肝臓疾患の犬専用のドッグフードとは?特徴を詳しく解説

肝臓疾患の犬専用のドッグフード

「物事が非常に重要であること」を意味する「肝心要(肝腎要)」という言葉が表すように、肝臓は動物が生きていく上でとても重要な役割を担っている臓器のひとつです。
体にとってなくてはならない肝臓は、その修復能力の高さから不調がなかなか表に現れず、病気の発見が遅れがちな「沈黙の臓器」でもあります。
それゆえ、発覚した時にはかなり進行してしまっているケースも多い肝臓病は、常日頃から気を付けて予防したい病気です。
しかし、いくら食事や生活に気を遣っていても、病気は完全に防ぐことはできません。
実際に肝臓病になってしまった際に、愛犬の闘病をサポートしてくれる肝臓ケア用のドッグフードの特徴についてご説明したいと思います。

肝臓の役割

まず、肝臓はどのような働きをする臓器なのか、簡単にご紹介します。
肝臓はさまざまな役割を持つ器官ですが、中でもよく知られている働きといえば、有害物質の解毒作用ではないでしょうか。
肝臓には、血中に含まれる有害物質(鉛や菌類、食品添加物、薬の成分などさまざまです)や、体に有毒なアンモニア)を無害化するという働きがあります。
アンモニアは肝臓によって処理されると、体にとって害のない尿素になります。これら有害物質の代謝物は、尿や便として排泄されていくのです。

※アンモニアは、タンパク質やアルコールが分解される際に副産物として発生します。

また肝臓には、食品中のタンパク質(アミノ酸)やブドウ糖(グルコース)を蓄えておくという役割もあります。
ブドウ糖はグリコーゲンと呼ばれる小さな分子に細かく分解された状態で、肝臓に貯蔵されます。
蓄積されたこれらの栄養素は、血中に糖分が不足した際には、再びブドウ糖に作り変えられて肝臓より放出されるのです。

さらに肝臓は、脂肪の消化に必要な胆汁を分泌したり、古くなった赤血球()を処理する働きを持つなど、1日を通してフル活動しています。
動物の生命活動を維持する上で、なくてはならない臓器が肝臓なのです。

※ワンちゃんの赤血球の寿命は100日程度です。ちなみに人間は約120日と犬よりやや長く、猫では80日程度と短めです。赤血球は、分裂して自ら増殖することができません。日々、新しい赤血球が生み出され、補充されています。

肝臓病の要因・症状

肝疾患にはさまざまな要因が絡んでいる

肝臓が炎症を起こす肝炎、中性脂肪が肝臓に溜まる脂肪肝、細胞の組織が硬くなる肝硬変など、肝臓はさまざまな疾患に見舞われることがあります。
肝疾患(肝臓病)が引き起こされる要因としては、

  • 細菌やウイルスへの感染
  • 薬剤の長期に渡る摂取や大量服用
  • 毒物の摂取
  • 外部からもたらされる衝撃(事故でのダメージなど)
  • 腫瘍など、他の病気の影響
  • 遺伝的な体質

などが挙げられます。
これらのうち、いずれかひとつだけが引き金となっていることもあれば、複数の要因が絡み合って発症することもよくあるため、肝疾患の直接的な原因を特定することは非常に困難であるといわれているのです。

肝疾患の犬にみられる症状

肝臓の機能が障害されると、ワンちゃんに以下のような症状が現れます。

  • 食欲がなくなる
  • 活動性が乏しくなる
  • 体重が落ちる
  • 嘔吐
  • 下痢や軟便
  • 多飲多尿

さらに病状が重い場合には、

  • 黄疸(色素の一種であるビリルビンが血中で過剰になり、体の組織が黄色く染まった状態)
  • 歯ぐきや胃腸などからの出血
  • 腹水(タンパク質を含んだ水分((体液))が腹部に溜まった状態)
  • 肝性脳症(震えや意識障害、昏睡などが起こる)

などが起こるリスクが高まり、ワンちゃんの命を奪う可能性もあります。

黄疸は、皮膚の色が黄色くなることから判別できますが、ワンちゃんの全身は被毛に覆われていることが多いため、飼い主さんが見過ごしやすい症状です。
皮膚以外で黄疸が分かりやすい部分には、歯ぐきや白目が挙げられます。
グルーミングや歯磨き中などに、これらの部位をチェックする習慣をつけておくと、いざという時に気付いてあげられやすくなるでしょう。

肝臓はダメージや疲れに強いタフな臓器ではありますが、一旦調子が悪くなると犬の全身に深刻な影響を及ぼします。不調はなるべく早く発見し、対処することが大切です。

肝臓ケア用のドッグフードの特徴

肝臓に問題を抱えるワンちゃんに向けて作られているドッグフードは、以下のような特徴を持ちます。

  • 消化の良いタンパク源が使用されている
  • ワンちゃんの嗜好性を高める工夫がなされている
  • 肝臓の働きを助ける成分が添加されている
  • 肝疾患で欠乏しやすい栄養素が強化されている

この4つのポイントを、ひとつずつ詳しくみていきましょう。

消化の良いタンパク源が使用されている

前述の通り、肝臓にはタンパク質や糖質を、体の維持に必要な物質に変えて溜めておく働きがあります。
そのため肝臓が充分に機能しなくなると、これらの栄養素を処理しきれなくなり、次第に体重が落ちていきます。

肝臓の健康な細胞を蘇らせるためには、細胞の材料となるタンパク質が非常に重要です。
とはいえ、タンパク質が代謝する際に発生するアンモニアは、解毒能力が低下した肝臓を持つワンちゃんにとっては、なるべく避けたい物質です。
アンモニアを極力発生させずにタンパク質を取り入れるためには、消化性に優れたタンパク質を与える必要があります。
そのため、肝疾患の犬用フードには、加水分解されたタンパク質が使用されている傾向があります。

食品として取り込まれたタンパク質は、体内で分解されて分子の小さなアミノ酸やペプチドになります。
この中で最も小さなサイズのものはアミノ酸であり、アミノ酸がいくつかまとまったものがペプチドです。
タンパク質を加水分解してあらかじめ分子を小さくしておくことにより、体内での分解工程が省かれ、肝臓への負担を抑えることに繋がります。
この方法は、肝臓のケア以外に、食物アレルギーのワンちゃんにも有効です。
アミノ酸の数を極力減らしたペプチドはアレルギーの発症リスクが低下し、アミノ酸に至っては現在のところ「アレルギーを起こさない」と考えられています。

肝臓ケア用のドッグフードのタンパク質量はセーブされています
そのため、軽症の肝疾患であり、肝機能がある程度保たれているワンちゃんには、肝臓用のドッグフードは推奨されないことが一般的です。
とはいえ、重い肝臓疾患のワンちゃんにも、ある程度のタンパク質は必要です。
タンパク質が少なすぎても体重や筋肉量が減少してしまうため、含有量には慎重な設計が求められます。

ワンちゃんの嗜好性を高める工夫がなされている

肝疾患のワンちゃんには、元気がなくなり食欲が落ち、痩せてしまうといった症状がみられることがあります。
愛犬がこのような状態の時には、誰しもが「しっかりと食事を摂って、少しでも元気を出してほしい」と思われるのではないでしょうか。

どんなに犬の体のことを考えて調整されたフードであっても、肝心のワンちゃんが食べてくれなければ意味がありません。
この問題を解消するために、肝臓病用ドッグフードは、ワンちゃんの嗜好性をアップさせるための工夫がなされていることが多いのです。

肉食よりの雑食性であるワンちゃんたちが好みやすい食材は、植物性よりも動物性食品です。
動物性のタンパク質を多めに使用する、穀物類を極力使わないなどの処方によって、犬の食い付きを良くする効果が期待できます。

また、ワンちゃんの消化器官に合っているのも植物性食品ではなく、動物性食品である肉類や魚類です。
肉類や魚類はアミノ酸スコア)が100に近く、体内での吸収性・利用性が非常に高い食品でもあります。
こうした素材を使うことは、肝臓への負担を減らすことにも繋がるのです。

フードの加工時にも、低めの温度で調理をし、素材の持つ風味を極力残すように配慮されている場合もあります。
さらに肝疾患用のフードは、たくさんの量を食べなくても体を維持できるように、エネルギー量が高めに設計されていることも多いです。

※アミノ酸スコア・・・タンパク質に含有される、必須アミノ酸のバランスの良さを表した数値です。
必須アミノ酸とは、体を作るために欠かせない栄養素であるにも関わらず、体内で合成できない(もしくは合成量が必要量に満たない)ため、食品からの摂取が不可欠(=必須)なアミノ酸類の総称です。
アミノ酸スコアの最大値は100です。スコアが100に近ければ近いほど、各種必須アミノ酸の量に不足がなく、良質なタンパク質であると判断されます。
たっぷりのタンパク質と、バランスの取れた必須アミノ酸が一緒に存在することによって、タンパク質が無駄なくスムーズに体の栄養となるのです。
アミノ酸スコアが100に近い食品には、牛・豚・鶏肉、魚肉、卵、大豆などがあります。

肝臓の働きを助ける成分が添加されている

肝疾患のワンちゃん用のドッグフードには、肝臓の働きをサポートする成分が添加されている傾向があります。
代表的な種類をいくつかご紹介しましょう。

ビタミンC・ビタミンE

抗酸化作用を持つビタミンCビタミンEは、肝臓を活性酸素による酸化から保護してくれます。
活性酸素とは、少しのきっかけで変質しやすい状態の、不安定な酸素のことです。
活性酸素は体内の脂肪や細胞を酸化させ、各種臓器の働きの低下、ガンや心臓病、糖尿病、アレルギー、老化の促進など、さまざまな健康被害をもたらすといわれています。
ビタミンEは、自らが身代わりとなって酸化されることにより、体内を活性酸素から守ります。
ビタミンCは自分でも活性酸素と戦いつつ、役目を終えたビタミンEである「ビタミンEラジカル」を、再びビタミンEへと戻す役目も持ちます。
つまり、この2種類のビタミンが一緒に体内に存在することで、より強力に肝臓の酸化を防止できるのです

ビタミンEに関しては、こちらのページで詳しくご紹介しています。→ドッグフードの栄養素「ビタミンE」の働きと過剰・欠乏について

タウリン

タウリンには、肝臓の機能を高める作用があるといわれています。
さらに、ビタミンC・ビタミンEと一緒に、活性酸素を消してくれる働きも持ちます。
2018年2月現在、タウリンは「動物の体にとって大切な成分ではあるが、なくても生きていくことは可能である」と考えられています。
しかし、肝臓の弱っているワンちゃんにとっては、非常に頼もしい栄養素なのです。

タウリンについての詳細はこちらの記事をご確認ください。→ドッグフードの栄養素「タウリン」の健康効果とは?

ルテイン

「ブルーライトや紫外線のダメージから、目を保護してくれる栄養素」、というイメージのあるルテインですが、抗酸化作用を持つことでも知られています。
その作用は強力で、マウス実験においては、皮膚がんの発生が抑制されることが確認されています。
ルテインは目だけではなく、肝臓をも活性酸素の害から守ってくれるのです。

アルギニン

アルギニンが体内に入ると、一酸化窒素の量が増加します。
一酸化窒素は血管を広げ、肝臓の機能を高める働きがあるといわれています。
また、血中のアンモニアの濃度を下げる作用も確認されており、低下した肝臓の働きをサポートしてくれるのです。

肝疾患で欠乏しやすい栄養素が強化されている

肝疾患は、時にさまざまな栄養素の欠乏を引き起こします。
欠乏した際にみられる症状は栄養素の種類によってさまざまですが、いずれにしてもワンちゃんの生活の質の低下や、体調不良をもたらします。
こうした事態を防ぐため、肝臓ケア用のドッグフードには、以下のような栄養素が添加されていることが多いのです。

カルニチン

脂質を燃やしてエネルギーへと変換する際に必須の栄養素であるカルニチンは、アミノ酸のリジンとメチオニンを原料として、肝臓や腎臓で合成されます。
そのため、肝臓の機能が低下すると、充分に合成されずに不足することがあるのです。
脂質から得られるエネルギーは、筋肉を動かす原動力ともなるため、カルニチン欠乏によって筋肉痛が起こりやすくなったり、筋力が弱くなるなどの症状がみられます。
体内でうまく作れなくなった分を補う目的で、肝疾患用のドッグフードにはカルニチンが添加されている傾向があります。

ビタミンK

ビタミンKは、丈夫な骨を作る、ケガをした時に血液を素早く固める、体内の有害物質を解毒するなど、さまざまな働きを担う脂溶性(油に溶けやすい)ビタミンの一種です。
ワンちゃんの肝臓に貯蔵されているビタミンKは、肝疾患によって不足しやすい栄養素でもあります。
ビタミンKが欠乏すると、皮膚や消化管、歯ぐきなどから出血しやすくなり、貧血を起こすリスクが高まりまったり、骨がもろく、折れやすくなります。
肝疾患のワンちゃん用のドッグフードには、このビタミンKが強化されているケースが多いです。

ビタミンKの働きや欠乏症などの詳細は、こちらの記事をご覧ください。→ドッグフードの栄養素「ビタミンK」の重要性について解説

亜鉛

亜鉛も、肝疾患によって不足しがちな栄養素のひとつです。

亜鉛には、肝臓にダメージを与える有害物質(銅など)から、肝臓を守る働きがあります。
また、皮膚の構成成分であるケラチンやコラーゲンの生成にも関わり、ワンちゃんの皮膚や被毛、肉球などの良好なコンディションを維持します。
特に長毛のワンちゃんの被毛を美しく保つためには、多くの亜鉛が必要です。

亜鉛不足は、皮膚の乾燥やフケの増加、被毛の潤いがなくなる、肉球が硬く割れやすくなる、傷の治りが遅くなるなどの症状に繋がります。

まとめ

肝臓に病気を抱えるワンちゃん用のドッグフードの特徴についてご紹介しました。
肝臓病用フードに限ったことではありませんが、療法食は動物病院で処方してもらう他にも、通信販売などで個人的に手に入れることも可能です。
しかし肝疾患の食事療法は、フードの種類や給餌量、栄養バランス、エネルギー量など細かい調整が必要となります。
自己判断で療法食を与えたりやめたりすることは避け、獣医さんのような知識の豊富なプロに相談しながら選ぶことが大切です。

注意

※この記事の内容は、様々な「肝臓病用ドッグフード」の銘柄の特徴をまとめたものです。
商品によって特徴は多少異なりますので、すべての皮膚病用フードに上記の特徴が当てはまるわけではありません。