ドッグフードの着色料「赤色104号」の用途と犬に対する安全性

ドッグフードの着色料「赤色104号(フロキシン)」

ドッグフードや犬用ジャーキーなどをキレイなピンク色に演出する着色料のひとつに、赤色104号があります。
正式にはフロキシンと呼ばれる赤色104号は、健康被害への懸念から海外ではあまり使用されていませんが、日本においては人間用の食品にも添加が許可されています。
2018年2月現在において、赤色104号の安全性に関する実験データ量は乏しく、危険性が明確になってはいません。それゆえに余計、愛犬に与えることに不安を覚える飼い主さんも多いことでしょう。
ここでは赤色104号の性質や用途、健康リスクの可能性などについてご紹介していきます。

赤色104号とは

赤色104号は自然界には存在しない着色料

赤色104号(あかいろひゃくよんごう/せきしょくひゃくよんごう)は、石油から得られるナフサという物質を原料として合成される着色料の一種です。
自然界に存在する動植物から得ることはできない、人工的な赤い色を持ちます。
日本では1948年に、食品添加物に指定されました。

赤色104号を始め、「〇色△△号」という名称の着色料は複数ありますが、これらはタール系色素という総称で呼ばれることがあります。
「タール」とは、石炭から燃料(コークス)を生成する際に得られるコールタールのことです。
コールタールは真っ黒い粘り気のある液体であり、過去には合成着色料の原料として用いられていました。
赤色104号などが「タール系色素」と呼ばれるのには、このような理由があるのです。
しかし、コールタールに発がん性があると判明してからは、ナフサが使用されるようになりました。

赤色104号は、常温下では固体(粉末状に加工されています)の状態を保ちます。ニオイが無いため、食べ物の味を邪魔せず、さまざまな食品に着色することが可能です。
加熱には強い性質を持つ赤色104号ですが、紫外線にさらされると退色しやすいという弱点もあります。

ドッグフードやジャーキーを美しいピンク色に染める

暗い赤色の粉末である赤色104号を希釈すると、ややオレンジがかった赤色やピンク色になります。
赤や緑、黄色、茶色など、さまざまな色のキブル(粒)が混じった、カラフルな犬用ドライフードやセミモイストフードを店頭で見かけたり、実際に購入されたことのある方は多いことでしょう。
こうしたフードに入っている赤色やピンク色のキブルには、赤色104号が使用されていることがあります。
また、ワンちゃんのジャーキーをキレイな薄いピンク色に染めたり、黄色の着色料と混ぜ合わせて、犬用の乾燥ササミを新鮮な生のお肉のような色に演出するためにも添加されることがあります。

「道明寺」と呼ばれる関西風の桜もち。淡いピンク色に着色したもち米で餡を包んでいます。

また人間用の食品では、上の写真のような桜もちやイチゴ大福など春をイメージした和菓子、メロンソーダの上に飾る真っ赤なサクランボ、ピンク色をした桜でんぶ(田麩)(※1)、魚肉ソーセージなどに使用されることが多いです。
さらに、歯磨き時の磨き残しをチェックするカラーテスター(歯垢染め出し剤)(※2)の鮮やかな真っ赤な色を出すためにも、赤色104号は利用されています。

ただし赤色104号は、pH(ペーハー/ピーエイチ)(※3)が酸性(pH4.5以下)の状況下においては沈殿して溶けなくなるという性質を持つ着色料です。
そのため、酸っぱい味のする酸度が高めの清涼飲料水や、キャンディーなどの菓子類に使用するには適していません。

※1 でんぶ(田麩)・・・加熱(ゆでる、蒸すなど)した魚や家畜の肉を細かくほぐし、みりんやしょう油、砂糖などで味を整えた食品です。
日本では、魚肉やエビなどの魚介類を使用したでんぶが一般的ですが、海外では豚や牛、鶏の肉などが原料となることもあります。

※2 カラーテスター(歯垢染め出し剤)・・・歯の磨き残しがないかを調べるために用いられる、赤い染色剤です。
歯磨きをした後にしばらく口に含んでから吐き出し、軽くうがいをすると、歯垢が残っている部分だけが真っ赤や濃いピンク色に染まります。
使用後の舌や唇に色が残ってしまい、落ちるまで気持ちの悪い思いをしたというご記憶のある方も多いのではないでしょうか。
カラーテスターには錠剤や液体、ペースト状など、いくつかのタイプがあります。子どもたちの歯磨き指導のために、小学校で用いられることも多い商品です。

※3 pH(ペーハー/ピーエイチ)・・・その物質が酸性であるのかアルカリ性であるのか、またその度合いを表す値です。
0~14までの数が設定されており、中性を示す数値は7です。7より数字が小さくなればなるほど、酸性度が強いと判断されます。反対に、14に近付くほど、アルカリの性質が強くなります。

赤色104号に懸念される健康リスク

遺伝子や染色体を変異させる可能性が指摘されている

赤色104号には、遺伝子や染色体※4を変異させ、健康被害を引き起こす可能性が指摘されています。

遺伝子の変異とは、何らかの刺激が加わることによって、生物を形作るさまざまな遺伝情報が含まれた遺伝子の性質が変化してしまう(=変異する)ことです。
この遺伝子変異は、先天的なものと後天的なものとに分かれます。
生まれつき遺伝子の変異があることを表す生殖細胞変異に対して、生物が産まれたあと(後天的に)に起こる変異は体細胞変異(後天的変異)と呼ばれます。

遺伝子変異によって引き起こされる病気のひとつにガンがあります。
遺伝子の中には、細胞増殖を加速させるものや、その反対に、ストップさせる役割を持つものが存在します。
これらの遺伝子が正常であれば、必要な時(ケガをした際に傷口を塞ぐなど)にだけ細胞増殖を加速させ、用が済めば増殖を停止させることが可能です。
しかし、毒性を持った物質や加齢などによって遺伝子がダメージを受けると、細胞の増殖に歯止めがきかなくなることがあります。
このようにして、がん細胞が増殖していくことが知られています。

※4 染色体・・・遺伝子を含むDNA(デオキシリボ核酸)を細胞内に収納できるように、ヒストンと呼ばれるたんぱく質に巻き付いた状態のものを指します。

これらはあくまでも、人間以外の動物や細菌に対して行われた実験によって得られたデータであり、2018年2月現在では、まだ人間に対する毒性は未知数です。
「他の動物や細菌類に対して毒性があるのであれば、人間の体に同様の影響が出てもおかしくはない」とする意見も当然存在します。
しかし、ハッキリとしたことは判明していません
それゆえ、日本では食品への使用が認められているのです。

食品への利用を禁じている国も多い

赤色104号の安全性に関しては実験データが不足しており、本当にガンや遺伝子異常を引き起こすのか、危険であるのならばどの程度摂取すると毒性が出るのか、といったことがベールに包まれています。
なぜあまり実験が行われていないのかというと、食品への使用を認めている国が少なく、安全性を検討する必要性がないからです。

上記のような健康被害のリスクが指摘されている赤色104号は、日本では認可されているものの(※5)、世界的に見れば食品へ使っている国は少数なのです。
日本以外では唯一アルゼンチンにおいて、食品の種類を限定した上で使用が認可されています。

使用されていない着色料に対する実験をすることに意味はないため、研究している機関自体が少なく、安全性に関する情報が集まらないというわけです。

データ不足であるため、 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)(※6)においても、赤色104号に対する一日摂取許容量(ADI)(※7)は設定されていません。
情報がないのですから、「設定していない」というよりも、「設定できない」といった方が正しいでしょうか。

危険性が判明しているのであれば避ければよいですし、そもそも食品に使われることが禁止されている着色料も多くあります(※8)。
しかし、 安全性が不明であるにも関わらず、市販されている商品に当然のように添加されている着色料というものは、消費者の不安をいたずらにあおる存在です。
こうした消費者心理や健康への悪影響のリスクを考慮して、日本国内においても赤色104号を使わない企業も増えてきました。

このように赤色104号は、使用を許可されている日本国内でさえ、人間用の食品への添加について警戒されている着色料です。
しかし、ワンちゃんのフード類に対しては、そこまでの配慮はなされていません。
私たち飼い主がしっかりと原材料をチェックして、愛犬に無駄な添加物を摂取させないように自己防衛するしかないのです。

※5 日本においても、赤色104号を使用してはいけない食品があります。
その種類は、しょう油に食肉、カステラ、きな粉、野菜類など多岐に渡りますが、これは赤色104号だけに定められているというわけではありません。
タール系色素の中には、赤色104号のように健康リスクが不透明なものも、比較的安全性が高いといわれるものも存在します。これらのタール系色素に対して、一律に設けられている決まりです。

※6 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)・・・食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によって設立された機関です。添加物や毒物の専門家が招集され、さまざまな毒性試験を通して得られたデータを検証、添加物の安全性の評価や一日摂取許容量(ADI)の設定などが行われています。

※7 一日摂取許容量(ADI)・・・その添加物を365日欠かさずに一生涯食べ続けたとしても、健康に害が出ないと考えられる量のことです。

※8 赤色1号がなかったり、赤色102号の次が104号だったりと、「〇色△△号」と表記される合成着色料の番号が飛び飛びとなっていることに疑問を感じたことはないでしょうか。
これは、過去には使用が認められていたものの、健康へ悪影響を及ぼすことが判明して使用禁止となった着色料の番号が欠けているからです。
例えば、赤色1号は肺がんや肺腺腫の危険性があるとして1965年に、赤色5号は肝硬変の恐れがあるため1966年にそれぞれ使用が禁止になっています。

まとめ
赤色104号の性質や用途、指摘されている健康へのリスクについてみてきました。
残念なことですが、2018年2月現在の日本において、ワンちゃんを含むペットたちの食の安全性は、まだまだ軽視されているのが現状です。
ペットフード安全法(※9)が施行されたとはいえ、ドイツやイギリス、アメリカなどの動物愛護先進国から比べると、ドッグフードの添加物への規制は厳しくありません。
私たちが安心して買い求められるフードばかりが店頭に並ぶ日は当分先でしょう。

ドッグフード類に色を付けることによるワンちゃんへのメリットは、何ひとつとしてありません。
しかも赤色104号は、遺伝子や染色体異常を引き起こすリスクがあると指摘されている添加物です。
にもかかわらず、見た目の華やかさやフードの色の均一化を目的として、ドッグフードに当たり前のように使用されています。

例えば、愛犬に毎日与える総合栄養食(※10)に、赤色104号が添加されているとします。
しかし、ワンちゃんに長期的に与えた際の毒性や、他の着色料や添加物と同時に摂取させた場合の安全性などに関するデータは出そろっていないのです。
愛犬の健康を考えるのであれば、極力、赤色104号を使用したフードやおやつは避けた方がよいでしょう。

※9 ペットフード安全法・・・日本国内で売られているペットフード(2018年2月現在においては、犬用と猫用に限られます)の添加物の使用量や表示内容の規定、規定に違反するフード類の輸入禁止、回収勧告などの効力を持った法律です。2009年6月に施行されました。
正式名称は「 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」といいます。

※10 総合栄養食・・・そのフードと水だけがあれば、ワンちゃんが生存する上で必要とする栄養素が全て摂取できるように調整されている食事のことを指します。
もちろん、指定されている給餌量(個体差による若干の増減はあります)をきちんと食べさせることが条件です。
総合栄養食とよく似た見た目をした栄養補完食も存在します。しかしこちらは特定の栄養素の補給や、嗜好性アップなどを目的としているため、全ての栄養素がバランスよく含まれているわけではありません。
栄養補完食のみを主食として与えていると、欠乏する栄養素が出てきてしまいます。購入する際には表示をしっかりと確認するようにしましょう。