ドッグフードの栄養素「メチオニン」
ドッグフードの原材料欄でよく見かけるメチオニンという栄養素は、食べ物から摂る必要のある必須アミノ酸です。
ここでは、メチオニンの具体的な働きやワンちゃんの体への影響、ドッグフードとの関係などについて解説していきます。
メチオニンについては、中学高校時代に家庭科で習った記憶のある人も多いことと思います。
「そんな成分は記憶にありません」という人から「名前は知っているけれど、ワンちゃんに対しても必要な栄養素なの?」と疑問に思う人まで、ご自分の愛犬のためにメチオニンについての理解を深めていきましょう。
メチオニンの働き
メチオニンは、含硫アミノ酸(イオウ成分を含んだアミノ酸)の一種です。
私たち人間と同様に、ワンちゃんも体内でメチオニンを作り出すことはできません。
そのためメチオニンは、食物からの摂取が必要な「必須アミノ酸」に分類されています。
被毛や皮膚の健康に欠かせない栄養素
ワンちゃんの体を覆っている被毛は季節ごとに抜けて、生え変わります。
また、皮膚は約21日周期というスピードで常に生まれ変わっています。
メチオニンは、これら被毛や皮膚の主成分となるケラチンというタンパク質を作る材料となります。
ワンちゃんの被毛や皮膚をトラブルなくスムーズに生まれ変わらせ、健康な状態を維持するためにメチオニンは必要不可欠な成分なのです。
アレルギー症状を緩和する
メチオニンには、アレルギー症状を緩和する効果も期待できます。
アレルギーは、肥満細胞(マスト細胞ともいいます)が体内に侵入した物質(食べ物、花粉、ホコリ、ダニなど)を異物と認識し、ヒスタミンという成分を放出することによって発症します。
ヒスタミンは、神経を刺激し皮膚のかゆみや鼻水、くしゃみなどを引き起こします。
メチオニンは、血中におけるヒスタミン濃度を低下させる働きを持つため、アレルギー症状を軽減することができるといわれているのです。
タウリンの原料となる
ワンちゃんの肝臓では、メチオニンとシステイン(アミノ酸の一種)を合成することにより、タウリンを作り出しています。
タウリンには、常に体を一定の状態に安定させる働き(恒常性)や、血糖値の上昇を抑える効果、強い抗酸化作用などが認められています。
タウリンは、ワンちゃんの生命維持に必須とまではいかなくとも、健康的に不自由なく生きていくためには大切な栄養素です。メチオニンは、こうした重要な成分の原料ともなります。
タウリンに関する詳細については、以下の記事をご参照ください。
→ドッグフードの栄養素「タウリン」の健康効果とは?
肝臓の働きを助ける
また、メチオニンは、肝臓が老廃物の分解や解毒をする際にサポートする働きを持ちます。
さらに、脂肪を水に溶けやすく(乳化作用)排泄しやすい状態にするため、脂肪肝(肝臓に脂肪が溜まってしまった状態)の予防効果なども期待できるのです。
尿を酸性にすることで尿石症(尿路結石)を防ぐ
尿石症(尿路結石)とは、尿道や尿管、膀胱、腎臓などの尿路系器官に、ミネラル成分が集まって形成された「尿石」と呼ばれる石が発生する病気です。
尿石症は、発症原因や結石の構成成分によっていくつかの種類に分けられますが、ワンちゃんに最も多いのはストルバイト尿石症(ストラバイト尿石症)と呼ばれるものです。
体内で過剰となったマグネシウムやリン、アンモニウムなどからできている「ストルバイト結石」は、ワンちゃんの尿がアルカリ性の状況下で作られます。
反対に、尿が酸性の状態になると溶けやすくなるのです。
含硫アミノ酸であるメチオニンがワンちゃんの体の中で代謝されると、硫酸(※)が発生します。
この硫酸は尿とともに排出されるため、尿が酸性に傾くのです。
この作用を利用して、尿石症の予防にメチオニンを含有したサプリメントなどが利用されることもあります。
※硫酸…イオウと水素、酸素の化学反応により作られる酸性の液体です。色も匂いもなく、肌に付着すると付いた部分を炭化させ、火傷のような状態をもたらします。
メチオニンの過剰摂取と欠乏症の症状
次に、メチオニンの過剰摂取と欠乏症について、ご説明します。
メチオニンの過剰摂取による健康被害
まずは、メチオニンには天然と合成のふたつの種類が存在するということを覚えておきましょう。
- L-メチオニン・・・天然由来の食材などから抽出されたもの
- DL-メチオニン・・・イオウとメタン、アンモニアなどを原料として、人工的に合成されたもの
このふたつのうち、自然由来のL-メチオニンには、犬において過剰摂取した場合の健康被害の情報がありません。
しかし合成物であるDL-メチオニンには、いくつかの過剰症の報告があります。
具体的症状としては、
- 貧血
- 骨の脱灰(カルシウムやリンなどのミネラルが溶け出すこと)
- 血中ホモシステイン量の増加
などが挙げられます。
三つ目のホモシステインとは、メチオニンが代謝される途中に発生するアミノ酸です。
ホモシステインが発生すると、通常は肝臓内で再びメチオニンやシステイン(皮膚や被毛を構成するアミノ酸の一種)へと変化します。
また、ホモシステインの一部は尿として体外へと排出されていきます。
いわばホモシステインとは、一時的に体内に存在するだけの成分なのです。
しかし、メチオニンの過剰摂取などが原因で代謝異常が起きたり、体内の栄養バランスが崩れると、ホモシステインがメチオニンやシステインに変わりにくくなり、血液中にそのままの状態で留まってしまうことがあるのです。
このホモシステインは、ワンちゃんの体にさまざまな悪影響を及ぼすといわれています。
特に懸念されているのは、ホモシステインの増加に伴い血中のコレステロール値が上昇し、動脈硬化や心疾患の要因となる可能性があるということです。
善玉コレステロールの割合が高いワンちゃんは、基本的には動脈硬化になりにくい動物ではありますが、注意するに越したことはありません。
ちなみに、ホモシステインをスムーズにメチオニンなどへ代謝させるには、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の適度な摂取が効果的であるとされています。
このように、合成のメチオニン(DL-メチオニン)は、過剰に摂取することでワンちゃんの健康への悪影響が確認されています。
しかし、どの程度までならDL-メチオニンを摂取しても安全なのか(=健康被害が出ないのか)という具体的な数値は判明していません。
体調に影響を及ぼすメチオニンの量は、ワンちゃんそれぞれで異なるということは覚えておいたほうがよいでしょう。
メチオニンの欠乏による影響
前述の通り、メチオニンは皮膚や被毛の主要成分であるケラチンの材料となります。
そのためメチオニンが欠乏すると、ワンちゃんの見た目に変化が現れやすくなるのです。
メチオニンの欠乏により起こりうる症状には以下のようなものがあります。
- 被毛や体の成長が遅れる
- 被毛がパサつく、ツヤがなくなる、切れやすくなる
- 脱毛
- 皮膚炎(特に鼻や口の周辺)
いずれも外観の変化であるために、内臓系の不調よりも飼い主さんが気付いてあげやすい症状ばかりです。
被毛や皮膚状態悪化の早期発見のためには、愛犬とのコミュニケーションを兼ねた定期的なグルーミングをオススメします。
メチオニンを多く含む食材
肉類や魚類には、メチオニンが豊富に含まれています。
意外なところでは、ゴマもメチオニンを多く含んだ食べ物です。
以下は、ワンちゃんが食べられる食材で、メチオニン含有量の多いものをグラフにまとめたものです。
メチオニンを多く含む七面鳥(ターキー)やウサギ肉、馬肉などは簡単に手に入る種類の肉ではないため、手作りフードに毎日使うことは難しいでしょう。
しかし市販されているドッグフードには、これらの肉類を主原料とした商品も多く存在しますのでチェックしてみてください。
魚類や肉類に比べると、豆類や穀類などの含有量はかなり見劣りがしますが、その中でもメチオニンを多く含む傾向にあるものを掲載しています。
愛犬にメチオニンを積極的に摂らせたい時に、いつものドッグフードにトッピングなどで用いることをオススメします。
ゴマにも非常に多くのメチオニンが含まれていますが、一粒が小さいために大量に摂取しなければなりません。
ワンちゃんに対しては現実的ではありませんので、ゴマに関してもフードの風味付け程度に用いたほうがよいでしょう。
メチオニンは多くのドッグフードに添加されている
メチオニンは、市販されている多くのドッグフードに添加されています。
ドッグフードにメチオニンを加えなければならないケースとは、フードの主原料が穀類などの植物性原料であり、肉類の含有量が少ない場合です。
前述の通り、メチオニンは肉類などに豊富に含まれていますので、もしもドッグフードに十分な量の肉類(魚類)が使われているのであれば、メチオニンを更に加える必要はありません。
しかし、小麦などに代表される穀類のメチオニン含有量は少ないため、穀類ベースのフードの場合には、メチオニンを添加して補わなければならないのです。
メチオニンがドッグフードの原材料名に表示される場合、「L-メチオニン」や「DL-メチオニン」と分かりやすく書いてあることもあれば、「アミノ酸(メチオニン)」としか記されていないケースもあります。
現状では、DL-メチオニンを使用しているフードが圧倒的に多いですが、愛犬の健康被害のリスクを考えると、なるべくであればL-メチオニンが使われているフードを選びたいですね。
もちろん最も望ましいのは、メチオニンを添加する必要のない、肉類がタップリと入っているフードです。
まとめ
私たち人間よりも遥かに多くの毛量を持つワンちゃんたちにとって、被毛の構成成分の材料となるメチオニンは非常に重要な栄養素です。
愛犬が健康的な生活を送る上で必須の成分であるメチオニンを補給するには、肉類や魚類をしっかりと食べさせることが一番です。
いくらワンちゃんが雑食寄りの動物であるとはいえ、穀類や野菜ばかりの食事では、メチオニンだけではなくさまざまな栄養素の不足や片寄りが生じてしまいます。
アレルギーや病気などのやむを得ない事情がない限りは、ワンちゃんに穀類主体のドッグフードを与えるメリットは少ないと考えられます。