ドッグフードの原材料「玄米」
お米が大好きな日本人の中においても、硬い食感や調理の手間などから、玄米は白米ほどの人気はありません。
しかし玄米は、ビタミンもミネラルも白米以上に豊富に含まれている、非常に栄養価に富んだ食品なのです。
白米ではなく玄米を選ぶ利点や、愛犬に与える際に注意したいこと、玄米のドッグフードへの利用状況などをご紹介していきます。
籾の殻を剥いたものが玄米
玄米は、稲の果実である籾(もみ)から表面の殻(籾殻)を剥いた状態の米です。
さらに玄米から糠(ぬか)や胚芽を取り除く(精米する)と白米になります。
上の写真が籾(もみ)です。
この表面の殻を剥くと、下の写真(右側)のような玄米が現れます。
左側が玄米を精米して得られる白米、右側が玄米です。
ツルリと白い白米に比べて、玄米は縦に入った筋が目立ち、茶色い色をしていることが分かります。
真っ白で柔らかな食感の白米と比べ、薄い茶色がかった玄米はボソボソと硬く、見た目にもきれいではありません。
浸水させなければならない時間も白米よりも長いですし、炊飯にも時間がかかります。
こうしたさまざまな理由から、玄米を敬遠する人も多いことでしょう。
しかし玄米には、ビタミンやミネラルが多く含まれている糠層(玄米の表面を覆っている種皮や果皮などいくつかの層の総称)や胚芽が残っているため、白米よりも栄養価に優れており、総合栄養食とまで呼ばれているのです。
次の項目では、玄米と白米の栄養素含有量を比較しながら、玄米の有用性について解説していきます。
栄養素が豊富な玄米
栄養素 | 単位 | 玄米 | 白米 |
---|---|---|---|
エネルギー | kcal | 350 | 356 |
タンパク質 | g | 6.8 | 6.1 |
脂質 | g | 2.7 | 0.9 |
炭水化物 | g | 73.8 | 77.1 |
ビタミンB1 | mg | 0.41 | 0.08 |
ビタミンB2 | mg | 0.04 | 0.02 |
ナイアシン | mg | 6.3 | 1.2 |
ビタミンE | mg | 1.2 | 0.1 |
カルシウム | mg | 9 | 5 |
カリウム | mg | 230 | 88 |
鉄 | mg | 2.1 | 0.8 |
銅 | mg | 0.27 | 0.22 |
食物繊維 | g | 3.7 | 0.6 |
上の表は、玄米と白米に含まれる代表的な栄養素を比較したものです。
エネルギーや炭水化物を除けば、ほとんど全ての栄養素が白米よりも玄米に多く含有されているということが分かります。
この中でも、特に玄米に多く含まれている栄養素を詳しくご紹介していきたいと思います。
ビタミンB1は白米の約5倍以上
グルコース(ブドウ糖)からエネルギーを産生するために不可欠な栄養素がビタミンB1です。
ビタミンB1が不足すると、エネルギーが満足に作れなくなり、少しの運動でも疲れを感じやすくなります。
玄米には、このビタミンB1が白米の約5倍も含有されています。
グルコースは、ワンちゃんの体のみならず、脳の動力源としても重要な成分です。
ビタミンB1をしっかりと摂ってグルコースの代謝を円滑にすることは、脳の働きを正常に保つことにも繋がります。
もちろん全世代のワンちゃんにおいて大切な成分ではありますが、特に認知機能の衰えが心配なシニア犬や、さまざまな物事を学習中の子犬などには積極的に摂取させたい栄養素です(子犬は成犬の2倍ほどのビタミンB1を必要とするともいわれています)。
さらにビタミンB1には、尿を排泄しやすくする、筋肉の弛緩と緊張をスムーズに行う、血圧や心拍数の過剰な上昇を防ぐといった作用もあります。
ビタミンB1についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。→ドッグフードのビタミンB1の働きとは?欠乏した犬はどうなるの?
数々の酵素の働きを助けるナイアシン
玄米のナイアシン含有量も、白米の5倍以上です。
ナイアシンは、「ビタミンB3」という名称で呼ばれていた時代もありました。
このエピソードからも分かる通り、ナイアシンはビタミンB群の仲間です。
ビタミンには多くの種類があり、混乱をさけるために「ナイアシン」と呼ばれるようになりました。
体内に存在する400以上の酵素の働きをサポートすることが、ナイアシンのメインの役割です。
特に、炭水化物、脂質、たんぱく質の燃焼を助け、効率的にエネルギーを産生することに関与します。
また、セラミドという肌のバリア機能を持つ成分を合成し、外的な刺激(紫外線など)からワンちゃんの皮膚を守ってくれます。
さらに皮膚や被毛の水分を保持することで、適度な潤いを与えてもくれるのです。
ナイアシンにはその他にも、毛細血管を開いて血流を改善し、冷えや肩・首のコリなどを緩和してくれる作用も認められています。
ナイアシンに関して、詳しくはこちらの記事をご確認ください。→ドッグフードの栄養素「ナイアシン」の働きとは?欠乏は命の危険も!
抗酸化作用に優れる.ビタミンE
ビタミンEは、活性酸素(酸素が不安定になり、非常に変質しやすくなった状態)に、ワンちゃんの脂肪や細胞が酸化されることから保護する役割を持ちます。
活性酸素に酸化された脂肪は過酸化脂質と呼ばれ、体内の細胞を連鎖的に錆び付かせてしまいます。
これにより、いわゆる生活習慣病(ガン、糖尿病、心臓病、高血圧など)や、アレルギーの発症、老化の加速といったさまざまな健康被害がもたらされるといわれているのです。
ビタミンEは脂肪や細胞に代わって自分が酸化されることにより、ワンちゃんの体内が錆び付くことを防いでくれます。特にビタミンEは、酸化しやすい脂質から構成されている細胞膜(細胞の最も表に存在する膜)を強力にガードするといわれています。
さらに血管内の酸化も防ぐことから、血行促進に繋がり、貧血の予防効果も期待できるでしょう。
またビタミンEは、スムーズな妊娠や出産を助けたり、ホルモンバランスの乱れを整えるなど、特にメスのワンちゃんにとっては嬉しい栄養素でもあります。
このビタミンEが、玄米にはなんと白米の12倍も含まれているのです。
ビタミンEについての詳細はこちらのページをご覧ください。→ドッグフードの栄養素「ビタミンE」の働きと過剰・欠乏について
鉄も豊富だが非ヘム鉄であるところが難点
鉄(鉄分)は、赤血球中に存在する赤い色素「ヘモグロビン」の材料となり、ワンちゃんの全身へと酸素を巡らせる働きを持ちます。
また、ミオグロビンも合成し、筋肉中に酸素を蓄え、必要な時に供給することにも関与しています。
玄米にもこの鉄が多く含まれていますが、植物性食品である玄米の鉄は非ヘム鉄という種類に属し、体内における吸収性はお世辞にも良いとはいえません。
植物性食品に含まれる非ヘム鉄に対して、動物性食品の鉄はヘム鉄と呼ばれます。
ヘム鉄は食品中に存在している時からすでにタンパク質に覆われており、体内での吸収率が高いことが特徴です。
同じヘム鉄の中でも食品によって吸収性は異なりますが、例えば牛肉の鉄の吸収率は約22%程度であるといわれています。
これに対して、非ヘム鉄である玄米の鉄の吸収性は2%ほどと、非常に微々たるものです。
白米と比べると3倍近い含有量を誇る玄米の鉄分ですが、吸収率を考えるとあまり期待はできません。
鉄の吸収性をアップさせるには、タンパク質やビタミンCを多く含む食べ物を同時に摂ると良いといわれています。
ワンちゃんは肉や魚から多くのタンパク質を摂取する動物ですし、人間と異なりビタミンCを体内で合成することが可能です。
そのため、鉄分を吸収しやすい栄養バランスになりやすいことは間違いありません。
とはいえ、やはり吸収率の面からいえば、鉄を摂取させたい場合には動物性食品(レバーや赤身肉などの肉類や、カツオ・マグロなどの魚類)を与えた方が効率的でしょう。
不溶性食物繊維の含有量が高い
玄米は、白米の約6倍もの食物繊維を含有しています。
そのため、与えすぎは消化不良(下痢、軟便、嘔吐、お腹の張りなど)の原因となりますが、ワンちゃんの健康に有益な点も多く存在するのです。
まず、豊富な食物繊維のお蔭で糖質の吸収スピードが緩やかになり、血糖値が上がりにくくなります。
食後の血糖値の急激な上昇は、糖尿病や肥満の要因ともなるため、これらの症状が気になるワンちゃんにも玄米は比較的与えやすい食品です。
現に、玄米が使われている糖尿病や体重コントロール用のドッグフードは多く販売されています。
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられます。
水溶性食物繊維はその名の通り、水に溶ける食物繊維のことです。
水溶性食物繊維は水分を含むとゲル状になり、便を柔らかくして排泄しやすくする働きを持ちます。
腸内に生息する善玉菌(健康に有益な細菌類の総称)のエサとなることによって、善玉菌を増やし、腸内環境を良くする作用も確認されています。
対して不溶性食物繊維は、水に溶けない食物繊維です。便のかさを増し、適度な硬さに固める作用を持ちます。
腸壁へ適度に刺激を与えることによって、スムーズな排便へと導いてくれる効果もあります。
どちらの食物繊維にも、老廃物や有害物質を便とともに体外へと排出しやすくする作用があり、また、食事のかさを増すことによって、食いしん坊のワンちゃんでも満腹感を得られやすくなるというメリットもあるのです。
この2種類の食物繊維は、どちらか一方だけを摂取すればよいというものではありません。
水溶性食物繊維ばかり摂っていては便が緩くなりすぎますし、不溶性食物繊維ばかりでは便が固まりすぎて便秘に繋がる可能性もあります。
人に対して推奨される食物繊維のバランスは、水溶性:不溶性が1:2の割合です。
もちろん個人差はあるでしょうが、便の硬さや排泄のスムーズさなどに最も好影響を与えるのがこのバランスであるといわれています。
玄米の食物繊維のバランスは、水溶性食物繊維が0.7g、不溶性食物繊維が3g(玄米100g当たり)と、不溶性食物繊維が多く含まれています。
もともと便秘がちのワンちゃんや、胃腸の調子が悪いワンちゃんなどは、かえって便秘を起こす可能性もありますので、玄米の摂取を控えさせるか、様子を見ながら少量を与える程度に留めましょう。
玄米特有の栄養素であるγ-オリザノールとフィチン酸
糠や胚芽が残っている玄米には、白米にはほとんど含有されていない成分も含まれています。
そのひとつがγ-オリザノール(ガンマオリザノール)です。
γ-オリザノールは1954年に発見された比較的新しい成分であり、糠(ぬか)に多く含まれています。
熱への耐性に優れているγ-オリザノールは、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を低下させ、HDLコレステロールの量は増加させる働きがあります。
さらに体を酸化から守り、脳機能の正常化にも役立つなどといった多くの研究報告が上がっている成分です。
もうひとつは、フィチン酸(イノシトール6リン酸/IP6)です。
フィチン酸には、血液の凝固を抑える働きがあり、血栓が作られることを防止する働きがあります。
また、強力な解毒作用を持ち、体内の有害物質(鉛や水銀など)を体外へと排出する作用にも優れています。
このフィチン酸はもともと、外的な毒物から稲の種子を保護し、無事に発芽させるために存在しています。
そのため、稲の発芽とともに役目を終えて消失する成分です。
こちらも糠に多く含まれており、白米に精米してしまうと大半が失われてしまいます。
フィチン酸は亜鉛や鉄といったミネラルと強力に結合する性質を持っているため、体内のミネラルまでをも排泄してしまうのではないかと心配する声も上がっています。
この声への反論としては、
・フィチン酸は玄米に含まれている時点で、既に玄米のミネラルと結合しているため、体内のミネラルを根こそぎ奪うことはできない
・玄米を食べさせた後でも、体内のミネラル濃度には変化がなかった(動物実験の結果)
などの意見があり、現在(2017年12月)においてもさまざまな考え方が入り乱れている状態です。
糖尿病用、アレルギー用のドッグフードに使用されることが多い
日本国内において、穀物類のドッグフードへの使用は、玄米よりもトウモロコシや小麦が多いのが現状です。
その理由は、日本国内では米の価格が高いため、気軽にドッグフードへ使用できないということが挙げられます。
海外では米が安く手に入る国も多いためこの限りではありませんが、やはりドッグフードといえば、小麦やトウモロコシが使用されていることが大半でしょう。
とはいえ、糖尿病や体重コントロール用のフード、アレルギー対策用フードには、玄米は比較的多く使用されています。
前述通り、玄米は血糖値を上げにくい食品であるため、糖尿病のワンちゃんや肥満傾向のワンちゃんにも安心して与えることができる食べ物です。
また、小麦やトウモロコシと比べるとアレルギーを起こしにくいといわれており、他の穀類が食べられないワンちゃんでも食べることが可能です。
ただし、玄米でもアレルギーを発症する子はいますし、糠や胚芽が取り除かれている白米よりはアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因となる物質)となりやすいともいわれています。
「玄米はアレルギーを起こしにくい」という言葉に安心せずに、常にワンちゃんの体調の変化に気を配ってあげましょう。
米には玄米の他にも、白米や黒米、赤米といった古代米、さまざまな穀物や豆類をブレンドした雑穀米など色々な種類がありますが、ドッグフードへの使用頻度の最も高いものは玄米です。
玄米を使用したフードは、ドライ、ウェットを問わず販売されています。
玄米を使用する目的は、栄養の強化やフードのかさ増し、血糖値上昇の抑制、アレルギーを起こしにくくするためなどさまざまです。
ドライフードにおいては、加熱した玄米の粘りによって形を作ることが簡単になる(=つなぎの役割をする)というメリットもあります。
また玄米は、おせんべいやビスケット、クラッカー、ジャーキー、歯磨きガムなど、さまざまなワンちゃん用のおやつにも使われています。
昔の駄菓子屋さんの定番だったポン菓子(※1)をワンちゃん用に商品化したものまでもあり、懐かしさを覚える飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
※1 ポン菓子・・・生米を加熱、加圧してから一気に減圧することにより弾けさせ、何倍ものサイズに膨らませて作るお菓子のことです。減圧時に「ポン!」という大きな音が出るため、ポン菓子と呼ばれます。パフ、ポップライスなどといった方が、若い方には通じやすいでしょうか。
残留農薬への不安
「愛犬に栄養素豊富な玄米を与えたいけれど、残留農薬が心配」と悩まれている飼い主さんも多いことと思います。
確かに玄米には、農薬が残留している可能性があります。
農薬には、除草剤や殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤など多くの種類があり、これらは籾殻以外では糠層に最も残留するといわれています(籾殻は玄米にも白米にも残っていないため、考えから除外してよいでしょう)。
すなわち、糠を取り除いた白米に比べて、玄米には農薬が多く残っている可能性が高いということです(ただし、米研ぎや炊飯によって残留農薬の量は次第に減ります)。
日本では、米の残留農薬の量は法律で厳しく制限されており、一日摂取許容量(ADI)(※2)を上回った米は出荷できないことと決められています。
しかし、これはあくまでも人間に対する数値であり、ワンちゃんには適用されません。
また、輸入される穀物などに使用される可能性のあるポストハーベスト農薬の心配もあります。
ポストハーベスト(Postharvest=収穫した後)農薬は、刈入れ後の穀類などに対して使われる農薬であり、保管や輸送中の農作物を害虫や細菌などから守る目的で使用されます。
こちらも残留する農薬の種類や量が規定されてはいますが、残留がゼロではないものも多いため、不安に思う人は多いでしょう。
米に限らず、野菜や果物なども残留農薬と無縁ではありません。
そのため、心配をしだしてしまうとキリがないという意見があることも事実ではありますが、かわいい愛犬に食べさせるものですから気になるのも当然でしょう。
心配な飼い主さんは、無農薬栽培された玄米や、残留農薬ゼロであることを明記してある玄米を選ぶようにすると安心です。
ドッグフードに使用されている玄米には、そこまで細かな表示がなされていることは稀だと思われますので、せめて「人間が食べることのできる素材を使っています」、「ヒューマングレードの原材料を使用」などといった文言が書いてあるものを選ぶようにした方がよいでしょう。
※2 一日摂取許容量(ADI)・・・その物質を毎日欠かすことなく食べ続けても、一生涯健康被害が出ないと考えられる摂取量のことです。ADIは「Acceptable Daily Intake(許容可能な一日の摂取量)」の頭文字を取ったものです。
まとめ
小麦などにアレルギーのあるワンちゃんに与えることもできますし、血糖値を上げにくいため肥満の予防にも最適です。
多くの魅力を持った玄米ですが、消化性や残留農薬の存在から、愛犬に与えることを躊躇してしまう飼い主さんもいらっしゃることでしょう。
胃腸の調子が優れないワンちゃんには与えることを見合わせる、メーカーが公表する情報をよくチェックして安心できる商品を選ぶことなどを心掛け、玄米を上手に利用しましょう。