ドッグフードの甘味料「ソルビトール」
ソルビトールは甘み付けや保湿などを目的として、多くの食品に利用されている甘味料です。
また湿潤剤として、化粧品や歯磨きペーストなどに添加されることもあります。
ドッグフードやワンちゃん用のおやつだけではなく、人間の食べるカマボコやちくわなどの練り製品、おつまみに人気のスルメイカ、生めん、ガム、キャンディ、漬物や佃煮など、使われている食品を挙げればきりがありません。
ワンちゃんや私たちの食品に、さっぱりした甘さとしっとりとした食感を与えてくれるソルビトールですが、どのような性質を持った物質なのでしょうか。
ソルビトールは自然界にも存在する甘味料
ソルビトールとは、ナナカマド(バラ科ナナカマド属)が実らせる果実から発見された甘味料です。
「ソルビトール」という呼び名も、ナナカマドの学名「Sorbus Aucuparia」がもととなっています。
日本では北陸地方から北海道にかけて、多くのナナカマドの木を見ることができます。
ナナカマドは夏には白い花を咲かせ、秋になるとたくさんの小さな赤い実をつけます。
実った果実は野鳥たちの食料となるほか、人間用のジャムなどにも用いられています。
ソルビトールはナナカマド以外にも、リンゴや梨、桃、プルーンといった果物類や、昆布などの海藻類に幅広く含まれている成分です。
「蜜入り」と呼ばれる甘く熟したリンゴの蜜の正体もソルビトールなのです。
ソルビトールがこれらの天然物から抽出され、甘味料として利用され始めたのは1930年頃からですが、2017年現在では化学的に合成されたものを利用することが一般的となっています。
ソルビトールは、トウモロコシやジャガイモから抽出されたデンプンを原料としたブドウ糖を、化学的に合成して作られます。
そのため、もとは自然由来の甘味料ではありますが、人工甘味料に分類されているのです。
「ソルビット」や「グルシトール」と表記されることもありますが、どちらもソルビトールと同じものです。
ソルビトールを添加するメリットと使用例
- ソルビトールの甘味は砂糖の6割
- ソルビトールは砂糖よりもヘルシーで太りにくいという触れ込みで、砂糖の代わりに使用されていることの多い甘味料です。
しかし、ソルビトールの持つ甘味は砂糖の60%程度、カロリーはやや控えめの75%程度です。
砂糖に比べて甘味は少ないですが、カロリーにおいてはそれほどの差はありません。
そのため、砂糖と同等の甘味をソルビトールだけで賄おうとすると、多くの量を使用しなければならず、結果的にカロリーも上がってしまいます。
したがって、ダイエット向きの甘味料としての効果はあまり期待できないと考えられています。 - 水分保持力に優れる
- ソルビトールは、砂糖や水あめよりも多くの水分を抱え込むことができるという特徴を持ちます。
そのため、食品のしっとりとした状態を長く保つことが可能となります。
半生ドッグフードや犬用ジャーキーなど、しっとりとした食感が売りの商品には非常に適した甘味料なのです。
この保湿効果のために、人間用の化粧水などの各種スキンケアアイテムにも多く利用されています。
またソルビトールには、唾液に溶ける際にスーッとした清涼感をもたらす作用もあるため、ガムやアメなどに添加されていることも多いのです。 - 食品の保存性を高める
- またソルビトールには、微生物の繁殖を抑えたり、タンパク質を安定させる作用もあるため、フード類の保存性を高めることもできます。
ソルビトールの分子は細かく、食物の組織の中に容易に入っていくことができるので、味をしっかりと染み込ませたい漬物や煮物などにも利用されています。 - 虫歯の原因となりにくい
- ソルビトールは、虫歯の原因となる酸を作り出すミュータンス菌などの口内細菌のエサにもなりにくいため、虫歯が発生しにくいという特性もあります。
しかしこれは、私たち人間にとってはありがたい話ですが、ワンちゃんたちへのメリットはあまりありません。
ワンちゃんはもともとアルカリ性の唾液を持ち、口の中が酸性になりにくい(=虫歯になりにくい)からです(しかし、歯周病にはかかりやすい動物ですので、毎日のオーラルケアは怠らないようにしましょう)。
ソルビトールの危険性
ソルビトールの大量摂取は下痢を起こす可能性がある
WHO(世界保健機構)などでは、ソルビトールは極めて毒性が低く、頻繁に摂取しても健康上の影響がみられないとされており、一日当たりの摂取量の上限なども定められてはいません。
ラットを用いた実験においても、4世代に渡って発ガン性は認められなかったというデータが出ています。
このように、安全性は高いとされているソルビトールですが、注意したいポイントもあります。
それは、大量に摂取した場合に、腹痛や下痢を起こす可能性があるということです。
ソルビトールは小腸において消化されにくいという特性を持っています。
このため血糖値が上がりにくく、インスリン(※)の分泌を刺激することも少ないという利点もあります。
しかし、消化吸収されずに残ってしまったソルビトールは、大腸の中で多くの水分を引き付けてしまいます。
すると大腸内の水分量が上昇し便がゆるくなるために、腹痛や下痢といった症状が出てしまうのです。
ただしこれは、ソルビトールを過剰摂取したケースにおいての話となりますので、ドッグフードや犬用おやつを規定量食べさせている分には心配は少ないでしょう。
しかしワンちゃんの体質や体調によっては、少量のソルビトールでも症状を起こす可能性もゼロとは言い切れません。
常に愛犬の体調変化には気を配っておくほうがよいでしょう。
この下痢を起こす作用を逆手に取り、ソルビトールは人間用の下剤や浣腸剤などにも応用されています。
胃のエックス線検査時に飲むバリウムは、高い確率で便秘をもたらします。
これを解消するために、ソルビトールを用いた下剤が処方されることはよく知られています。
インスリン…膵臓のランゲルハンス島という組織を構成するβ細胞から分泌されるホルモンです。血糖値を下げる働きを持ちます。
遺伝子組み換え原料についての懸念
前述の通り、合成されるソルビトールの原料はトウモロコシやジャガイモです。
これらが遺伝子組み換えされたものなのか、そうでないのかが不明であることが問題となっています。
日本においては、遺伝子組み換えをしたトウモロコシやジャガイモを使用した「人間用の」商品には表示義務があります。
しかし、もととなった作物のタンパク質やDNAが検出されない状態になっている食品には、表示しなくてもよいという抜け道があるのです。
例えば豆腐や納豆の原材料欄には「大豆(遺伝子組み換え)」などと明記されています。
しかし、醤油や植物油、そしてソルビトールには表示義務がありません。
仮にソルビトールが遺伝子組み換えを施した原材料から作られていたとしても、食品パッケージにはひとこと「ソルビトール」と書かれているだけなのです。
それ以前の問題として、ペットフードには遺伝子組み換え作物の表示義務自体が存在しません。
ソルビトールどころかトウモロコシや大豆などがそのまま使われている場合にも、それらが遺伝子組み換えされたものなのかどうかを、私たちが知ることはできないのです(ただし、メーカー側が独自に公表しているケースもあります)。
そもそも遺伝子組み換えはなぜ危険視されているのでしょうか。
昔から、作物同士の掛け合わせなどによる品種改良は数多く行われてきました。
しかし、遺伝子組み換え作物の場合は、動物の遺伝子を作物へ入れ込むというように、自然の状態ではまず起こりえないはずの状況を人為的に作り出す作業が行われます。
このため、結果の予測が難しく、想定外の大きな健康問題が発生する可能性があると危惧されているのです。
遺伝子組み換え作物の害は、マウスを用いた実験で発ガン性などが指摘されてはいますが、まだまだ研究段階でありハッキリとしたデータが出揃っていません。
だからこそ、情報開示を訴える飼い主さんが大勢いるのです。
ソルビトールの原料に遺伝子組み換え作物が使われているのか、いないのか、それとも不分別なのかが分かれば、飼い主さんの裁量で選ぶことが可能になります。
ドッグフードの原材料欄に「遺伝子組み換え」と明記されていれば、心配な飼い主さんはその商品を避けることができます。
また、「確実に健康被害があると断定されるまでは気にしない」というのもひとつの考え方です。
知らず知らずのうちに愛犬に与えてしまうことと、自分の判断で選ぶということには大きな違いがあります。
2017年の日本において、素性のハッキリとしている添加物を使ったフードを購入することは非常に困難です。
しかし、アメリカを中心として、遺伝子組み換え作物の栽培は増え続けています(※)。
そのため、飼い主さんたちの不安も大きくなっているのです。
2017年現在、日本においては、商業的な遺伝子組み換え作物は作られていません。研究や開発のための栽培のみ行われています。
ソルビトールの危険性についての誤った情報
ソルビトールの危険性に関する話題で最もよく引き合いに出されるものに、イタリアの女性が亡くなったという出来事があります。
2012年3月に、イタリアでひとりの若い女性が亡くなりました。
彼女は医療機関で処方されたダイエット目的の薬剤が原因で死亡したとされ、当時はその薬がソルビトールであると報道されていたのです。
しかし後ほど、この女性を担当した医師が、ソルビトールを処方するところを誤って亜硝酸ナトリウムを出してしまっていたことが判明しました。
ネット上ではいまだに「女性の死因はソルビトールだった。すなわちソルビトールは危険な添加物である」といった論調のページもありますが、これは正確ではありませんので注意が必要です。
人工的な食品添加物というと、「化学的に合成」、「語源の分からないカタカナの名前」、「真偽不明の健康被害情報」など、何かと不安になる要素が多いものです。
特にワンちゃんたちは自分で自分の食べる物を選択することができません。
「愛犬の健康はすべて自分にかかっているのだ」と考えると、つい神経質になってしまうのも無理のない話です。
しかし、いたずらに恐れることも楽観視することもなく、冷静に事実を見極めて正しい知識を得ようとする姿勢が、愛犬の健康を守ることにも繋がるのではないでしょうか。
まとめ
ソルビトールの安全性について、現在公開されている情報から分かる範囲でご説明しました。
ソルビトールは、比較的安心して使用できる成分として位置づけられていることは間違いないでしょう。
しかし、それは現段階での話であり、これから先も健康被害がまったく確認されないという保証はどこにもありません。
ソルビトールを添加しているドッグフードやおやつをワンちゃんに与えるか否かは、飼い主さん一人ひとりの責任において判断しなくてはならない問題なのです。