ドッグフードの原材料「鮭(サーモン)」の栄養素と与える際の注意点

ドッグフードの原材料「鮭(サーモン)」

私たち日本人はが大好きです。「好きなおにぎりの具は?」と聞かれたならば、「鮭」と答える人は多いでしょう。
一方、大人にも子供にも人気のお寿司のネタは「サーモン」と呼ばれます。
「鮭」と「サーモン」は同じものだと思われがちですが、厳密には両者は同じものではありません。

英語圏では、「サーモン」はサケのことを、「トラウト」はマスのことを指すのが一般的です。
サケもマスもサケ科に属します。
日本においては鮭は「サケ」「ベニザケ」「ギンザケ」を、サーモンはマスの仲間を表すことが多いです。

しかし昔の日本人たちは、サケ科の仲間は全て「マス」と呼んでいました。
現代でも、鮭・サーモン・マスの言葉の違いを意識して使う場面は、日常生活の中ではあまりないと思われます。
鮭とサーモン(マス)は生物学上にも大きな差はありません。

したがって、これから鮭(サーモン)についてご説明していきますが、鮭とサーモンを区別せず、同じものとして解説していきたいと思います。

それでは早速、鮭(サーモン)の栄養素や、ワンちゃんに与える時に注意したいポイントなどについてみていきましょう。

鮭(サーモン)の栄養効果

鮭(サーモン)は消化吸収に優れたタンパク源として、猫用だけでなく犬用のフードにも多く使われている素材です。
鮭(サーモン)は魚類であり、鶏や牛などとは異なるタンパク組成を持つため、肉類にアレルギー反応を起こしてしまうワンちゃんでも食べられる可能性の高い食品です。
私たち人間ができるだけ避けたいと思う鮭の生臭さも、血液や皮脂、汗などの「生き物」を連想させるニオイを好むワンちゃんたちにとっては、食欲を刺激するニオイとなるでしょう。

鮭(サーモン)に含まれるアスタキサンチンは強力な抗酸化物質

鮭(サーモン)の栄養素としてまず真っ先にご紹介したいのは、アスタキサンチンです。
アスタキサンチンはカロテノイド(※1)の一種であり、本来は白身魚である鮭の身を紅色に染めている天然色素です。
アスタキサンチンはヘマトコッカスという藻類に含まれている成分で、それを食べるプランクトンを捕食する甲殻類(オキアミやカニ、エビなど)にも蓄積されます。
鮭はこれら甲殻類を食べて育つため、アスタキサンチンが体内に入り、赤身魚のような見た目になります。

カツオやマグロ(赤身魚)の身が赤いのは、筋肉に酸素を取り入れる働きを持つミオグロビンという色素の色です。
つまり、赤身魚と鮭の身の色の成分は、根本的に違うのです。

このアスタキサンチンには、強力な抗酸化作用が確認されています。
脂質を酸化から守る効果はなんとビタミンEの1000倍、有害な紫外線から体を保護する働きはビタミンEの550倍、βカロテンの40倍ともいわれています。

脂質が酸化したり、紫外線を浴びることにより、犬を始めとした生物の体内では活性酸素が作られます。
活性酸素は細胞の老化を促進させ、さまざまな病気の引き金ともなりうる厄介な物質です。
アスタキサンチンは、この活性酸素を抑制することで、ガンなどの生活習慣病からワンちゃんを守ってくれるのです。
また、アスタキサンチンには免疫力をアップさせたり、光の刺激から目を保護してくれる効果も確認されています。

さらに興味深い研究結果があります。
ワンちゃんにアスタキサンチンの錠剤を集中的に与えた実験において、

  • イキイキとした表情になり活発さが戻る
  • 毛量の増加や毛並みのツヤが回復する
  • 目やにが減って物を注意深く見るようになった
  • 便のニオイが軽減された
  • 熟睡するようになった

などという結果が出ているのです。

鮭は川で生まれ、海へと下りながら成長します。
そして産卵期になると再び川へと遡ることになるのですが、この時のエネルギー消費と強烈な太陽光により、大量の活性酸素が鮭の体内で発生していると推測されます。
それでも鮭たちは、なんとか無事に川を上り、産卵までこぎ着けなければなりません。
体をサビつかせ、数々の病気や老化の原因となる活性酸素から、産卵前の大切な体を守ってくれている栄養素がアスタキサンチンなのです。

※1 カロテノイド・・・動植物が持つ赤やオレンジ、黄色などの天然色素の総称。トマトのリコピンや、ニンジンやカボチャのβカロテンなどが有名。

鮭(サーモン)はEPA、DHA、ビタミンAも豊富に含む

体内の炎症を抑えるEPAと、脳に重要なDHAを豊富に含む

アスタキサンチンの他にも、鮭(サーモン)にはワンちゃんたちの健康にとって有益な栄養素が多く含まれています。
まずは、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)です。
魚の油に含まれる健康的な成分として有名なため、ご存じのかたも多いのではないでしょうか。

簡単にご説明すると、EPAは抗炎症作用に優れており、アレルギー症状の緩和や改善効果が期待できます。
EPAには、リノール酸という脂肪酸が体内で引き起こす炎症を抑えてくれる働きがあります。
主に植物油に含まれるリノール酸は、取りすぎると体内で炎症を起こし、アトピーやアレルギー疾患を始めとする皮膚トラブルの原因となるのです。
ドッグフードにもリノール酸は多く含まれている傾向にあるため、それを食べているワンちゃんたちに皮膚疾患が増えていると指摘する声もあります。
ドッグフードにEPAを含む鮭を使用することは、非常に理にかなっているのです。

DHA(ドコサヘキサエン酸)は、暗所で物を見る際に視力の調整をしたり、脳神経を正常に発達させる働きがあります。
不足した場合には記憶力の低下などが起こることが指摘されているため、認知機能が心配なシニア犬や、しつけ段階にある子犬にも積極的に摂らせたい成分です。
残念ながら、一部でささやかれている、「DHAの摂取で知能が上がる」といった説を裏付ける研究結果は出ていません。
とはいえ、DHAが頭脳の働きにとって重要な成分であることに変わりはありません。

被毛に潤いを与え、視力を維持するビタミンAが豊富

鮭(サーモン)は魚類のなかでは珍しく、ビタミンAを豊富に含んでいる魚でもあります。
鮭に含まれるビタミンAは、皮膚や粘膜の素となる成分です。
皮脂のバランスを取り、ワンちゃんの皮膚や被毛に適度な潤いを与えてくれる効果もあります。
ビタミンAは「目のビタミン」とも呼ばれ、不足すると暗所で物が見えにくくなったり(鳥目)、白内障になりやすくなったりもします。

鮭の皮には皮膚や骨の素となるコラーゲンが豊富

また、鮭(サーモン)の皮には、皮膚や骨などの構成成分であるコラーゲンがたっぷりと含まれています。
細胞の代謝を促したり、四肢の関節を滑らかに動かすために必要な成分ですので、トッピングやお手製フードを作る時には皮もぜひ一緒に入れてあげてください。
人間では好き嫌いがハッキリと分かれる傾向にある鮭の皮ですが、ワンちゃんは喜んで食べてくれる子が多いでしょう。

鮭(サーモン)を犬に与える際の注意点

このように、とても優秀な栄養素を持つ鮭(サーモン)ですが、ワンちゃんに与える際に注意したいポイントもいくつかあります。

ビタミンB1の吸収を阻害するチアミナーゼが含まれている

鮭(サーモン)に限らず、生の魚介類はチアミナーゼという成分を含有しています。
チアミナーゼはビタミンB1(チアミン)の吸収を邪魔する作用を持つため、生の鮭(サーモン)は、たとえ刺身用のものでも愛犬に与えるのは避けたほうがよいでしょう。

ビタミンB1(チアミン)は炭水化物やアミノ酸の代謝(※2)をサポートする役割を持ち、哺乳類が自分で合成することは不可能な栄養素です。
特にブドウ糖の代謝には必要不可欠な成分です。
ブドウ糖は脳にとって大切なエネルギー源ですので、ビタミンB1の不足は生き物にとって死活問題なのです。

ビタミンB1が不足すると、食欲低下やけいれん、体の麻痺、ヨダレが止まらなくなるなどの症状が出ます。
また、特にワンちゃんに多い症状としては心肥大が挙げられます。
手当てが遅れると昏睡状態となり死亡する可能性が高まりますので、速やかな獣医師の診察が必要となります。
チアミナーゼは熱で活性が失われるため、しっかりと火を通した鮭を与えるようにしましょう。

チアミナーゼによるビタミンB1の欠乏は、犬よりも猫の方が多いとされています。
猫は犬に比べてもともとのビタミンB1の必要量が多めであることと、生魚を食べる機会が多いことが理由です。
また、ほとんどのドッグフードにはバランス良くビタミンB1が含まれているので、毎日しっかりと食事をしていれば、ビタミンB1が不足するリスクは高くありません。
したがって、ワンちゃんに対して生の鮭を「ごくたまに少量」与える程度であれば問題が起こらないことがほとんどではありますが、やはり長期的に食べさせ続けることは避けるべきです。

※2 代謝・・・体内に取り込まれた栄養素が、複雑な化学反応によって生体に必要な成分やエネルギーに変換され、利用されること。

胃腸の激痛をもたらすアニサキス

鮭などの魚介類の内臓や筋肉へ住み着く、アニサキスという寄生虫にも注意が必要です。
鮭にはアニサキスの幼虫が寄生します。
アニサキスの幼虫は全長2~3センチ程度で、やや透き通った白っぽい糸のような姿をしています。
芸能人が刺身を食べてアニサキス中毒になったというニュースが頻繁に流れているので、ご存じのかたも多いのではないでしょうか。

このアニサキスが生きたままワンちゃんの体内に入ると、胃や腸の壁に食い付いて激痛が走ったり、嘔吐などの症状が出ることがあります。
犬の持つ胃酸は殺菌力に優れていますが、アニサキスまでは殺すことはできません。
「犬は胃腸が強そうだし大丈夫だろう」と、加熱専用の鮭を生のままで与えたりすることは絶対にしないようにしましょう。
加熱なしでも食べられる刺身用のサーモンにもアニサキスが潜んでいるケースもありますので油断は禁物です。

スーパーなどで売られている鮭(サーモン)からアニサキスを発見したことのある方もいるのではないでしょうか。
しかし、その際のアニサキスは死んでいることがほとんどです。
これは、日本に輸入されるまでの流通段階で一度冷凍されていることが多いためです。
アニサキスは60度以上の温度で1分以上加熱するか、マイナス20度以下の環境で1日以上凍らせることにより死滅させることが可能なのです。
やはり、ワンちゃんに鮭(サーモン)を与える際には、加熱したものを与えるようにしましょう。

ネオリケッチア属の微生物によるサケ中毒

アニサキスよりは知名度が低いですが、愛犬に鮭を与えたい時に注意したいもう一つの生物が、ネオリケッチア属というグループに分類される微生物たちです。
ネオリケッチア属とは一般的な細菌よりも小さなサイズの微生物であり、「ヘルミンテカ」「エロコミン」「SF agent」という3タイプに分けられます。

ヘルミンテカ(サケ中毒吸虫とも呼ばれます)に感染した鮭をワンちゃんが食べた場合、6~10日間程の潜伏期間を経て、40度以上の発熱や下痢、脱水症状、血便などの症状が出始めます。
この一連の病態は「サケ中毒」と呼ばれています。
対応が遅れると、発症後2週間以内に約9割のワンちゃんが亡くなるという大変恐ろしい微生物です。
人間や猫などにも感染しますが、イヌ科(コヨーテやキツネなども含む)の動物以外は軽い症状が出て終わることが一般的です。

ヘルミンテカと比べてエロコミンはワンちゃんに対する影響が少ない種類の微生物です。
リンパ節の腫れや胃腸の不具合が起こる程度で治ってしまうケースがほとんどでしょう。
しかし、適切な治療を受けなかった場合には、10%以下と確率は低いものの、死亡する例もありますので注意が必要です。

散々脅すようなことを並べてしまいましたが、ヘルミンテカとエロコミンはアメリカの一部地域にしか育たない貝類が媒介するため、発生も局地的です。
日本で確認されたケースは2017年9月現在ではゼロ件のため、日本で暮らしている限りはあまり不安になる必要はないでしょう。

しかし、SF agenttに限っては、日本を始め、中国、タイ、フィリピン、ハワイ、オーストラリアなど広い地域で確認されています
SF agentは、2016年にアメリカのオレゴン州立大学にて、ネオリケッチア属の新種であると正式に断定された微生物です。
犬がSF agentに感染してもほとんど症状が出ないか、軽い腹痛や発熱が起こる程度であることが特徴で、薬物治療で完治が可能です。
そのためあまり危険視されておらず、まだ正式な名前も付けられてはいません。
しかし、3種類のネオリケッチア属の微生物のうち、唯一日本でも感染する可能性のある種のため、警戒するに越したことはないでしょう。

サケ中毒が回復したあとにはワンちゃんに免疫ができますが、実際に感染した種に対してのみ効果を発揮する免疫となります。
仮に、SF agent用の免疫ができたとしても、ヘルミンテカとエロコミンに対して抵抗力があるわけではないということは覚えておいたほうがよいでしょう。

いずれの種類のネオリケッチア属も、加熱が不充分であったり生の状態の鮭を食べた際に感染します。
釣りに出かけて捕ってきた鮭を、「新鮮だから」と生のまま愛犬に与えたりすることも危険ですので注意しましょう。

鮭(サーモン)の加工食品や骨は危険

ワンちゃんと骨といえば、イラストなどでもセットで描かれることがあるほど定番の組み合わせです。
しかし、鮭の骨は食道や胃腸に刺さる危険性もありますので、愛犬には取り除いてから与えるようにしましょう。
骨を飲み込んでしまっても、自然と排出されることも多いと思われますが、下痢や嘔吐などに発展することもあります。

また、鮭を購入してドッグフードを手作りする際には、「生鮭」と表示のあるものを選ぶことが大切です。
「塩鮭」はその名の通り塩が使われており、愛犬が塩分過多となる可能性があります。
鮭を使った人間用の味付け缶詰や鮭フレークなどは、手軽に利用できる便利な商品です。
しかしこれらも塩分が強すぎるために、ワンちゃんにとって適した食品ではありません。

東北地方や北海道でおつまみとして人気の鮭のジャーキー「鮭とば(鮭冬葉)」を、犬にも食べさせたいと考える飼い主さんも多いですが、鮭フレークなどと同様の理由から、与えてはいけないおやつです。
鮭とばは、半身に切った皮付きの鮭を塩辛い海水でじっくりと洗い、これまた塩分を多く含んだ海風によって乾燥させて作られます。
この作り方を知ると、たとえ鮭とばを一度も食べたことがなくても、相当塩辛い味がするのではないかと想像できるのではないでしょうか。
塩を一切使わずに作られた、犬でも食べられる鮭とばも売られています。
どうしても鮭とばをワンちゃんにあげたい場合には、そうした商品を利用されることをオススメします。

まとめ
愛犬の体にとって嬉しい効果を持つ栄養素がたっぷりと含まれた鮭(サーモン)ですが、生食におけるリスクも高い食品です。
ドッグフードに加工されている場合は心配ありませんが、生の鮭(サーモン)を利用する際には、しっかりと加熱してからワンちゃんに与えるということだけは忘れないようにしましょう。

ワンちゃんには肉類ベースのフードを与えているご家庭が大多数かと思います。
しかし、アレルギー防止や様々な栄養素をバランス良く愛犬に摂取させるという意味でも、フードローテーション(※3)の中に鮭(サーモン)を使った食事を取り入れてみてはいかがでしょうか。

※3 フードローテーション・・・1種類のフードをずっと与え続けるのではなく、数種類のフードを交代で食べさせること。メインのタンパク源を固定しないことでアレルギーが発症するのを防いだり、色々な栄養素を偏りなく犬に与えることが目的とされる。グルメな犬に対しては、同じ味に飽きてしまうことを防止する効果もある。フードの交代頻度は飼い主さんの考え方によるところが大きいが、数ヶ月に1回程度が一般的である。