ドッグフードの栄養素「ナイアシン」
ナイアシンが健康に役立つ栄養素であると認められたきっかけは、犬の病気でした。
その病気は黒舌病(こくぜつびょう)と呼ばれ、人間のペラグラ(※1)に類似した疾患です。
ワンちゃんが黒舌病にかかるとその病名通り、舌が黒色や褐色になる症状が現れます。
この黒舌病の治療にナイアシンが効いたことから、ナイアシンのビタミンとしての有用性が証明されたのです。
そんなワンちゃんとの縁が深いナイアシンの働きや、食品への含有量などを解説していきたいと思います。
※1ペラグラ・・・ナイアシンの欠乏によって起こる病気です。ペラグラとはイタリア語で「荒れた皮膚」の意味を持ちます。その名の通り、紫外線に当たると皮膚が炎症を起こし、腫れや赤み、黒ずみ、硬化などがみられます。悪化すると下痢や精神の不調を起こし、治療をしないと死亡する可能性もある病気です。
体内におけるナイアシンの働き
ナイアシンは別名「ビタミンB3」
ナイアシンはビタミンB群の一種で、発見された当初はビタミンB3と呼ばれていました。
しかしその後、ビタミンB群には多くの種類が確認されていきます。
その紛らわしさを緩和するために、ビタミンB3には「ナイアシン」という新たな名称が与えられました。
ナイアシンとはニコチン酸とニコチンアミド、またこれらと同様の作用を持った物質の総称であり、食品に含まれる他、必須アミノ酸のトリプトファンからも肝臓で合成が可能です。
ナイアシンは体内において、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)という物質に変換され、さまざまな酵素の働きを助ける「補酵素」として活躍します。
ナイアシンのサポートを必要とする酵素の種類は非常に多く、その数は400以上に上るといわれています。
エネルギーの生成やセラミドを合成する
ナイアシンは、タンパク質や脂質、糖質からエネルギーを生み出す際に働く酵素を助け、これら三大栄養素が効率良く燃焼することを促します。
また、パントテン酸やコリン、イノシトールといった他のビタミンB群や、ヒスチジンというアミノ酸と協力し合うことで、皮膚の構成成分であるセラミドを合成します。
セラミドは皮膚のうるおいやツヤには欠かすことのできない脂質の一種です。
セラミドが充分に合成されていると、ワンちゃんの皮膚や被毛が丈夫になり、外的な刺激からもダメージを受けにくくなります。
毛細血管を拡張し、血行促進や肩こりを改善する
また、ナイアシンには毛細血管の拡張作用も確認されています。
血管が広がり血行が促進されることにより、肩や首のこり、体の冷えの改善効果も期待できるのです。
「犬に肩こりなんてあるの?」と疑問に思われる飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
しかし、人間と同じように、犬の体も行動のクセやストレスなどからこることがあるのです。
特にワンちゃんは、人間よりも背丈が低い子が圧倒的に多いため、常に飼い主さんを見上げる形となり、肩こりや首こりになりやすいといわれています。
ワンちゃんは肩がこっていても態度や言葉に出すことができませんので、飼い主さんが見落としているケースが多くあります。
日頃からの軽いマッサージとナイアシンの適度な摂取などで、愛犬の肩こり予防、解消に努めましょう。
さらにナイアシンには脳の神経伝達物質を合成し、認知機能を正常に保ったり、抗酸化物質(ビタミンCやビタミンE)が活性酸素と戦う際に補助する作用などもあります。
ワンちゃんにはあまり関係ありませんが、ナイアシンは、アルコールを飲んだ時に発生するアセトアルデヒド(※2)を分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素)の補酵素としても活躍しているのです。
※2 アセトアルデヒド・・・アルコールが体内で代謝される際に発生することで知られる、有毒な物質です。飲酒時や翌日の顔の紅潮、頭痛や吐き気、嘔吐などの原因となります。また、強い肝毒性も併せ持ちます。
ナイアシンはドッグフードにも栄養強化の目的として添加されています。
その際の原材料欄には「ナイアシン」や「ニコチン酸」の他にも、「ビタミンPP」などと表記される場合があります。
ビタミンPPは日本ではあまり馴染みのある呼び方ではありませんが、フランスではこう呼ばれることがあります。
「PP」は「Prevention of Pelagra」の頭文字から取られており、「ペラグラの予防」を意味しているのです。
ドッグフードには海外から輸入される商品も多いため、時折このような表記がみられることもあります。
ナイアシンの欠乏症と過剰症のリスク
ナイアシンの欠乏は命にかかわることもある
成犬の1日のナイアシン必要量は、体重1kg当たり200μg程度といわれています。
ワンちゃんはナイアシンをトリプトファン(必須アミノ酸)から合成することが可能です。
トリプトファンは動物性食品に多く含まれる傾向があります。
そのため、肉類や魚の含有量が低いフードを与え続けていると、トリプトファン不足からナイアシンが満足に合成できずに不足する可能性があります。
また、トリプトファンからナイアシンを作り出す際にはビタミンB1やビタミンB2、ビタミンB6、鉄分などが使われます。
これらの栄養素が欠乏していても、ナイアシンは充分に合成されません。
ナイアシンが不足すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 皮膚炎(後ろ脚や腹部に発症することが多い)
- 下痢や血便
- 舌の潰瘍
- 精神障害
これらの症状の他、重度のナイアシン不足ではワンちゃんが死に至ることもありますので注意が必要です。
肉や魚をふんだんに使った総合栄養食表記のあるドッグフードをしっかりと食べさせる、手作りフードの場合には動物性タンパク質やビタミン、鉄分などのバランスを考えてメニューを決めるなどといったことを心がけましょう。
毒性が低く、過剰症にはなりにくい
一度に大量のナイアシンを摂取すると、皮膚が赤くなることが確認されています。
しかしこの症状は一過性のものですので、ナイアシンが体外へ出ていってしまえば次第に落ち着くでしょう。
また、ワンちゃんに長期的に大量摂取させた場合には、不整脈や下痢、嘔吐などが起こる危険性があります。
とはいえ、ナイアシンは毒性の弱い栄養素といわれています。
加えて水溶性のため、少しくらい取り過ぎたとしても尿と一緒に速やかに排泄されてしまうのです。
愛犬に通常の食事を取らせている中では、ナイアシンが過剰となるケースはまれですので、それほど神経質になる必要はありません。
ナイアシンを多く含む食材と効果的な摂取方法
ナイアシンは熱や光に強く、食材を長期的に保存しても破壊されにくいという優秀な栄養素です。
しかし熱湯には非常に溶けやすく、素材を煮込んだ場合には煮汁に約7割は溶け出ていってしまいます。
そのため、ナイアシンを含む食材を手作りフードに使う際には、スープものにしたり、片栗粉などで軽くとろみをつけることをオススメします。
愛犬が汁まで食べられる献立を考えてあげましょう。
上のグラフは、ワンちゃんが食べることのできる食材の中で、ナイアシンを多く含有しているものを表示しています。
肉類や魚に交じってマイタケの含有量が際立ちます。
マイタケにはナイアシンの他にも、ビタミンB群やビタミンD、カリウムなども多く含まれています。
マイタケの独特な香りが好みに合うワンちゃんであれば、嗜好性がアップするケースもありますので、ドッグフードのトッピングなどにも最適です(反対にマイタケの香りを苦手とするワンちゃんもいます)。
マイタケには食物繊維も豊富ですので、大量に与えたり大きなサイズで与えたりするとワンちゃんの消化不良の原因ともなります。
少量を細かく刻み、よく火を通して柔らかくしたものを与えるようにしましょう。
まとめ
特に、生きるためには必要不可欠である「エネルギー生成のサポート」という重要な役割を持っており、ナイアシンの欠乏は命を失うことにも繋がります。
幸いにもナイアシンは毒性が弱く、多少取り過ぎても健康に悪影響を与えるリスクの低い栄養素です。
過剰よりも欠乏のリスクを考え、肉類や魚を使ったフードからしっかりと摂取させることが大切です。