一種であるゴマリグナンが含まれており、その抗酸化作用による老化の抑止や生活習慣病予防などの働きが注目されています。
その高い栄養価から、ワンちゃんたちの食事にも広く取り入れられており、ドッグフードのみならず、クッキーやクラッカー、おせんべいなどの犬用おやつなども数多く販売されています。
また、書籍やインターネット上では、ゴマを使ったさまざまな手作りドッグフードのレシピを見ることができます。
ゴマに含まれるゴマリグナンは、ワンちゃんに対しても人間と同様の健康効果を発揮するということが判明しており、ゴマリグナンをカプセルに詰めた犬用のサプリメントも売られています。
それほどまでにワンちゃんの健康に有益なゴマの成分とは、いったいどのようなものなのでしょうか。早速みていくことにしましょう。
※1 ポリフェノール・・・さまざまな植物が自ら生成する、「抗酸化作用を持った物質」の総称です。動物と異なり、その場から移動して太陽を避けることのできない植物は、ポリフェノールを作り出すことによって紫外線などによる酸化の害から身を守っています。
高い栄養価を持つゴマ
ゴマの栄養素のお話の前に、ゴマとはどのような植物なのかについて簡単にご紹介します。
ゴマはゴマ科に属する植物で、原産地はアフリカのサバンナ地帯(ナイジェリアやエチオピアの辺り)です。
食用とされる白や黒の粒は、ゴマの種子に当たります。
ちなみに、ゴマの仲間だと思われがちなエゴマはシソ科の植物ですので、ゴマとは全く別のものです。
ゴマが日本に渡来したのは縄文時代ですが、食用とされ始めたのは6世紀(飛鳥時代)頃だといわれています。
これには当時伝来した仏教が大きくかかわっています。
生き物の殺生を禁じる仏教の影響で、6世紀頃の日本では「肉食禁止令」が出されました。
肉類を食べることができなくなった人々は不足しがちなタンパク質や脂質を、ゴマを摂取することによって補うようになったのです。
昔の人々が肉類に代わる栄養源として頼りにしたゴマは、5割が脂肪分、3割がビタミンやミネラル、食物繊維、2割がタンパク質で構成されています。
化学的な栄養分析が不可能だった時代においても、ゴマの栄養価が高いということを人々は経験上から理解していたのでしょう。
ゴマは古代中国においては「不老長寿の妙薬」とも呼ばれていたのです。
ゴマの持つ優れた栄養素
強力な抗酸化物質「ゴマリグナン」
ゴマリグナンは、強力な抗酸化作用を持つポリフェノール
ゴマの栄養素の中で最も特徴的なものといえば、ゴマの代名詞ともいえるゴマリグナンです。
「リグナン」とは、植物が紫外線などから身を守るために自ら生成するポリフェノールの一種です。
ゴマリグナンは「ゴマに含まれているリグナン」という意味から名付けられています。
ゴマリグナンの代表選手は「セサミン」
ゴマリグナンにはいくつかの種類がありますが、ゴマに最も多く含まれるゴマリグナンは「セサミン」です。
セサミンは人間の飲むサプリメントととしても販売されている成分ですので、ゴマリグナンの中では知名度も一番高いのではないでしょうか。
セサミンの持つ抗酸化作用は、ワンちゃんの体内で発生する活性酸素を抑制し、ガンなどの生活習慣病予防やアンチエイジングに効果的であるといわれています。
セサミンは活性酸素を強力に除去する
食事や医療の質が向上し、昔と比べてワンちゃん達も長寿になりました。
しかし、寿命の延びに伴い、ガンなどの病気も目立つようになってきたのです。
このガンの発生には、「活性酸素」が大きく関わっているといわれています。
活性酸素とは、酸素が体内において「化学変化を起こしやすい状態」に変わったものです。
活性酸素は、生物が生きていくために必要不可欠な行動である呼吸や食事をするだけでも発生しますので、動物が生きている限りは完全には避けられないものです。
活性酸素はその他にも、
- 紫外線を長時間浴びる
- 激しい運動をする
- 強い精神的なストレスがかかる、または慢性的にストレスを受け続ける
- 排気ガスやPM2.5、工場からの煙などによる大気の汚染
- 喫煙、受動喫煙(喫煙者の吐き出した煙やタバコの先端から出る煙を吸い込むこと。ワンちゃんの場合はこちらですね)
など、さまざまな条件下でも作られます。
私たちやワンちゃんの血液中に存在する白血球は、体内に侵入したウイルスや細菌を攻撃する際に活性酸素を利用します。
すなわち活性酸素には、生物の体を守る働きもあるのです。
しかし、過剰な活性酸素は元気な細胞までも攻撃してしまうのです。
活性酸素によってワンちゃんの身体の細胞が傷つく(=酸化する)と、発ガンの原因となる他にも、
- 老化のスピードが加速する
- 抜け毛が増えたり毛ヅヤが悪くなる
- 記憶力や免疫力の低下
- 高血圧や動脈硬化
など、健康上にさまざまな悪影響が出てくるのです。
セサミンは、強力な抗酸化作用によって活性酸素を除去し、細胞のダメージを防いでくれます。
また、セサミンを継続的に摂ることにより、細胞自体が酸化に強くなる効果があることも報告されています。
セサミンとビタミンE(※2)を一緒に摂ると、ビタミンEの血中量が約2倍程に増加するということもわかっています。
ゴマそのものにもビタミンEは含まれていますが、ゴマを使ったドッグフードを手作りする際には、ビタミンEを多く含む食材と組み合わせてあげると、それぞれの持つ抗酸化力の相乗効果で愛犬のさらなる健康増進が期待できるでしょう。
ワンちゃんに与えてもよい食材の中でビタミンEの多い食べ物といえば、サツマイモやカボチャ、鮭などが挙げられます。
※2 ビタミンE・・・抗酸化作用を持つ脂溶性のビタミンです。脂質の酸化から細胞膜を守ったり、精巣や卵巣、筋肉、神経のコンディションを良好に保つ働きをします。
セサミンは肝臓内の活性酸素を除去し、肝臓を守る
抗酸化作用があることで有名なビタミンCやカテキン(お茶などに含まれるポリフェノール)といった成分は、主に血液中に留まり血中の活性酸素を除去します。
一方セサミンは、肝臓の中まで入り込み、肝臓で生まれた活性酸素を取り除く働きがあるのです。
肝細胞を始めとする全ての細胞の表面には、脂質からできた「細胞膜」という壁のようなものがあり、水溶性のビタミンCなどはこの壁を通れません。
しかし脂溶性であるセサミンは、この壁をすり抜けて肝臓の中にまで到達することができるのです。
肝臓の役割は、消化された栄養素を小腸から取り込み、生物が生きる上で必要な成分へと変化させた後に全身へと行き渡らせることです。
肝臓は、ワンちゃんの命を繋ぐためのハードワークを常に行っており、体内の臓器の中で最も酸素を使う場所でもあります。
このため肝臓では多くの活性酸素が発生してしまうのです。
全身に存在する活性酸素のうち、約6~7割が肝臓で生まれたものであるといわれています。
この大量の活性酸素によって肝臓の細胞が傷つき、肝機能低下に繋がる可能性があります。
このような状況から身を守るために、肝臓ではSOD(スーパーオキサイド・ディスムターゼ)という抗酸化作用を持った酵素が作られています。
しかし、紫外線ダメージや精神的ストレスがワンちゃんに加わることによって活性酸素が増えると、肝機能が衰え、SODの産生もうまくできなくなります。
SODが作られなくなると活性酸素をうまく処理できずに、さらに肝細胞が酸化していくという悪循環に陥ってしまうのです。
セサミンの抗酸化力は肝臓に達するまでは秘められており、肝臓に入ることで一気にパワーを開放し、肝臓内の活性酸素を強力に除去します。
活性酸素が最も生まれる場所にダイレクトに入り込み、攻撃をするという効率の良い働き方をする物質がセサミンなのです。
セサミンはダイエットにも効果的
前述の通り、ゴマは約半分が脂質からできています。
「脂質が多いのなら、愛犬にゴマは与えないほうがよいのではないか」とワンちゃんの肥満を心配する飼い主さんは多いことでしょう。
しかし、セサミンには、肥満の解消効果も期待できるのです。
私たち人間もワンちゃんも、細胞の中にペルオキシソームという物質を持っています。
ペルオキシソームには脂肪を分解する働きがあり、セサミンはその作用を活性化するのです。
ペルオキシソームが活性化し脂肪分解の効率がアップするということは、簡単にいうと痩せやすくなるということを意味します。
セサミンは、肥満気味でダイエット中のワンちゃんの味方にもなってくれるのです。
セサミンの過剰や欠乏の健康被害の報告はない
2017年9月現在、セサミンの摂り過ぎや不足によるワンちゃんの健康被害は確認されていません。
まだまだ研究され続けている途中ではありますが、現状、セサミンは安全性の高い成分であるといわれています。
またセサミンは、摂取後24時間程でワンちゃんの体外へと排出されてしまいます。
体内に長期間溜めておくことはできませんので、少量ずつ、こまめに摂取させることが大切です。
ゴマはカルシウム、脂質、食物繊維も豊富に含む
ゴマには、ゴマリグナン以外にもワンちゃんの健康に嬉しい成分が含まれています。
ゴマには、牛乳の12倍のカルシウムが含まれる
あまりイメージがないかもしれませんが、ゴマは非常にカルシウムの含有率が高い食品です。
その量は、なんと牛乳の12倍程であるともいわれています。
カルシウムが骨や歯の原料となるミネラルであることはよく知られています。
それだけではなく、ごく少量のカルシウムは筋肉や血液などにも含まれており、筋肉の伸び縮みや止血などに関与します。
カルシウムは、ワンちゃんが元気よくスムーズに動くために必須の栄養素なのです。
カルシウムが不足すると、嘔吐や食欲不振、ひどい場合には筋肉の硬直や体の一部の痙攣などを起こし、立っていることができなくなるケースさえあります。
ゴマに含まれる脂質は犬の健康に有益
ゴマの脂質の主成分はオレイン酸とリノール酸です。
オレイン酸はワンちゃんの被毛にツヤを与え、皮膚を良好な状態にキープしてくれる働きがあります。
また、動脈硬化の原因ともなるLDLコレステロール(通称「悪玉コレステロール」)の値を低下させる効果も期待できます。
リノール酸は、ワンちゃんの体の中では作り出すことのできない成分ですので、必ず食品から摂らなければならない栄養素です。
リノール酸もオレイン酸と同じように、被毛の潤いを保ち、外的な刺激から皮膚を保護してくれる働きをします。(ただし、リノール酸を摂りすぎると炎症作用によりアレルギーやアトピーが誘発される可能性があるため、過度な摂取は禁物です)
体に有益な脂質をたっぷりと含んだゴマはカロリーも高めのため、食欲がないワンちゃんや生まれつき虚弱な体質のワンちゃんに少量与えることにより、手軽に栄養が補給できるというメリットもあります。
食物繊維も豊富
食物繊維には、水分を吸収し便を柔らかくする水溶性食物繊維と、便の量を増やして腸壁を刺激する不溶性食物繊維の2種類があります。
ゴマにはこの両方の食物繊維が含まれています。
どちらの食物繊維も、腸内の老廃物や有害物質を取り込んで体外へと排出してくれる作用があるため、ワンちゃんのお腹のお掃除にも役立ちます。
犬への上手な与え方
炒ったゴマをすり潰して消化性アップ
ゴマに含まれる栄養素をワンちゃんに無駄なく与えるためには、気を付けたいポイントがあります。
ゴマは硬い表皮(殻)に覆われています。生のゴマも食べられないということはありませんが、消化に悪く、栄養もあまり吸収できません。
特にワンちゃんは、私たち人間よりも植物の消化を苦手とする動物です。
愛犬にゴマを使った食事を作ってあげる際には、必ず一度炒ったものを使用するようにしましょう。
自分で炒らなくても、スーパーなどで炒りゴマを購入することもできます。
ゴマの表皮も中身も、細かければ細かいほど消化吸収性が高まります。
炒ったゴマを、すり鉢を使ってすりゴマにしたり、道具がない場合には指で潰してあげるだけでも大丈夫です。
ゴマは細かくすると、酸化が速まり品質が劣化しやすくなります。
「晩ごはんにも使うから」と、朝にまとめてすり下ろすことはオススメできません。その時に使う分だけする(潰す)ようにしましょう。
また、市販品のすりゴマもありますが、すでに酸化が始まっている可能性があるため避けたほうが無難です。
ちなみに、万が一ワンちゃんが生のゴマを食べてしまっても、消化をされずにそのまま便として出てきますので、少量ならばあまり心配する必要はありません。
ただ、せっかくのゴマの栄養素が吸収されないのでは与える意味がありませんし、大量に生のまま食べてしまった場合には下痢などの消化不良のリスクも懸念されます。
白ゴマ、黒ゴマ、金ゴマ・・・それぞれの特徴
一口にゴマといっても、白ごまに黒ゴマ、金ゴマなど、色々な種類があります。
種類による栄養価の差はほとんどありませんので、ご家庭にあるものでもよいですし、ワンちゃんの好みに合わせてあげてもよいでしょう。
とはいえ、全く差がないわけではありません。以下にそれぞれの特徴をまとめてみました。
特徴的な成分 | 味 | |
---|---|---|
白ゴマ | 他の種類のゴマに比べて脂肪分が多いため、多くののごま油の原料となる。セラミド(※3)を肌まで運ぶ働きがある。 | ほんのりと上品な甘味を持つ。 |
黒ゴマ | 黒い色をした表皮には、目の機能を向上させ、抗酸化力も備えるアントシアニン色素(※4)が含まれる。また、セラミドを含有している。 | 香ばしくコクのある味わい。 |
金ゴマ | 白ごまほどではないにせよ、脂質が豊富でタンパク質にも富む。黄色がかったきれいな茶色をしており、人気があるために価格も高め。 | 深い香りが特徴で、甘味もある。 |
※3 セラミド・・・皮膚を構成する成分のひとつです。水分を蓄える保湿効果と、肌を外部刺激から守るバリア効果を併せ持ちます。年齢が上がるにつれて減少する傾向があります。
※4 アントシアニン・・・野菜や果物に含まれるポリフェノールの一種です。赤紫から青みがかった紫、オレンジ色までさまざまな色味を持ったものが存在し、その種類は500以上ともいわれます。目の機能を改善する効果があるとされ、マウス実験では白内障予防効果も確認されているほどです。強力な抗酸化作用も持ち、免疫自体を強化する働きもあります。アントシアニンを多く含む食品は、ブルーベリーやナス、ブドウなどです。(ブドウは犬が食べると健康被害が出る可能性があるため、与えないように注意しましょう)
ごま油は成分が濃縮されており、吸収率も高い
ゴマを絞って作られたごま油には、ゴマリグナンがギュッと凝縮されており、ゴマをそのまま食べるよりも栄養素の吸収性に優れています。
また、ごま油にはゴマリグナンの一種である「セサモール」や「セサミノール」という成分が豊富に含まれています。
セサモールとは、白ごまに多く含まれるセサモリン(これもゴマリグナンの仲間です)が、ごまの焙煎過程で変化したものです。
一般的な茶褐色のごま油に多く含まれます。
セサミノールは、ゴマをまったく(もしくはほとんど)焙煎しない生の状態のまま絞り、ごま油に精製する途中でセサモリンが変質してできる物質です。
白っぽく透き通ったごま油に多く含まれる成分です。
セサモールもセサミノールもゴマリグナンですので、活性酸素を除去し、脂質の酸化を防いでくれます。
ごま油が他の油に比べて酸化しにくいのは、これらの成分のお陰なのです。
古代エジプトでは、ミイラの腐敗防止のためにごま油が使われていたとも伝わっています。
ゴマと同じように栄養価の高いごま油ですが、ゴマをそのまま食べた時のように食物繊維を摂ることはできません。
ワンちゃんの便通改善に食物繊維の働きを期待するのであれば、ゴマそのものを利用することをオススメします。
ごま油は炒ったりすり下ろしたりする手間がないために使い勝手がよく、市販のドッグフードに垂らしてもよいですし、もちろん手作りフードの風味付けにも使えます。
香ばしいごま油は、ワンちゃんの食欲増進にも一役買ってくれることでしょう。
まとめ
しかし、健康的な食品だからといって、ワンちゃんに大量に与えてよいというものではありません。
前述のように、ゴマには多くの脂質が含まれています。
いくら脂肪分解を促進させる成分が含まれているとはいえ、愛犬に過剰に与えることは肥満の原因となってしまいます。
ドッグフードや犬用おやつに含まれている場合は過剰摂取の心配は少ないですが、手作りフードに利用する際には使い過ぎに注意が必要です。
ゴマをメインの食材として使用することはほぼ無いと思われますが、トッピングや風味付け程度に適度に利用するようにしましょう。
また、ゴマによってアレルギーを起こすワンちゃんもいます。
もしもゴマを食べた後のワンちゃんに、いつもと違う症状(皮膚をかゆがる、口元やお腹、肛門の周囲が赤くなるなど)が出たらゴマアレルギーのサインかもしれません。
ワンちゃんにこうした症状がみられる際にはゴマを与えることをやめ、心配な場合には獣医さんへ相談しましょう。