ドッグフードの原材料「コーンスターチ」
菓子類やビール、化粧品から段ボールに至るまで、私たちの身の周りにはコーンスターチを使用した商品が溢れかえっています。
とうもろこしのデンプンをたっぷりと含んだコーンスターチは、栄養補給を目的として、ワンちゃん用のフードやおやつにも頻繁に使用されています。
私たち飼い主にとっても愛犬にとっても非常に馴染み深いコーンスターチについて、種類や用途、注意事項など色々な角度から解説していきたいと思います。
コーンスターチの特徴と種類
コーンスターチはとうもろこしのデンプン
コーンスターチは別名「とうもろこしデンプン」とも呼ばれます。
その名の通り、コーンスターチの原料はとうもろこしに含まれるデンプン(澱粉)です。
とうもろこしは、光合成によって作り出した栄養素をデンプンという形で体の中に蓄えています。
そのデンプンのみを取り出し、乾燥させて作られたものがコーンスターチです。
大量のデンプンを含む植物には、小麦やサツマイモ、じゃがいもなどもありますが、とうもろこしは最も純度が高く品質の良いデンプンが採れる植物です。
常温では細かい粉末の状態を保つコーンスターチを、指に取ってすり合わせてみると、キュキュッと音が鳴りそうな、やや硬めの独特な感触があります。
ニオイが無く、色も白いため、使用する料理の風味や見た目を邪魔しない点も、コーンスターチの大きなメリットです。
食感を決めるのはアミロースとアミロペクチン
コーンスターチは、原料とされるとうもろこしの品種によって、いくつかの種類に分けられます。
とうもろこしは品種ごとに、アミロースとアミロペクチンの含有バランスが異なっており、どのとうもろこしを使うかで、コーンスターチの使い心地が大きく変わるのです。
まずは、アミロースとアミロペクチンについて、簡単にご説明します。
どちらもデンプンの一種ですが、その性質は正反対です。
アミロース
数十個から数百個のブドウ糖が連なった、1本の鎖のような構造をしています。
温度が低下するとあっという間に固まる、水に溶けにくいなどの性質を持ちます。
アミロースの割合が多ければ多いほど、硬くしっかりとした歯ごたえとなります。
アミロペクチン
数百から数十万という膨大な数のブドウ糖が複雑に組み合わさり、枝分かれをした状態で結合しているデンプンです。
冷えてもゲル状を保ち、固まりにくいという特徴があります。
アミロペクチンの含有量が多いと、もっちりとした粘り気のある食感になります。
通常のとうもろこしや米は、含有量の差はあるものの、アミロースとアミロペクチンの両方を含んでいることが一般的です。
しかし、お餅に使われるもち米は、アミロペクチンがほぼ100%であるため、非常に強い粘りが生まれるのです。
3種類のコーンスターチ
アミロースとアミロペクチンについて分かったところで、話をコーンスターチに戻します。
コーンスターチとして利用されているものには、大きく分けて3つの種類があります。
ひとつずつみていくことにしましょう。
コーンスターチ
コーンスターチの原料の中で最もポピュラーなものは、デントコーン(馬歯種)と呼ばれるとうもろこしです。
種子が成熟するとともに、粒の上部にくぼみが現れ、それが馬の歯に似ていることから、「くぼみ」を表す「デント(dent)コーン(corn)」や「馬歯種」と名付けられました。
デントコーンは成熟するにしたがって、糖質がデンプンへと変化します。
そのため、食用のとうもろこしとして最も一般的なスイートコーン(甘味種)に比べると甘味が薄く、物足りない味がするのです。
食味がイマイチなデントコーンが、そのまま人間の食用となることはほとんどありません。
しかし、生産量が多く安価であるため、家畜の飼料やコーンスターチの原料として頻繁に利用されています。
デントコーンのアミロース含有量は26%前後、アミロペクチンは74%程度です。
これは、私たち日本人が口にする機会の多いうるち米(一般的なお米)とよく似たバランスです(うるち米のデンプンは、アミロースが20%、アミロペクチンが80%程度といわれます)。
特に、ビスケットやクッキーをサックリと軽い食感に仕上げたり、ビールの口当たりの重さを和らげるなどの目的で使われることが多いです。
一般家庭において、料理のとろみ付けに使用されることもあります。
ワキシーコーンスターチ
ワキシーコーンスターチは、ほぼアミロペクチンだけで構成されているワキシーコーン(もちとうもろこし)から作られます。
「ワキシー」は英語で「waxy」と表記します。
その名の通り、ツヤツヤとした種子の表面が、まるでワックスをかけたように見えることから命名されたといわれています。
冷めても硬くならず、ソフトな食感を維持できるため、麺類やお餅、ケチャップやソースといった液状の調味料など、特に粘性が求められる食品に使われています。
ハイアミロースコーンスターチ
ワキシーコーンスターチとは反対に、アミロースを50%から90%程度含有する ハイアミロースコーン(高アミロース種)から作られたものが、ハイアミロースコーンスターチです。
パリッとした食感が必要なスナック菓子や、フライの衣などに利用されます。
食品の表面をコーティングして、中身の柔らかさを保つ働きもあるため、長期保存を前提として作られる冷凍食品に使われることもあります。
エネルギーの供給やとろみ付けを目的として使われる
コーンスターチに含まれるデンプンの割合は、86.5%以上です。
上の項目で、「とうもろこしのデンプンのみを取り出して、コーンスターチを作る」という旨のお話をしましたが、除去しきれなかったタンパク質や脂肪、ミネラルなども、若干ではありますが混入しています。
とはいえ、デンプンが大部分を占めているコーンスターチは、主にエネルギーの供給源としてドッグフードに配合されています。
また、ワンちゃん用のクッキーやジャーキー、卵ボーロなどにも、頻繁に使われます。
デンプンは消化吸収が可能な炭水化物=糖質の一種です(※1)。
1g当たりのエネルギー量は脂質に負けますが(※2)、糖質には「エネルギーになるまでの時間が短い」という利点があります。
体内に取り込まれた糖質は、速やかに燃焼され、体や脳を働かせるエネルギーへと変わります。
活発に運動するワンちゃんや、ハードな仕事を任されている使役犬(※3)など、多くのエネルギーを必要とするワンちゃんにとっては、非常に効率の良いエネルギー源がデンプンなのです。
しかし、散歩が嫌い、寝ていることが多いなど、活動量の低いワンちゃんがデンプンを摂り過ぎると、使われなかった分が脂肪細胞に蓄積され、肥満の原因にもなってしまいます。
※1 炭水化物は、生物が消化吸収できる糖質と、消化吸収が難しい食物繊維とに大別されます。
※2 糖質のエネルギー量は1g当たり4kcal、対して脂質は9kcalです。
※3 使役犬・・・警察犬や盲導犬、牧羊犬、災害救助犬など、人間のために仕事をするワンちゃんたちのことです。
ウエットフードにコーンスターチを添加する場合には、エネルギー供給以外にも、とろみ付けという理由があります。
肉や魚、野菜などの原材料をとろみで覆うことにより、やわらかくみずみずしい食感を持たせることが可能です。
咀嚼力や物を飲み込む力の弱いシニア犬や幼犬、口の中が炎症を起こしているワンちゃんなど、フードをしっかりと噛めない子にも優しいフードができあがります。
人間用の食品では、前述のようにビスケットやビール、麺類、スナック菓子などに利用される他、ちくわなどの練り製品やカレー粉に配合されていたり、ブドウ糖や水あめに加工されることもあります。
食べ物以外では、医薬品やインク、ファンデーションなどの化粧品類、ベビーパウダーなど、私たちの身近にある多くの物にも含まれています。
さらに、ゴム手袋の脱ぎはめをスムーズに行えるよう内側に付けられている粉も、コーンスターチの場合が多いのです。
また、コーンスターチは、とろみの強さは片栗粉(主にジャガイモのデンプンから作られています)よりも劣りますが、温度が下がっても粘性が持続し、接着力が強いという特徴があります。
この性質は、段ボールの糊付けや製紙などにも活用されています。
コーンスターチ使用のドッグフードを与える際に気をつけたいこと
米や小麦との交差抗原性が高い
コーンスターチには、アレルギーを起こすリスクの高いタンパク質がほとんど含まれていません。
そのため、食物アレルギーを持つワンちゃんのために設計された、アレルギーケア用のドッグフードに使用されることもあります。
しかし、コーンスターチでアレルギーを発症してしまうワンちゃんもいるため、注意が必要です。
トウモロコシにアレルギーのあるワンちゃんはもちろんのこと、米や小麦に反応してしまう子にとっても、コーンスターチは気を付けたい食品です。
とうもろこしはトウモロコシ属、米はイネ属、小麦はコムギ属にそれぞれ分類されますが、同じイネ科に属しています。
いわば、とうもろこしと米、小麦は親戚のような間柄なのです。
互いに別の植物とはいえ親戚同士ですから、似ている部分があっても不思議ではありません。
例えば、小麦アレルギーのワンちゃんが、とうもろこしから作られたコーンスターチを食べたとします。
その時に、ワンちゃんの体内の免疫機能が、コーンスターチの成分を小麦と勘違いをして攻撃してしまう可能性があるのです。
これは、小麦とコーンスターチに含まれるアレルゲン(※4)となる成分の構造が、似通っていることから引き起こされます。
この現象のことを、「交差抗原性」や「交差反応」、「交差感作」などと呼びます(「交差」は「交叉」と表記されることもあります)。
コーンスターチと交差性のある食品には、米や小麦の他、ライ麦や大麦もあります。
これらの食材も、ドッグフードに使用されていることがありますので、穀物アレルギーのワンちゃんは警戒した方がよいでしょう。
※4 アレルゲン・・・アレルギー症状を引き起こす原因となる物質のことです。
ワンちゃんの免疫機能の性能には個体差がありますから、コーンスターチとその他の穀物をしっかりと見分けることができるケースももちろんあります。
また、他の食品にはアレルギーがなくても、コーンスターチで初めて食物アレルギーを発症するワンちゃんもいるかもしれません。
アレルギーがいつ、どの食べ物をきっかけに発症するかを予測することは困難です。
コーンスターチに限らず、新しい食べ物やフードを与える際には、まず少ない量から試し、ワンちゃんの体調を観察しながら徐々に量を増やしていくようにしましょう。
もちろん、今まで普通に食べていた物によってアレルギーが引き起こされることもありますので、愛犬の調子を常に把握しておくことも大切です。
とうもろこしだらけのフードには要注意
とうもろこしから作られる食品は、コーンスターチだけではありません。
とうもろこしに含まれるタンパク質を原料とするコーングルテンミールや、とうもろこしの皮の繊維質を使ったコーングルテンフィードなど、とうもろこし製品の種類は豊富です。
これらはワンちゃんの嗜好性は高くありませんが、ドッグフードの安価な栄養源として利用されています。
犬は人間との生活の中で雑食性を獲得しましたが、現在でも肉食寄りの食性を持つことに変わりはありません。
本来、ワンちゃんの体に最も適している食べ物は、肉類や魚などの動物性食品です。
穀物類からの栄養補給は補助的な役割に留めておくことが、犬の食性にも合っているのです。
とはいえ、ドッグフードに肉や魚をたっぷりと使用すると、それだけコストがかかってしまいます。
これでは、安い値段でたくさんの人に買ってもらえる商品は製造できません。
そこで、大量生産・安定供給される安価なとうもろこしを使った食材の出番がやってきます。
コーンスターチで炭水化物を、コーングルテンミールでタンパク質を、コーングルテンフィードで食物繊維を補給する、といった具合に配合していけば、一応はワンちゃんの栄養素要求量を満たしたフードができあがることでしょう。
しかし、それをどれだけ消化し、栄養として利用できるのかはワンちゃんの体質によって異なります。
植物性の食品に消化器官が馴染みにくい子であれば、大量のとうもろこしが使われたフードで下痢や嘔吐などの消化不良を起こすという可能性も考えられるのです。
また、下痢にはならなくても、消化しきれなかったフードが大量の便となって出てきてしまうこともあり得ます。
「とうもろこし製品を使用したフードは一切食べてはいけない」というわけではありません。
しかし、アレルギーなどがない限りは、肉や魚がメインとして使われたフードを与えるようにしたいものです。
ドッグフードの原材料欄は、たいてい含有量の多い食材から順番に表示されています。
とうもろこし製品の名称はなるべく後ろの方、最低でも4~5番目以降に書かれている商品を選んだ方がよいでしょう。
もちろんトップから3番目までには、肉や魚の名称が多く登場しているフードがベストです。
また、ワンちゃんは肉類や魚を食べることによって、そこに含まれている必須アミノ酸も摂取しています。
必須アミノ酸とは、犬が生きていくうえで不可欠であるけれども、体内で合成不可能か、必要量に満たない量しか作り出せないため、外部から取り入れることが必要なアミノ酸を意味します。
10種類ある必須アミノ酸のうち、とうもろこしには、リジンとトリプトファンという2種類のアミノ酸が特に不足しているのです。
ワンちゃんが必要とする栄養素が全て詰まった総合栄養食であれば、たとえとうもろこしが大量に使われていたとしても、アミノ酸の要求量を満たすために栄養素を添加していることでしょう。
そのため、総合栄養食を与えているご家庭では、アミノ酸欠乏の心配は少ないと思われます。
しかし、手作り食を与えている場合には、知らず知らずのうちに栄養素の偏りが生じているケースもあります。
食材の種類や量を決める際は、栄養バランスに配慮しましょう。
まとめ
コーンスターチは、ワンちゃんの体にとって毒となる食材ではありませんし、適度な摂取であれば効率の良いエネルギー源となります。
しかし、肉食性を色濃く残しているワンちゃんたちにとって、一番適した食材は動物性食品です。
コーンスターチを始めとするとうもろこし製品やその他の穀類は脇役として、控えめに与えることが、ワンちゃんの体にとって優しいごはんとなるのです。