ドッグフードの栄養素「タウリン」
タウリンという栄養素をご存じでしょうか。
「タウリン含有」という宣伝文句で売られている人間用の栄養ドリンクも多いことから、具体的にどのような成分かまでは知らなくても、「何やら健康に良さそう」というイメージを持っている人も多いことと思います。
タウリンは、私たち人間だけではなくワンちゃんたちの健康維持にとっても、多くの働きをしてくれる大切な栄養素なのです。
体内の合成量だけでは不足しがちなタウリン
タウリンは、1827年にドイツで牛の胆汁から発見された含硫アミノ酸の一種です。
含硫アミノ酸とはイオウを含んだアミノ酸のことを指します。
ラテン語で雄牛を表す「Bos Taurus」から、「タウリン」と名付けられました。
タウリンは私たち人間やワンちゃんを含む、ほぼ全ての動物の体内に存在することが確認されています。
特に、脳や筋肉、心臓、肝臓、網膜などに高濃度で含まれ、母乳や血漿などの体液にも含有されています。
ワンちゃんも人間も、メチオニン(※1)とシステイン(※2)というアミノ酸を用いて、肝臓でタウリンを合成することが可能です。
しかし、体内での合成量だけではタウリン不足が生じる可能性があるため、食べ物からも補う必要があります。
そのため、多くのドッグフードにはタウリンが添加されているのです。
※1 メチオニン・・・ワンちゃんの体内で合成することができないため、食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」の一種です。メチオニンは、老廃物を処理する肝臓の働きをサポートする作用を持ちます。また、アレルギー症状のもととなるヒスタミン抑制の効果もあります。牛肉や鶏肉、魚肉、インゲン豆などに多く含まれます。
※2 システイン・・・非必須アミノ酸です。ワンちゃんの被毛や皮膚に多く存在し、これらの生まれ変わりを助けます。鶏卵やブロッコリー、芽キャベツ、トウモロコシなどに含有されている栄養素です。
タウリンが犬に与える健康効果
タウリンには、さまざまな外的刺激により引き起こされる、健康にとって望ましくない体の変化を防ぎ、正常な状態を維持する働きがあります。
このことを恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。
寒い場所でも体温が下がりすぎることなく保たれるのは、この恒常性の働きのおかげです。
タウリンは血圧の上がりすぎや下がりすぎを防いだり、体内の水分量を調節する作用も持ちます。
また、タウリンにはインスリンの分泌を促す作用があり、血糖値の上昇を防いでくれる効果もあります。
強力な抗酸化力もあり、ビタミンCやビタミンEと協力して、ワンちゃんの体内の活性酸素を除去してくれる作用まであるのです。
そのほかにもタウリンは、ワンちゃんの健康維持に重要な役割を多く持ちます。
具体的には、
- 肝機能を高める
- コレステロールを抑制する
- 心筋梗塞や不整脈を防ぐ
- 聴力や視力を正常に保つ
- 白内障を予防する
- 体の疲れを軽減する
などの働きが挙げられます。
また、人間や猫の場合、てんかんの持病のある患者にタウリンを摂取させることにより発作が緩和されたという事例が多数確認され、論文としても発表されています。
犬にも効果があるのかについては、まだハッキリとしたことはわかってはいませんが、てんかんを持つワンちゃんにタウリン摂取を勧めている動物病院もあるようです。
これだけ色々な健康効果があるのだから、タウリンは動物が生きるために必要不可欠な成分なのだろうと思われがちなのですが、2017年現在においてはそうともいえないようなのです。
現段階で、専門家の間でのタウリンの位置づけは、「生体内にタウリンが存在しなければ不自由ではあるが、無くても生きていくことは可能である」栄養素だとされています。(ただし猫にとってのみ、生命維持上欠かすことのできない成分です)
タウリン含有量の多い動物性食品
タウリンは植物性の食べ物にはほとんど含まれていません。
ワンちゃんの体にタウリンを取り入れるためには、動物性の食品を摂らせる必要があります。
タウリンを多く含む食品として有名なものは、タコやイカ、牡蠣、サザエなどが挙げられます。
しかしこれらは、ワンちゃんにとっては消化しにくく、避けたほうがよい食べ物です。
ワンちゃんが食べられる物の中でタウリン含有量が多い食品には、
- 魚類…サーモン、マグロ、カツオ(特に血合い肉の部分が望ましいです)
- 肉類…牛肉、鶏モモ肉、ラム肉
などがあります。
各食品のタウリン含有量をグラフにまとめましたので、参考になさってください。
タウリンは水溶性の栄養素なので、食材を煮る時にお湯に溶け出してしまいます。
煮汁は捨てずにワンちゃんに与えるようにしましょう。
またタウリンは天然のものと、人工的に化学合成されたものに分かれます。
日本では、合成されたタウリンは医薬品や医薬部外品においてのみ使用可能となっています。
そのため、サプリメントなどに含まれているタウリンは自然由来のものであると判断できます。
天然のものは、自然界に存在する生き物から抽出されたタウリンです。
対して人工的なタウリンは、重油を原料としたエチレンから合成されています。
この合成タウリンには、生成する過程で除去し切れなかった微量の不純物が含まれている可能性があります。
人間のケースですが、合成タウリンを摂取した際には嘔吐や下痢、便秘を引き起こすリスクがあると厚生労働省によって確認されています。
このことから、過剰なタウリンはワンちゃんの体にも、人と同様の悪影響を与えるのではないかとも考えられているのです。
あくまでも可能性の話ですので、絶対に健康被害が出るというものではありませんが、念のために覚えておいた方がよさそうです。
タウリンの欠乏と過剰について
次に、タウリンの欠乏と過剰摂取についてご説明します。
まずは欠乏症についてですが、ワンちゃんにタウリン配合の市販のドッグフードを与えている場合には、不足する心配はあまりないでしょう。
しかし、穀類や野菜主体の手作りフードを与えている場合などには注意が必要です。
犬は完全な肉食ではありませんが、肉類を多く必要とする動物です。
肉類にはタンパク質やミネラル、必須アミノ酸など、タウリン以外にもワンちゃんの体に必要な多くの栄養素が含まれています。
アレルギーなどがない限りは、肉類(または魚)をしっかりと食べさせることは、愛犬の健康にとって非常に大切です。
また、脂質を多く含んだ食事を与えていたところ、犬の体内のタウリン量が大幅に減ってしまったという実験結果も報告されています。
なぜこうした現象が起きたのかが分かる、マウスを用いた興味深い実験データがあります。
その実験により、タウリンは肝臓だけではなく、脂肪細胞においても作られているという事実が判明しました。
高脂肪食を与え続けると、脂肪細胞内に多くの脂肪が蓄積されていきます。
その結果、脂肪細胞のタウリン合成能力が阻害され、体内のタウリン量が減少するのではないかと考えられているのです。
ワンちゃんにとって脂質は大切なエネルギー源ではありますが、摂り過ぎにならないように気を配ってあげましょう。
規定量通りのごはんを食べさせたうえにおやつなどを与えていると、知らず知らずのうちに脂肪分過多となっている可能性もあります。
また人間用の食べ物も、犬にとっては多くの脂肪分が含まれていることもありますので、自分の食べ物を愛犬におすそ分けすることも控えましょう。
タウリンの不足が長期間続いた場合に懸念される犬の健康被害には、
- 拡張型心筋症
- 白内障
- 免疫機能がうまく働かなくなる
- 先天性の異常を持った子犬が産まれやすくなる
- 成長が遅くなる(子犬)
- 出生率が下がる
などがあります。
タウリン欠乏による心疾患は、犬種によって発生確率が異なるともいわれています。
タウリン不足を最も警戒しなければならない犬種には、ゴールデン・レトリーバーとアメリカン・コッカー・スパニエルが挙げられます。
また、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルとアイリッシュ・ウルフハウンドも、先の2犬種ほどではないにしろ、注意が必要です。
特定の犬種に限らず、シニア犬、病気中の犬、妊娠・授乳中の雌犬、成長期の子犬、肥満犬、ハードな運動をする犬などにはタウリンを積極的に摂らせるようにしましょう。
タウリンが不足している犬に対しては、1日2回、500mgから1000mgものタウリンを摂取させる必要性があるといわれています。
ここでタウリンの与え過ぎを心配される飼い主さんも多いことと思いますが、過剰に摂取したタウリンは尿とともにワンちゃんの体外へと排出されます。
したがって、タウリン過剰による健康被害の心配はないと考えられています。
しかし前述の通り、合成タウリンに関しては、残存する不純物による人間への悪影響が確認されています。
ワンちゃんへのリスクはまだハッキリとはしていませんが、与える量に限らず、合成タウリンの投与は慎重に行ったほうがよいでしょう。
まとめ
犬の体にさまざまな好影響を及ぼすタウリンは、生命維持に必須の成分ではないかもしれませんが、非常に重要な栄養素であるということは間違いありません。
質の良い総合栄養食を与えたり、手作りフードの場合には意識的に肉や魚を多めに使うなどしながらタウリン不足を補い、愛犬の健康を守ってあげましょう。