ドッグフードの原材料「にんじん」
にんじん(ニンジン/人参)は中東の国であるアフガニスタンが原産とされ、西洋と東洋に伝わり別々の種類に改良されてきたという歴史を持ちます。
日頃私たちがもっとも食べる機会が多いと思われる、西洋をルーツに持つ「五寸にんじん」は年中スーパーに並んでいますので、季節を問わず簡単に手に入れることができます。
そのため、にんじんの旬はいつなのかを意識したことのない方も多いのではないでしょうか。
にんじんの旬は秋から冬にかけてで、この時期は最も栄養価が高くなり、甘味も増します。
緑黄色野菜の代表選手として私たちにもなじみの深いにんじんは、昔から「目に良い野菜」といわれてきました。そんなにんじんの具体的な栄養素の働きや、犬に与える際の注意点などについてご紹介します。
にんじんの栄養素
β-カロテン(プロビタミンA)
にんじんに多く含まれている栄養素の筆頭には、β-カロテンが挙げられます。
β-カロテンとは、緑黄色野菜や葉物野菜、果物など多くの野菜に含まれている脂溶性(水に溶けにくく、油に溶けやすい性質)の色素です。
にんじんが鮮やかなオレンジ色をしているのも、このβ-カロテンによるものなのです。
「カロテン」の由来は、ニンジンの英語名「carrot(キャロット)」から取られています。
このことからも想像できますが、にんじんには、β-カロテンという栄養素が豊富に含まれているのです。
にんじんが「目に良い野菜」と評されるようになった理由は、このβ-カロテンにあります。
β-カロテンとβ-カロチンは同じもの
先ほどから「β-カロテン」という栄養素についてご説明していますが、「β-カロチン」というよく似た言葉もあります。
一文字違いでややこしいこのふたつの言葉には、どのような関連があるのでしょうか。
β-カロテンについての詳細な解説に入る前に簡単にご説明します。
結論からいうと、「β-カロテン」は以前は「β-カロチン」と呼ばれていました。
2010年11月、「五訂日本食品標準成分表」においての表記が「 β-カロチン」から「β-カロテン」へと改められたのです。
理由はごく単純で、専門家を集めた協議の際に「より英語的な発音に近付けるため」にカロチンからカロテンへと改名されたということです。
β-カロテンとビタミンAの健康効果
β-カロテンは、小腸で吸収されるとビタミンAへと変化することから「プロビタミンA」とも呼ばれています。
β-カロテンがビタミンAとなると、健康に有益な様々な効果を発揮します。
もっとも代表的なものは、目に対する作用です。
ビタミンAには物の見え方を正常に保ったり、暗闇での視力をキープする働きがあります。
白内障の予防にも効果があるのではないかと指摘されており、不足すると白内障や夜盲症(※)にかかりやすくなります。
このため、もともと暗闇の中で物を見ることが得意なワンちゃんにとっては必須のビタミンだといえるでしょう。
犬も高齢化に伴い白内障が増加しているので、シニア犬にとっても積極的に摂りたい成分です。
この他にもビタミンAには、皮膚や粘膜を作り出し保護する働きや、皮脂分泌のバランスを取り皮膚の潤いを保ったり、フケを抑える効果などがあります。
口腔内や食道、胃、腸、肺などの粘膜を強化する作用により、風邪を始めとした感染症にかかりにくくなるというメリットも期待できます。
ビタミンAは抗酸化作用も強く、老化を促進させる活性酸素や有害な紫外線からワンちゃんの体を守ってくれます。
これらのことから分かる通り、病気や体質で普段から免疫力に不安のあるワンちゃんにとって、ビタミンAは心強い成分なのです。
また、粘膜が保護されると、粘膜が外部からの刺激を受けにくくなります。
粘膜への度重なる刺激はガンを誘発する一因ともなりますので、ビタミンAにはガン予防の働きも期待できるのです。
※夜盲症…明るい場所では通常の視力が保てていても、暗い所に限っては物が非常に見えにくくなるという症状のこと。
ビタミンAの過剰摂取について
ビタミンAは体にとって有用な栄養素ではありますが、取りすぎると害となる可能性もあります。
ワンちゃんは本来、ビタミンAを少しくらい多く取り過ぎても、影響を受けにくい動物であるといわれています。
しかし、まったく体に反応が出ないというわけではありません。
犬がビタミンAを過剰に摂取した場合に認められる症状には、吐き気や頭痛、関節の異常、発育不全、肝機能や繁殖機能の低下などが挙げられます。
では、β-カロテン(プロビタミンA)を多く含むにんじんを与え過ぎた場合にも、ビタミンAが過剰となってしまうのでしょうか。
答えはNOです。
基本的には、にんじんの与えすぎがビタミンAの過剰摂取に繋がることはありません。
その理由を詳しくご説明します。
ビタミンAにはβ-カロテンの他にもうひとつ、レチノールと呼ばれる成分があります。
β-カロテンが植物性食品に多く含まれているのに対して、レチノールは動物性食品(レバーなどが代表的)や魚介類に含まれています。
また、β-カロテンは体内でビタミンAへと変化しますが、レチノールはもとからビタミンAと同様の性質を持ちます。
このレチノールを摂る際には、ビタミンAの過剰摂取に気を付けなければなりません。
体が使い切れずに余ってしまったレチノール(ビタミンA)は腎臓へと溜まっていきますので、ビタミンAが過剰な状態となってしまいます。
しかしβ-カロテンの場合は、たとえ過剰に摂取してもそのまま脂肪の中に蓄えられ、出番を待ち続けます。
そして体内でビタミンAが足りなくなると、必要な分のβ-カロテンだけがビタミンAへと変化するのです。
このため、仮ににんじんを食べ過ぎたとしても、ビタミンAの過剰摂取はあまり心配することはないといえます。
ひとつだけ気がかりなことは、ガンなどへの対抗策として、人間が高濃度のβ-カロテンのみを含むサプリメントを大量に摂取したケースにおいては、体調に影響が出たり、逆にまったく効果を表さなかったという事例があるということです。
ワンちゃんが日常的にβ-カロテンの栄養剤を飲む機会は少ないと思われますので、あまり神経質になる必要はありませんが、念のために記述しておきます。
ルテイン
β-カロテンほどではないですが、にんじんにはルテインという色素も含まれています。
このルテインは、植物が紫外線から自らの身を守るために作り出す黄色い色素です。
パセリを筆頭に、ホウレン草やブロッコリーなどはルテインの宝庫といわれます。
ルテインも、β-カロテンと同じような健康効果を持っています。
すなわち、紫外線から目を守り、目の健康や働きを良好に保つ効果や、老化防止やガンなどの生活習慣病を予防する抗酸化作用などです。
こちらのルテインも、不足すると白内障になりやすいといわれています。
β-カロテンとルテインという2つの色素の働きにより、にんじんの健康への有益性は更にアップしているのです。
ちなみに、イギリスのチェスター大学で実施された研究によると、冷凍したにんじんからは通常に比べて3倍のルテインと、2倍のβ-カロテンが検出されたということです。
冷凍後はいつも通り調理をしても、増えた栄養価はそのまま残ります。
にんじんに含まれる栄養素を更に多く取り入れたい場合には、一度にんじんを冷凍してから使用することをオススメします。
にんじんを犬に与える際のポイント
ニンジンを犬に与える際には、栄養を効率よく吸収させるためのポイントと、いくつかの注意点があります。
β-カロテンは油との相性が良い
β-カロテンは水にはほとんど溶けませんが、油にはよく溶けます。
そのため、油と一緒に食べることで、吸収効率が上がるのです。
にんじんを使用してドッグフードを作ったり、トッピングをする際には油と一緒に調理することをオススメします。
特にオリーブオイルはにんじんと相性の良い油です。
オリーブオイルとβ-カロテンを一緒に摂取した場合、他の油と比べてβ-カロテンの吸収率が3倍以上になるといわれています。
しかし市販のドッグフードはもとより、一緒に使用する肉類などにも脂質は含まれていますので、摂りすぎにならないように、少量の油を使用するように心がけましょう。
食物繊維と糖分が多め
さすがは野菜なだけあって、にんじんは食物繊維も豊富です。
適度な量の食物繊維の摂取は、便通の改善や腸内環境の正常化、体に有害な物質の排出など、犬の健康に良い効果をもたらします。
しかし食物繊維は消化されにくく、腸内まで届きやすい成分です。
繊維を摂りすぎると逆に下痢や便秘、お腹の張りなどを誘発することがあります。
またにんじんは、ワンちゃん好みの甘い味がすることからも分かる通り、野菜の中では糖質が高めの部類に入ります。
このため、食べ過ぎると糖質が過剰となる危険性があるのです。
糖質による愛犬の肥満防止のためにも、にんじんの摂取量には注意が必要です。
生のにんじんにはご注意を
生の状態のにんじんには、「アスコルビナーゼ」(正確にはアスコルビン酸オキシダーゼ)という酵素が含まれています。
長いこと、
「アスコルビナーゼは、ビタミンCを壊す働きを持つため、生のにんじんと一緒に摂取した食べ物に含まれるビタミンCが減ってしまう」
といわれてきました。
しかし2017年現在において、その表現は適切ではないことが分かっています。
正確にいうとアスコルビナーゼは、還元型VCと呼ばれるL-アスコルビン酸を、酸化型VCであるL-デヒドロアスコルビン酸へと変えてしまうのです。
とはいっても、多くの酸化型VCは体内で再び還元型へと戻り、ビタミンCとして働きます。
アスコルビナーゼのせいで酸化型VCが一時的に増えても、ビタミンCの総量が減ってしまうわけではないのです。
それでは何が問題なのかというと、この酸化型VCは空気中では不安定になり、ビタミンCの性質を持たない別の物質「ジケトグロン酸」へと変わってしまうのです。
ジケトグロン酸が再びビタミンCへと戻ることはないため、この状態を「ビタミンCが壊れた」と表現することはできると考えられます。
このことから、生のにんじんに含まれるアスコルビナーゼは、なるべくならば避けたい成分であるとはいえるでしょう。
アスコルビナーゼの活性を止めるためには、2つの方法があります。
まずひとつめの方法は、加熱をすることです。
アスコルビナーゼは熱に弱いため、にんじんに火を通してあげれば、ワンちゃんに安心して与えることができます。
もうひとつは、酸性にすることです。
にんじんを生で与えたい場合には、すりおろして細かくしたにんじんにレモン汁やお酢を少量振りかけることで、アスコルビナーゼの働きを抑えることが可能です。
しかし、犬は甘味の次に酸味を敏感に感じ取ります。
これは、肉を始めとする食料がどの程度腐っているのかを、酸っぱい味やニオイから判断するためです。
酸味は犬が嫌悪感を持つ味であるため、食べてほしくない物や、噛んでほしくないものにレモン汁などをかけてしつけに利用することさえあります。
このように、犬は酸味を感じるものを避ける傾向にあるので、お酢などをかけたにんじんを嫌がるワンちゃんもいると考えられます。
葉っぱや皮も食べられる
店頭に並んでいるにんじんは、葉っぱが切り落とされているものがほとんどです。
一方、自宅で栽培をしている場合や、新鮮なにんじんを売っている直売所などでは、葉っぱ付きのにんじんが手に入ることがあります。
人間の食べる料理においても、にんじんはオレンジ色をした根の部分だけを使うことが一般的なので、葉っぱまで愛犬に食べさせてもよいものか、迷われる飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
しかし、にんじんの葉っぱにも、β-カロテンや各種ビタミン、ミネラルが多く含まれているのです。
運良く葉っぱの付いたにんじんが入手できた際には、細かく刻んでゆでてからフードに添えてあげましょう。
葉と同様に、にんじんの皮も食べられます。
しかし、農薬が付いてしまっていることもあるので、調理する前によく洗うようにしましょう。
また、皮は決して消化の良い部分ではありませんので、すり下ろすなどして可能な限り細かくしてあげたほうが、ワンちゃんのお腹に優しくなります。
まとめ
にんじんは甘みも強いため、ワンちゃんが喜んで食べてくれることが多い野菜でもあります。
ひとつ注意したいことは、犬はもともと早食いや丸飲みをする子が多いという点です。
普段はよく噛んで食べる子でも、自分がおいしいと感じる物を食べる時には、あっという間に平らげてしまうケースもあります。
喉へ詰まらせたり、消化不良の原因とならないように、愛犬ににんじんを与える際にはなるべく小さく切ることをオススメします。
食物繊維が豊富なにんじんは、犬にとって決して消化が容易な食材ではないということを忘れずに、調理方法を工夫して与えるようにしましょう。