ドッグフードの保証成分「粗タンパク質」
タンパク質は、ワンちゃんの体を作りエネルギー源ともなる、大切な栄養素のひとつです。
このタンパク質を始め、保証成分値としてフード含有率を表示することを義務付けられている栄養素には5種類あります。
該当する成分は、タンパク質、脂肪、灰分(ミネラル)、繊維、水分です。
水分を除いた4種類の栄養素は一般的に、「粗タンパク質・・・22%」のように、「粗」という漢字を用いて表されます。
この「粗」にはどのような意味があるのか、また、タンパク質の働きや「良質なタンパク質」の条件などについてみていきたいと思います。
保証成分の表示方法
「粗タンパク質」は、タンパク質以外の成分も含まれているという意味
ドッグフードのパッケージには、フード中にタンパク質がどの程度の割合で含まれているかという情報が必ず記載されています(保証成分値)。
その際には、「タンパク質」の頭に「粗」を付けた「粗タンパク質(そたんぱくしつ)」という表現が用いられることが一般的です。
「粗い」、「粗末」、「粗悪品」など、「粗」という漢字には悪いイメージが付きまといます。
しかし「粗タンパク質」は、「タンパク質の質が悪い」という意味でも、「タンパク質の量が少ない」という意味でもありません。
フードに含まれるタンパク質の割合を求める際には、除去しきれないタンパク質以外の物質も一緒に測定されます。
そのため、
「大雑把にいうと、タンパク質の含有量はだいたいこの程度ですよ(=純粋なタンパク質のみの値ではありませんよ)」
ということを表すために、「粗」という文字が使われているのです。
もう少し詳しくご説明します。
ドッグフードにどの程度のタンパク質が含有されているかを調べる方法には、2種類あります。
「ケルダール法」と、「燃焼法」とも呼ばれる「デュマ法」です。
どちらの方法も、フード中のタンパク質を窒素(タンパク質は窒素から構成されています)として取り出し、その量をもとにタンパク質含有割合を求めることに変わりはありません。
異なるのは、窒素の抽出方法です。
ケルダール法は、濃硫酸を使って加熱分解をしたフードから、アンモニウムイオンとなった窒素を取り出します。
この方法は、強いアルカリ性や酸性を帯びた、人体に有害な薬品を使用しなければなりません。
そのため、安全管理の行き届いた施設や、作業に当たる人員の徹底的な教育が必要となります。
もうひとつのデュマ法(燃焼法)は、危険な試薬は必要とせず、ドッグフードを高温(870℃)で燃やして出てくる窒素ガスを集めます。
それぞれの方法で回収した窒素の量を測り、窒素換算係数である6.25(※1)を掛け算して求めた値が、フード中のタンパク質の量となるのです。
しかし、この中には、アンモニウム(※2)やアミン類(※3)といった、タンパク質以外の物質も混ざっています。
したがって、これらの方法によって求められた値は、純粋なタンパク質のみの数値ではないのです。
※1 タンパク質の中には、平均して窒素が16%前後含まれています。したがって、100÷16で求めた6.25という逆数を、取り出した窒素に掛けてあげることによって、タンパク質の値が求められるのです。
しかし、タンパク質の種類ごとに、含まれている窒素量には差があります。例えば、動物の乳をメインとしたフードに含まれるタンパク質量を測定する場合には、6.25ではなく、6.38という係数が使用されるケースもあります。
※2 アンモニウム・・・生体内でタンパク質が代謝された際に生じる老廃物の一種であり、毒性を持ちます。
※3 アミン類・・・体内においては、神経伝達物質や各種ホルモン(アドレナリン、ドーパミンなど)の形を取って存在している、アンモニア系の化合物です。
アミン類には色々な種類があり、その中の一部は、生体が腐敗・醗酵する際にも生じ、悪臭の元にもなります。
タンパク質含有率は「以上」で表される
粗タンパク質の含有割合は、「粗タンパク質・・・25%以上」などのように、「以上」という言葉で表現されます。
この言葉は、「このフードには、粗タンパク質が25%以上含まれていることを保証しますよ」という意味合いを持ちます。
保証成分として記載が義務付けられている5種類の成分のうち、含有率が「以上」で表される成分は、粗タンパク質と粗脂肪です。
これらふたつは、ワンちゃんの体の構成要素やエネルギー源となる栄養素であり、いわば生命活動の基本となる栄養素です。
当然、ワンちゃんの体格や活動量に適した量をしっかりと摂取しなければ、体を維持することができません。
そのため、含有量の最低値を示すことによって、
「最低でも、この値よりは多くのタンパク質(脂肪)が含有されている」
ということを保証し、フード選びの参考にできるようにしているのです。
反対に、残りの粗灰分(ミネラルのことです)と粗繊維、水分の含有率は「以下」で表示されています。
これらは、量が多すぎるとお互いの吸収を邪魔し合ったり、フード中の栄養価が低くなりすぎるといったリスクを持つ成分です(※4)。
例えばカルシウムや銅が食品中に多く存在すると、亜鉛の吸収率を低下させますし、抗酸化力を持つミネラルの一種「セレン」の毒性は強く、要求量以上の摂取には注意が必要です。
多すぎる食物繊維も、さまざまな栄養素の吸収を阻害します。
また、フード中に水分が多いと、その分、他の栄養素の含有量が少なくなります。
ウエットフードはドライフードに比べて水分がタップリと含まれており、カロリーが低めですが、これは言い換えると、1日に必要な栄養素を補うためには、たくさんの量を食べなければならないということです。
このように、ミネラルや繊維、水分は、多く配合されていればよいというものではありません。
そのため各メーカーでは、これらの成分の最大値を掲載し、「これ以上の量は含有していません」ということを保証しているのです。
※4 ただし、タンパク質や脂肪も、過剰摂取による害が全く無いわけではありません。例えば、タンパク質も脂肪も大量に摂取すると、マグネシウムの吸収を邪魔しますし、脂肪の摂り過ぎが肥満の原因となることは有名です。
保証成分の表示義務は、日本独自の決まりではありません。
海外で作られたドッグフードにも、同様の成分表示の欄が設けられています。
英語圏の表示では、「粗タンパク質」は「crude protein」などと表示されています。「ありのまま」を意味する「crude」が、「粗」に該当する言葉です。
また、「以上」は「max.」、「以下」は「min.」と記述されています。
犬に必要なタンパク質量は年齢や体調によって異なる
一般的には、健康な成犬の体を維持するためには、ドッグフード中に18~30%程度のタンパク質が含まれている必要があるといわれています。
個体差もありますが、ワンちゃんは、あまりにもタンパク質量の多い食事は好まない動物です(一方、完全な肉食性を持つ猫ちゃんたちは、高タンパク質のフードを好みます)。
また、シニア犬になると、腎臓病などの疾患にかかりやすくなるため、臓器に負担をかけないように、若い頃よりもタンパク質を控えた食事が推奨されます(ドッグフード内のタンパク質含有率が15~23%程度)。
しかし、犬の加齢にともなう消化能力の低下によって、栄養素の吸収性が悪くなる可能性もあり、その際には、タンパク質がたっぷりと入った食事を摂った方がよい場合もあります。
「3-2.「アミノ酸スコアが100」=「質の良いタンパク質」」にて後述しますが、腎臓病・肝臓病など、若くてもタンパク質を控えなければならないワンちゃんもいることでしょう。
このように、ワンちゃんの必要とするタンパク質量は、一生涯を通じて一定ではありません。
フードパッケージに表示されている適正量を与えていても、タンパク質が不足してしまったり、反対に過剰摂取となってしまう可能性もあります。
その場合には、愛犬の体調や体重をチェックしながら、その子に最適な給餌量を見つけてあげることが必要です。場合によっては、フードの変更を検討した方がよいケースもあるでしょう。
タンパク質とアミノ酸スコア
アミノ酸が結合した物質がタンパク質
タンパク質は、ワンちゃんの肉や血管、各種臓器、皮膚から、血中成分、酵素、ホルモン、免疫物質、情報伝達物質、遺伝子などに姿を変え、体そのものを維持しています。
体を構成しているタンパク質は、古いものは分解されて体外へと排泄され、常に生まれ変わりを繰り返しています。
そのため、毎日しっかりとタンパク質を補給させ、体内でいつでも利用できるようにしておくことが大切なのです。
また、1g当たり9kcalという多くの熱量を持つ脂質には及びませんが、タンパク質は、エネルギー源としての役割も持っています。
タンパク質のエネルギー量は、1g当たり4kcalです。
そもそもタンパク質とは、いくつものアミノ酸が結合することで構成された物質です。
タンパク質を形作っているアミノ酸は、メチオニンやトリプトファン、リジンなどわずか20種類ですが、自然界には500種類を超えるアミノ酸が存在することが分かっています。
タンパク質を構成するアミノ酸の中で、体内では作ることが不可能(もしくは、少量しか合成できない)なため、食品などからの摂取が不可欠なアミノ酸のことを必須アミノ酸と呼びます。
一方、 体内で合成することができるアミノ酸は、非必須アミノ酸です。
「非必須」という言葉は、「必要のない栄養素」であるかのような印象を受けますが、あくまでも「食品からの摂取は必ずしも必要ではない」という意味に過ぎません。
必須アミノ酸と同様に、非必須アミノ酸も、ワンちゃんの体の維持に欠かすことのできない成分です。
食べ物として摂取されたタンパク質は、タンパク質分解酵素の働きによって、一度アミノ酸の単位にまで、バラバラに分解されます。
分解されたアミノ酸は、再びワンちゃんの体に適したタンパク質へと作り変えられて利用されるのです。
このタンパク質の再合成が行われるためには、各種のアミノ酸が過不足なく揃っていることが条件です。
いくらタンパク質だけを大量に摂取しても、アミノ酸の含有量が少ない、または含有量に偏りがあるといった状態では、体内でタンパク質が十分に合成できません。
例えば、ある食品のアミノ酸のうち、1種類のアミノ酸の含有量が「10」と少なく、その他の全てのアミノ酸は「100」含まれているとしましょう。
「1種類少ない程度であれば、他のアミノ酸でカバーできるのではないか?」、と考える方も多いことと思いますが、この場合、すべてのアミノ酸が10しか含まれていないのと同じことになってしまうのです。
その結果、十分な量のタンパク質を作ることができなくなります。
また、システインやメチオニンなど一部のアミノ酸は、過剰に摂取することで体に害を及ぼすリスクも指摘されています。
「アミノ酸スコアが100」=「質の良いタンパク質」
アミノ酸の含有量やバランスは、タンパク質の種類によって差があります。
タンパク質に含有されるアミノ酸のバランスを表した指標が、アミノ酸スコアです。
アミノ酸スコアの最大値は100であり、数値が高ければ高いほど、アミノ酸が過不足なく含まれている「質の良いタンパク質」であると判断されます。
アミノ酸スコアが100の食材には、
- 卵
- 鶏肉、豚肉、牛肉、馬肉などの肉類
- 鶏レバー、豚レバー
- 魚肉
- 牛乳
- 大豆
などが挙げられます。
大豆などの例外を除けば、バランスの良いアミノ酸を含む食品は主に動物性食品です。
肉類や魚に比べると、植物性食品のアミノ酸スコアは全体的に低めの傾向があります。
参考までに、ドッグフードによく使用される他の食品のアミノ酸スコアを少しご紹介します。
食材名 | アミノ酸スコア |
---|---|
プロセスチーズ | 91 |
ジャガイモ | 68 |
玄米 | 68 |
カボチャ | 68 |
精白米 | 65 |
ニンジン | 55 |
小麦粉(薄力粉) | 44 |
トウモロコシ | 32 |
質の良さからみても、消化吸収のしやすさからみても、肉食寄りの雑食性を持つワンちゃんの体に最も適したタンパク質は、肉や魚といった動物性タンパク質です。
前述の通り、トウモロコシや玄米といった穀物類のアミノ酸スコアは低く、タンパク質の要求量の高いワンちゃんにとって最適な食材ではありません。
いくら植物性の原料を使ってタンパク質を補っても、それをどれだけ体内で消化し利用できるかは、ワンちゃんの体質によって差が出てしまいます。
ある実験では、成長期にトウモロコシをメインとした低タンパク質のフードを食べて育ったワンちゃんの性格は、神経質になる可能性が高いという結果が出ています。
ワンちゃんの心の正常な発達のためにも、タンパク質の種類や量は大切です。
ドッグフードには、タンパク質源として動物性食品も植物性食品も使用されています。
しかし、粗タンパク質の値は、動物性タンパクと植物性タンパク質を合わせた割合です。
仮にタンパク質源が100%植物由来の食品であったとしても、保証成分を見るだけでは判断がつきません。
タンパク質源として何の食材が使用されているのかは、原材料欄をチェックしましょう。
ドッグフードの原材料欄には、含有量の多い素材から順番に記載されています。
ワンちゃんの体のことを考えれば、原材料欄の1番目と2番目はもちろんのこと、できれば3番目当たりまでは、肉類や魚肉の名称が占めているものを選びたいものです。
もちろん、動物性食品にアレルギーのあるワンちゃんや、腎臓疾患などでタンパク質を控えなくてはならないワンちゃんなどの場合は、この限りではありません。
食品アレルギーを持つワンちゃん向けには、タンパク質を加水分解してペプチドやアミノ酸の状態にした「タンパク加水分解物」を用いたフードが出ています。
ペプチドとは、アミノ酸がいくつか結合した状態の物質です。この点はタンパク質と同様ですが、タンパク質よりも分子が細かいという特徴があります。
極力アミノ酸の数を減らしたペプチドはアレルギーを起こしにくいと考えられており、食品アレルギーを持つワンちゃん用の療法食に利用されています。
また、タンパク質が分解される際には、体に有害なアンモニアが発生します。
アンモニアは肝臓で解毒されますが、肝臓が悪いワンちゃんにとっては大きな負担です。
ペプチドはタンパク質があらかじめ分解されているため、体内でのアンモニアの発生が抑えられます。
そのため、ペプチドは、肝臓ケア用のフードに使われることもあるのです。
重篤な腎臓病を患うワンちゃんには、タンパク質量の少ない療法食も販売されています。
タンパク質が体内で利用される時には、尿素窒素などの老廃物が産生されます。
この老廃物を処理できる器官は腎臓です。
腎臓を極力労わるために、重い腎臓病のワンちゃんには、低タンパク食が推奨されているのです。
まとめ
人間よりも活発に動き回るワンちゃんたちにとって、非常に需要な栄養素であるタンパク質ですが、ワンちゃんの年齢や健康状況などによって必要量は異なります。
「愛犬に適したフードはどれだろう?」と悩んだ時に参考となる数値が、成分保証値です。
成分保証値には、そのドッグフードの全てが表現されているわけではありませんが、フード選びの際に大まかな目安として利用することはできます。
成分保証値と原材料欄を合わせてチェックすることで、ワンちゃんの状態に合ったフードが見つけやすくなることでしょう。