ドッグフードの原材料「ジャガイモ(馬鈴薯)」に含まれる栄養素

ドッグフードの原材料「ジャガイモ(馬鈴薯)」

私たち日本人の食卓でもお馴染みの馬鈴薯(ジャガイモのことです)は、ドッグフードにも頻繁に利用されています。
馬鈴薯はビタミンCやカリウムを豊富に含み、栄養強化目的に用いられることが多いですが、その他にもフードの加工性アップや見た目の演出など、ドッグフードに使用するメリットの多い食材です。
その一方で、ご家庭で調理した馬鈴薯を愛犬に与える際には、いくつか注意したいポイントもあります。
そのような点も含めて、飼い主さんにもワンちゃんにも身近な野菜である馬鈴薯について、詳しくご紹介していきます。

馬鈴薯はじゃがいもの別名

別々の食べ物だと誤解されがちですが、馬鈴薯(ばれいしょ)はじゃがいもの別名です。
馬鈴薯という呼び名は中国から伝わったという説が有力であり、馬の首に付ける鈴の形に似ていることから名付けられたといわれています(諸説あります)。
日本では、北海道で「馬鈴薯」と呼ばれることが多く、農業協同組合や農林水産省といった専門的な機関でもよく使われている名称です。
しかしここからは、「馬鈴薯」よりも一般的な「じゃがいも」という呼び名で統一していきたいと思います。

じゃがいもは保存性が高く、一年を通じてスーパーなどで入手することができます。
私たちが普段食べているじゃがいもは、地下に潜った茎の部分です。
白っぽいものから、黄色みが強いもの、紫や赤身がかったものまで、じゃがいもの色は品種によってさまざまです。
含まれているデンプン質などのバランスによって食感も異なります。

日本で最も多く食べられている品種は、男爵とメークインです。

こちらは男爵の写真です。日本で暮らすほとんどの方が、一度は口にされたことがあるのではないでしょうか。
ホクホクとした食感が人気の男爵は、じゃがいもの代表とも呼べる品種です。
デンプン質が豊富で煮崩れしやすい性質を生かして、細かくつぶしたり裏ごしする作業も簡単なため、ワンちゃんにも与えやすいでしょう。
男爵は凹凸の多い形状をしており、料理に不慣れな人にとっては皮が剥きにくく芽の処理もしにくいところがマイナスポイントです。

対してメークインは、コトコトとよく煮込んでも形が崩れにくいことが大きな特徴です。
じゃがいもの食感をしっかりと残したい場合には、メークインを選ぶとよいでしょう。
上の写真でも分かる通り、コロンと丸い男爵と比べて、メークインは細長い形をしています。
2種類のじゃがいもの見た目はかなり異なるため、見分けるのは容易ではないでしょうか。
メークイン特有のツルンと滑らかな表面の皮を剥くと、ほんのり黄色味を帯びた果肉が現れます。

代表的なこの2種類の他にも、きたあかりやホッカイコガネ、ニシユタカなど、さまざまな種類のじゃがいもが作られ販売されています。

じゃがいもの栄養素

カロリーは低めだが、GI値は高い

じゃがいもの主成分はデンプンです。
デンプンとは、水や二酸化炭素を材料として、植物が光合成によって作り出す炭水化物を意味します。
デンプンは炭水化物ですから、ワンちゃんの体にとっては主にエネルギー源となります。

「炭水化物が豊富」と聞くと、「カロリーが高そう」と心配される方も多いことでしょう。
しかし、上記のグラフをご覧ください。
このグラフは、じゃがいもとその他のイモ類、野菜のエネルギー量を比べたものです。
見ていただくと分かる通り、じゃがいものカロリー(エネルギー)は100g当たり76kcalと、それほど高くはありません。
ただし、GI値(グリセミック指数)はかなり高めであるため、血糖値に異常を持つワンちゃん(糖尿病など)は注意しましょう。

GI(グリセミック指数/グリセミック・インデックス)とは、その食品が体内に入った時に、どの程度の速さで糖へと分解されるかを表した数値です。
GI値が高いということは、糖へ変わるスピードが速いということを意味し、血糖値が上がりやすい食品であると判断できます。

GI値には、2018年1月現在において厳密な基準が設けられていないため、参考程度にお考えいただきたいのですが、通常GI値が60を超えると「高め」といわれます。
じゃがいものGI値は90程度であり、これは甘味が強く、いかにも血糖値を急激に上げそうなショートケーキやはちみつ、バナナなどよりも高い数値です(※1)。

血糖値が急激に上がると、それに対処しようと膵臓からインスリンというホルモンが大量に分泌されます。
血糖値をなんとか下げようと一時的に膵臓がフル稼働の状態となるので、ワンちゃんの膵臓に負担がかかってしまいます。
さらに、インスリンには脂肪を溜め込んだり合成を促進する作用もあるため、肥満にも繋がるのです。
そのため膵臓の機能が心配なワンちゃんや、肥満犬に対してはじゃがいもは控えたほうがよいともいわれています。

※1 カロリーが高いものは血糖値も上げやすいと思われがちですが、カロリーの高さとGI値は比例しません。ご存知の通り、油や卵がたっぷりと使われたマヨネーズのカロリーは非常に高いですが、血糖値の上昇はとても穏やか(=低GI食品)なのです。

デンプン質に守られ壊れにくいビタミンC

じゃがいもには、ビタミンCが多く含有されています。
ビタミンCには強い抗酸化作用があり、ワンちゃんの体内を活性酸素による酸化の害から守ってくれるのです。

ビタミンCは特に、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の酸化を抑制する力に優れているといわれています。
コレステロールが酸化すると過酸化脂質となり、体の中の細胞を連鎖的に酸化させ(錆び付かせるということ)てしまいます。
体内の酸化は老化を加速させ、高血圧や心臓病、ガン、アレルギーなど、ワンちゃんの加齢により発病率が増加する多くの疾病の原因となります。
過酸化脂質の生成を抑えることは、愛犬に末永く元気に生活してもらうためには大切なことなのです。

ビタミンCは、タンパク質の一種であるコラーゲンを作り出すためにも必要な栄養素です。
コラーゲンは、皮膚や骨、内臓など、ワンちゃんの体のさまざまな部分に含まれています。
コラーゲンのお陰で細胞と細胞がしっかりと密着し、強い肌や骨、臓器が作られるのです。

ビタミンCは熱に弱く、水にも溶け出しやすいというデリケートな面を持っています。
そのため、野菜の水洗いやカットした状態での放置、熱やお湯を使った調理などの過程で流出、破壊されてしまう割合が高い栄養素です。
しかし、じゃがいもに含まれているビタミンCは、豊富なデンプン質によってガッチリと守られており、調理中の損失が抑えられるのです。

じゃがいもを包丁でカットせずに丸ごと茹でた場合、ビタミンCの損失は2割程度であるといわれています。
細かく切れば切るほど断面が増え、茹でた時にビタミンCが流れ出しやすくなります。
ワンちゃんに与える際には、まずは大きなサイズのまま茹でてから細かくしてあげると、じゃがいものビタミンCを無駄なく摂取させることができるでしょう。

私たち人間は、ビタミンCを体内で作り出すことはできません。
しかし、ワンちゃんたちは合成が可能です。
したがって、ビタミンCの補給には人間ほど神経質になる必要はありませんが、ワンちゃんの状態によってはビタミンCを大量に消費してしまうケースもあります
例えば、ストレスの多い環境に置かれた場合や、病気にかかった時、激しい運動をした時などは、ビタミンCが消耗しやすい状況です。
このような時には、犬の体内で作られるビタミンCだけでは不足する可能性もあるといわれています。

また、ビタミンCは水に溶けやすく、少し多めに摂取したとしても尿と一緒に排出されやすい栄養素です。
「体内に溜めておき、必要な時に少しずつ補給する」、ということはできませんが、これは言い換えれば過剰摂取になりにくいということでもあります。
そのため、「体内で作られているのだから、食品からの摂取量には気を付けないと!」と、過剰に心配する必要はありません。

ただし、ビタミンCの大量摂取によって、軟便や下痢を起こすワンちゃんもいるといわれています。
また、シュウ酸カルシウム結石(※2)を患っているワンちゃんは、体内で分解されたビタミンCが結石のもととなってしまうことがあるため、摂取を控えさせたほうがよいでしょう。

※2 シュウ酸カルシウム結石・・・シュウ酸とカルシウムを主成分とする石が、腎臓や尿道などの尿路に発生する疾患です。シュウ酸カルシウム結石は表面がトゲトゲとした形をしていることが多く、臓器を傷つけやすいといわれています。ワンちゃんの結石の中では、ストラバイト結石に次いで2番目に高い確率で発症します。

タンパク質の再合成に不可欠なビタミンB6

じゃがいもといえば炭水化物のイメージが強いため少し意外かもしれませんが、ビタミンB6も多く含まれているのです。
ビタミンB6は、さまざまな酵素のサポート役を担う栄養素です。
食品として取り込まれたタンパク質は、体内において一度分解されてアミノ酸になってから、体に役立つ新たなタンパク質として再度生まれ変わります。
この生き物の体作りに欠かせない一連のシステムに関与する酵素を助ける存在こそが、ビタミンB6なのです。 特にワンちゃんは、動物性食品から多くのタンパク質を摂取しながら生きています。
大量のタンパク質を処理するには、それだけしっかりと酵素が働かなくてはなりません。
つまりビタミンB6は、タンパク質摂取量の多い犬にとって、非常に重要な栄養素なのです。

ビタミンB6にはこの他にも、

  • 免疫機能を安定させ、アレルギーの悪化を防いだり、症状を和らげる
  • 脂質の代謝を円滑に行うことに関与し、体内(特に肝臓)に脂肪が蓄積することを抑制する
  • 体内の余分なナトリウム(塩分)の排泄を助け、適度な塩分濃度に調節する

といったさまざまな作用が認められています。
ビタミンB6はしっかりとした体を作るだけでなく、さまざまな面からワンちゃんの健康を支えてくれているのです。

ビタミンB6に関しての詳細は、こちらの記事をご覧ください。→ドッグフードの栄養素「ビタミンB6」の働きについて知ろう

体内塩分濃度を調節するカリウム

生物の健康維持に欠かすことのできないカリウムも、じゃがいもには豊富に含有されています。
カリウムは、ナトリウム(塩分)が体内で過剰となると働き、余分な量を排出してくれる働きを持ちます。
ナトリウムの過剰摂取は体のむくみや高血圧を誘発するリスクがあります。
愛犬にカリウムを適度に摂取させることにより、こうした体の不調を防ぎやすくなるのです。

また、カリウムは筋肉の収縮をスムーズに行うためにも必須の栄養素です。
しかしこの仕組みにはナトリウムも関わっており、カリウムだけ、ナトリウムだけを摂取させていればよいというものではありません。
カリウムとナトリウムは体の中でバランスを取り合いながら共存し、ワンちゃんの体調を正常に保ってくれているのです。

さまざまな目的でドッグフードに使われるじゃがいも

じゃがいもは、ドライ、ウェット問わず、多くのドッグフードに利用されている食材です。
主な使用目的はもちろんエネルギーの補給ですが、それだけではありません。
じゃがいもは腹持ちが良く、フードのかさ増しにもなるため、ドッグフードに加えることによってワンちゃんの満足感を高めることができます。
さらに、ドライフードを作る際には、じゃがいものねっとりとした質感は優れた「つなぎ」となり、キブル(フードの粒)の成形がしやすくなるというメリットもあります。

加熱すると柔らかくなり、裏ごしすることも簡単なじゃがいもは、咀嚼力や飲み込む力の弱いシニア犬や子犬用のペースト状のフードなどにも便利に使える食材です。
ウェットフードにおいては、肉の赤さとじゃがいもの白さをそのまま生かすことができるため、見た目にも鮮やかな商品となり、飼い主さんの購買意欲をくすぐる効果もあるのです。

また、じゃがいもそのものではなく、じゃがいもから取り出したデンプンのみが原材料として使用されるケースもあります。
これは「ポテトスターチ」や「馬鈴薯デンプン」などと呼ばれ、ウェットフードのとろみ付けなどに利用されています。

ドッグフードだけではなく、ワンちゃんに向けて作られたジャーキーやチップス、卵ボーロにケーキなど、じゃがいもを使ったおやつも挙げればキリがありません。

ポテトグリコアルカロイドとアクリルアミドに要注意

芽や緑の皮はしっかり取り除く

お店で生のじゃがいもを買い、ご家庭で調理をしてワンちゃんに与える際には、含まれている有毒物質に注意しましょう。

じゃがいもには、ポテトグリコアルカロイド(PGA)と総称される、体に害を与えるリスクのある物質が含まれています。
ポテトグリコアルカロイドには、ソラニンチャコニンなどの種類があります。
これらは特に、じゃがいもの芽や緑色に変色した皮の部分に多く含有されている成分です。

ソラニンやチャコニンを摂取すると、腹痛や下痢、嘔吐、頭痛、めまいなどの症状が現れることがあります。
人間の例ではありますが、大人に比べて解毒能力の弱い子供が食べた場合には、亡くなるケースもあるほど油断のならない成分が、ポテトグリコアルカロイドなのです。

ソラニンやチャコニンといった毒性を持つ成分は、じゃがいもが虫や動物から食べられないように、自らの身を守るために作り出した成分です。
特に、これから発芽して成長していく芽を守らなければ、じゃがいもという種が途絶えてしまいます。
そのため、ポテトグリコアルカロイドは芽に集中して含まれているのです。

じゃがいもの皮は太陽に当たると発芽の準備に入り、緑色に変色し始めます。
このタイミングでポテトグリコアルカロイドも緑色の皮の部分に凝集されていくのです。

どの程度の量までならばポテトグリコアルカロイドを摂取しても健康被害が出ないのか、ということに関しては、動物に対しても人間に対してもハッキリとした基準が出されていません
先ほどの大人と子供の例ではないですが、ワンちゃんの中でも体質や体調によって、解毒がスムーズにできる子と、少しの毒性でも反応してしまう子がいるでしょう。
また、じゃがいもを煮たり茹でたりして加熱しても毒性が失われることはありません
このように、ポテトグリコアルカロイドは安全基準も分からず解毒法もハッキリしていないため、危険性のある部位はとにかく愛犬に摂取させないようにすることが大切です。

じゃがいもに、上の写真のような芽(イモから飛び出した、やや紫がかった部分です)が出ていた場合にはしっかりと取り除きましょう。
この時、少し広めに芽の周りの果肉もカットしてください。
皮も、緑色の部分をサラッと剥くのではなく、果肉も緑色に変色していた場合にはその部分も切り取ってしまいましょう。
特にメークインは、男爵など他の品種に比べてポテトグリコアルカロイドが多く含まれているといわれています。

充分に成長していない小さなサイズのじゃがいもは、その可愛らしい見た目とは裏腹に、高濃度のポテトグリコアルカロイドを含んでいる傾向にあるため注意が必要です。
小学校の授業の一環として子供たちが栽培するような小さなじゃがいもで、食中毒を起こす事例が多く報告されています。

サイズも大きく、表面に変色も芽もないきれいなじゃがいもでも、ポテトグリコアルカロイドが全く含まれてないわけではありません。
しかし、こうしたじゃがいもを食べて体調を崩したという報告がほぼないということからも分かる通り、ソラニンやチャコニンの含有量はごくわずかです。

お湯を使わない高温調理でアクリルアミドが発生する

前述通り、ポテトグリコアルカロイドは煮る、茹でるなどの調理方法で失活することはありませんが、高温で焼いたり揚げることによって毒素が減少することは報告されています。
とはいえ、どの程度毒素を減らせるかははっきりとしておらず、もともとの含有量や調理温度、調理方法などによって差が生じるといわれています。
こうした調理法に頼ることは確実ではありませんので、避けるようにしましょう。

またじゃがいもを、高温調理することによって発生するアクリルアミドにも注意が必要です。
アクリルアミドは、糖類とアミノ酸が高温によって変化した有毒な物質です。
多くの動物実験を通して、遺伝毒性や発がん性が確認されているアクリルアミドは、国際がん研究機関(IARC)(※3)において、「人に対しても、おそらく発がん性がある」と評価されています。

※3 国際がん研究機関(IARC)・・・フランスのリヨンに本部を置く国際がん研究機関は、世界保健機関(WHO)によって作られました。食品やその他の物質など、さまざまなものに対する発がん性の研究や調査を行う専門機関です。

このアクリルアミドの発生に警戒しなければならないのは、じゃがいもを焼いたり揚げたりして調理する場合です。
同じ高温調理でも、煮る・茹でる・蒸すなど、お湯を使用した調理法であればアクリルアミドの生成を抑えることができます
芽や緑色の皮、果肉をきれいに処理したじゃがいもを、お湯を使って加熱調理して、ワンちゃんの体をポテトグリコアルカロイドやアクリルアミドの毒性から守ってあげましょう。

じゃがいもを焼いたり揚げる場合には油も多く使用するため、ワンちゃんのカロリーオーバーや肥満も心配になります。
食材をヘルシーな状態で与えられるという点でも、煮たり茹でたりする調理法はおすすめです。

現在(2018年1月)では、えぐみが少なく生でもおいしくいただける「はるか」といった品種のじゃがいもも手に入ります。
しかしワンちゃんには、適した方法(お湯を使った加熱調理)できちんと火を通したじゃがいもを与えるようにしましょう。
じゃがいものデンプン質は、比較的犬が消化しやすいといわれています。
とはいえ、基本的にワンちゃんたちは植物性食品の消化をあまり得意としていません。
火を使って調理することによってじゃがいもを柔らかくし、少しでも消化吸収率をアップさせてあげることが大切です。

まとめ
じゃがいもは、そのままでも潰してペースト状にしても利用でき、エネルギーだけでなく、ビタミン類やカリウムなどの栄養素まで補給できる便利な食材です。
多くのドッグフードやワンちゃん用のおやつにも使用されていますし、私たちの日常の食卓にも頻繁に登場します。
あまりにも身近な食べ物のため、これまで「じゃがいもの安全性について疑うことなんてなかった」という方も多いことでしょう。
しかしじゃがいもは、調理前や調理中に気を付けなければならないポイントの多い食品です。 「もったいない」、「面倒くさい」と感じられるかもしれませんが、毒性が疑われる部位をキッチリと処理する、お湯を使ってしっかりと調理することが、ワンちゃんの健康を守ることに繋がります。