ドッグフードの栄養素「ビオチン」
ビオチンは、肌荒れやニキビの緩和、美肌に良いとされている栄養素です。
人間用のサプリメントや医薬品にも幅広く使われているため、お世話になったことのある方も多いのではないでしょうか。
ワンちゃんにとってもビオチンは、皮膚や被毛の健康を保つために非常に重要な成分です。
さらに、糖質などからのエネルギー産生を補助するという役割も持っています。
ここではビオチンの具体的な働きや、ワンちゃんへ与える際の注意点、どのような食材に含まれているかなどについてご説明していきます。
ビオチンの作用
ビオチンはビタミンB群の一種
ビオチンは、ドッグフードに栄養強化の目的で添加されていることがあります。
その際、原材料欄に「ビタミンH」と表記されていることがありますが、これはビオチンを指しているのです。
ビオチンはビタミンB群の一種であり、1935年にオランダで卵黄の中から発見された栄養素です。
ネズミの皮膚炎を抑制する作用を持っていたことから、ドイツ語で「皮膚」を表す「Haut」の頭文字を取り、「ビタミンH」と名付けられました(ビタミンBとして発見された順番の数字から、「ビタミンB7」とも呼ばれます)。
さらにビタミンHは、酵母などの微生物の成長や増殖にかかわるビオス(bios)という成分の構成要素となっていたことから「ビオチン」と名付けられました。
ドッグフードを始めとする食品中に含まれているビオチンは、タンパク質内に存在するリジン(アミノ酸)と固く結合しています。
体内に取り入れられ、ビオチニダーゼという膵液酵素の作用でリジンから引き離されることにより、初めてビオチンとして活動できるようになるのです。
エネルギー変換をサポートする
ビオチンの最も重要な役目は、脂質やタンパク質、糖質がエネルギーへと変換される過程で補酵素として働くことです。
補酵素とはその字の通り、酵素の働きをサポートする作用をもった成分を意味します。
例えばビオチンは、体内エネルギーのリサイクルに必要なカルボキシラーゼという酵素の補酵素となります。
エネルギー変換の大まかな流れは以下の通りです。
摂取した糖質(炭水化物など)は体内で処理され、最終的にブドウ糖へと分解されます。
このブドウ糖が燃焼することによってエネルギーが生まれるわけですが、その時にピルビン酸という燃えカスのような副産物が生成されるのです。
燃えカスといえば利用価値がないことがほとんどですが、ピルビン酸はカルボキシラーゼの働きによって、再び糖質へと変化します。
糖質へとリサイクルされたピルビン酸は、再度エネルギーとして活躍することができるようになります。
このカルボキシラーゼの働きをビオチンが補助することによって、糖質を無駄なく効率良く利用できるようになるのです。
アトピー性皮膚炎の症状緩和も期待されている
ビオチンは、アトピー性皮膚炎の緩和にも有効といわれています。
アトピー性皮膚炎へのビオチンの効果は、まだメカニズムが完全に解明されているわけではありません。
しかし、一定の効果が確認されていることも事実なのです。
アトピー性皮膚炎を発症する子の血液中には、ビオチンの量が通常の半分以下しか存在しなかったというデータも出ています。
このビオチン不足によって、皮膚のバリア機能が低下し水分が逃げ、常に乾燥状態となっていることが、アトピーの一因であるといわれているのです。
さらにビオチンには、ヒスタミンの前駆物質(※)であるヒスチジンを体外へ排出する作用があるとされています。
ヒスチジンがヒスタミンに変わると、アトピーのひどい痒みや皮膚の赤さなどの原因となります。
ビオチンがヒスチジンを排泄することによりヒスタミンの生成量が抑えられ、アトピーの症状緩和に繋がると考えられているのです。
また、ビオチンはタンパク質の合成にも関与しており、皮膚の乾燥を抑え、フケや脱毛を防ぐ働きも知られています。
ビオチンをしっかりと摂取させることにより、ワンちゃんの被毛の柔らかさやツヤがアップすることが期待できるのです。
(※)前駆物質・・・ある成分に変化するひとつ前の段階の物質を意味します。
ビオチンの欠乏症と過剰症
抗生剤服用と生卵で欠乏するリスクがある
ビオチンは、ワンちゃんの腸内微生物(腸内細菌)によって合成が可能な栄養素です。
微生物から作られるビオチンの量は、犬の必要量の50%以上となることもあるといわれています。
それに加えていろいろな食品にも含まれているため、健康なワンちゃんがしっかりとした栄養バランスの食事を摂取している限り、ビオチン不足となるケースはあまりありません。
しかし、ワンちゃんの状態によってはビオチンが欠乏する可能性もあります。
ひとつには、抗生物質の服用で腸内微生物が減少したり、微生物の種類のバランスが崩れてしまった場合です。
長期的に下痢が続いている時にも同様の状態が起こります。
抗生剤投与中や下痢が長引いている愛犬には、意識的にビオチンを食事から摂取させてあげましょう。
ふたつめは、生卵を過剰に食べさせた場合です。
生の卵白には、アビジンという物質が含まれています。
アビジンは、ワンちゃんの消化管内でビオチンとのみ結合し、吸収を妨げる性質を持ちます。
そのため、生卵の過剰摂取はビオチン欠乏の原因となる可能性があるのです。
卵をあげると喜ぶワンちゃんは多いので、ついついたくさん与えてしまうという飼い主さんもいることでしょう。
アビジンは80℃以上で加熱をすることによって、ビオチンとの結合作用がなくなります。
愛犬には必ず火を通した卵をあげるようにしましょう。
ちなみに卵黄は、100g中に63.9μgという多くのビオチンを含んでいます。
卵黄は卵白に比べて高カロリーなため敬遠されがちですが、ビタミンAやビタミンD、セレンなどの栄養素も豊富に含んでいます。
愛犬にはぜひ全卵(卵白と卵黄の両方)を食べさせてあげてください。
ワンちゃんがビオチンの欠乏を起こした場合には、以下のような症状が確認されています。
- 被毛の色が薄くなり、細く切れやすくなる
- 顔周り(目や鼻、口元など)の皮膚の乾燥や脱毛
- 皮膚表面が赤くなる
- 全身からフケが出る
- 皮膚の炎症
- 唾液が増える
- 成長が遅くなる(子犬の場合)
- 奇形児の出生確率が上昇する(妊娠中の母犬がビオチン不足の場合)
ビオチンの不足は主に皮膚に症状が現れます。
目で見て分かりやすい変化が多いので、ワンちゃんの異変に気付いてあげやすいでしょう。
日頃からスキンシップを兼ねて、愛犬の皮膚や被毛の状態をチェックしておきたいですね。
毒性が低く、過剰症の報告はない
ビオチンは毒性が非常に低い栄養素であると考えられています。
しかも、水に溶ける性質を持ったビタミンB群の仲間であるため、多く摂取してもすぐに尿と一緒に排泄されてしまうのです。
2017年10月現在において、ワンちゃんに対するビオチンの過剰摂取による毒性は知られていません。
人間のアトピー性皮膚炎の治療目的でも多量のビオチンが用いられることがありますが、それによる健康被害の報告もないといわれています。
しかしいくつかの動物実験において、妊娠中の母体に大量のビオチンを摂取させると、奇形を持った子どもが産まれてくる可能性が高くなるというデータが出ているのです。
子どもへの影響に関していえば、ビオチンは不足しても過剰でも同じリスクがあるということになります。
ビオチンの含まれた犬用サプリメントも売られていますが、妊娠中のワンちゃんへの自己判断での使用は控えた方がよいでしょう。
妊娠中の愛犬にビオチン不足が疑われる場合には、かかりつけの獣医さんなどに相談されることをオススメします。
ビオチンはレバーや卵黄に多く含まれる
食品に含まれるビオチンが体内でどれだけ働いてくれるのかについては、化学的にハッキリとしたデータが得られていません。
また、小麦に含まれるビオチンは体内での吸収率が非常に低いなど、食品によっても差があります。
そのため、「この食品をこれだけ食べれば、1日に必要なビオチンが補える」と断言することができない栄養素なのです。
しかし幸いなことに、ビオチンはさまざまな食材に含まれています。
愛犬にバランスのよい食事を取らせるように心がけていれば、含有量についてはそれほど心配する必要はないでしょう。
以下に、ビオチンを多く含む食材とその含有量をグラフで示しました。
いずれもワンちゃんが食べられる食材です(ただしアレルギーにはご注意ください)。
妊娠中や抗生剤服薬中など、愛犬のビオチン不足が懸念される時の食材選びの参考になさってください。
鶏レバーには100g当たり227.4μgという非常に多くのビオチンが含まれています。
効率的にビオチンを補うには最適ですが、与え過ぎには注意するようにしましょう。
鶏レバーにはレチノール(ビタミンA)も多く含まれています(100g当たり14000REμg)。
レチノールは肝臓に溜まりやすく、多量に摂取すると皮膚の発疹や脱毛、脚や筋肉の痛みなどさまざまな症状が出る可能性があるのです。
また、コレステロールも決して少なくはありません(100g当たり370mg)。
手作り食やドッグフードのトッピングにレバーを用いる頻度は週に1~3回程度に抑え、量も少量に留めておきましょう。
まとめ
アトピー性皮膚炎への効果や体内での利用効率など、まだまだ謎に包まれている部分はありますが、これからの研究において更なる有用性が明らかとなる可能性を秘めた成分でもあるのです。
ビオチンは水溶性のため、体内に長く留めておくことができません。
愛犬の皮膚と被毛の状態を健やかに維持するためにも、毎日の食事からこまめに摂取させたい栄養素です。